エピローグ~1
異例ながら、かの洗礼式の日に礼拝堂に女神の使いが現れ、『女神の契約』がなされたという。
アンナローゼよ
洗礼に当たり女神の契約について…
女神様よ
いたしません
アンナローゼよ
まだ、何も言っていない
とりあえず話を聞け
エルンハイムに未曽有の災厄が襲うとき、女神は誓約により力を貸す
女神様よ
そして聖女は犠牲になれとおっしゃいますか
アンナローゼよ
言わぬ
我が力が不要なら使わずともよいのだ
女神様よ
災厄は必ず来るのですか?
アンナローゼよ
女神の力が必要なほどの災厄は滅多にないが
聖女にはそれを知る力が宿る
女神様よ
兆しはあるのですね
アンナローゼよ
時が来たれば、そなたの守り石は砕けるであろう
すまぬが、あまり時間はない
女神様よ
国を守れと言わぬのですか?
アンナローゼよ
言わぬ
国は人なり
人は国なり
そなたが選ぶがよい、強制はない
女神様よ
ずるいお方だ
私は国が何かなど知りません、けれど
愛する方のためならばその力を使いましょう
アンナローゼよ
そなたは逃げぬのか?
女神様よ
逃げてあまたの人々が苦しむのを見よとおっしゃいますか?
アンナローゼよ、健気なる聖女よ
もしもそなたがその命を捧げるならば
せめて来世に望みを叶えよう
女神様よ
ひとつだけお願いがございます
アンナローゼよ
そなたは何を願う
女神様よ
みだりに人の子にお手をお貸しくださいませぬよう
アンナローゼよ
人の力ではどうしようもないこともあろう
女神様
先の疫病はどうでしょう?
人の力で克服すれば次の病害に備えられたのでは
アンナローゼよ、賢い聖女よ
人の子は痛みを知るべきなのだな
その覚悟があるのだな
女神様よ
あなたのお優しさに人は甘えすぎたのです
いつかは自らの力だけで苦難を乗り越えねばなりません
アンナローゼよ
わかった、善処しよう
そなたの来世に望みはないのか?
恋しい男に会いたくはないのか?
女神様よ
たった十日の恋でした
あの方を縛るつもりはありません
アンナローゼよ
人を愛するのに時の長さは関係あるのか?
女神様
思いの深さに時は関係ありません
しかし、この不自由な身となるならば、いっそ心をなくしていただきたかった
アンナローゼよ
私が縛っているのではない
女神の威光を使ってはいるが人の子の都合だ
打ち破るがよい
生きよ、思うままに
女神様…
なんだ? アンナローゼ
もう少しここにいてもいい?
涙が止まらないの
気の済むまでいるがよい
しばし、時を止めよう
そしてこの後、前代未聞の『聖女による洗礼式脱走(駆け落ち)』事件が起きるのである。




