乙女の盾~3
この時のことは若い魔導士の記録に残されている。
若さゆえか筆致が粗く片寄りがちではあるが、聖女に関する観察記としては唯一のものだ。
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聖女様は我らが結界の外へと出たのを見ると、朗々と海まで響く声で歌われました。
どこの国の言葉かはわかりませんが、女神様の力が宿る歌なのでございましょう。その空間すべてを結界化するものと思われます。同時に隕石の爆発力を相殺してゆく力が働いたようでした。我々にはまだない技術ですので是非とも開発すべきと考えます。
五百年前の記録がありませんので、隕石の規模は比較できませんが、もし地上に落下した場合、ローエンダイムもエルンハイムも広範囲が焦土と化したのは間違いないでしょう。
その巨大な隕石を、聖女様は見事に防ぎ切りました。驚くべきことです。
ただし、正確な軌道がわかった時は、落下まで時間がなく住民の避難は一部にとどまりました。それが今後の課題と思われます。
あのような幼い聖女様にすべてを託さねばならなかった我が軍団は、それを恥とし、二度とこのような事態を起こさぬよう、日々の研鑽を積むべきものと僭越ながら進言させていただきます。
聖女様は美しゅうございました。お姿だけでなくお心も、それはそれは美しゅうございました。
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この記録にはラビオのことは書かれていない。
聖女に駆け落ち相手がいてはまずいと思ったのか、それとも二人だけの秘密にするべきと思ったのかもしれない。
静けさが戻った祈りの丘
隕石や岩の欠片は転がっていたが、大きな損壊もなく緑の丘は美しさを保っていた。
やがて朝日が差そうという丘の頂上に、ラビオは疲れ果てたアンナローゼを膝の上に抱きかかえ座っていた。
「ラビオ、私、頑張ったでしょ」
「ああ、頑張ったな」
「ご褒美ちょうだい」
ラビオは乾いた唇に静かに触れた。
「ねぇ、美乳ってどれくらいの大きさ?」
「大きさじゃねえよ」
「柔らかいの?」
「ちげえよ、好きな女のおっぱいが一番だ」
「そうなんだ。ねぇ、ラビオ、どこ?」
「ここにいる」
ラビオにはもう彼女の重みはほとんど感じられず、その体は少しずつ光の粒となって霧散していく。
「生きてね、まだまだたくさん楽しいことあるんでしょ」
「行くな」
「大丈夫だよ、きっと綺麗なおっぱいに出会えるよ」
「そんなもんいらねえよ、行くな、アンナ」
小さな体を抱きしめたけれど、光の粒は指の間からこぼれ、風に乗り空へ向かって飛び去って行った。
「くそったれ!」
ラビオが吠える声が丘に響いた。
「クソ女神、てめえ、こんな子供に何を吹き込みやがった!」
その後は聞くに堪えない罵詈雑言が女神に浴びせられた。だが、聞いていた魔導士たちは誰も止めなかった。
ここにいた者すべて、いや国民すべてが救われたというのに、彼女を救える者は誰もいなかったのだ。
水平線から朝日が昇った。
これほどに虚しい朝日をラビオは見たことがなかった。




