乙女の盾~2
「避難は…間に合いませんね」
呟いてアンナローゼは若い魔導士を振り返った。
「位置が正確に捕捉できたのが昨日ですので、それからではいたずらに混乱を引き起こすだけかと」
「魔導士だけでなんとかなると思っていますか?」
「なんとかしてみせます!」
「根性でなんとかなる問題じゃないでしょ、この規模では国一つ消えてもおかしくないわ。皆に伝えて。一旦、引くようにと」
「姫様、ダメです」
「解析が済んでいるのならわかるはず。すべてをイージスで防ごうとすれば、魔導士団は壊滅します。予想より大きいものが落下したら、被害は計り知れない」
「おやめくださいっ、侯爵様のご命令です」
「お父様が? 私を利用するためにこの場に残したのでしょう。あなたに見張らせて」
「違います! 誤解なさってます。侯爵様は公には『聖女を守れ』と命じていましたが、私共には『アンナローゼを頼む』と頭を下げておっしゃっていました」
「では、お父様に伝えてちょうだい。私は国のために死んだりしないと」
アンナローゼは若い魔導士に微笑みかけ、命じた。
「行きなさい、命令です。あなたたちは女神の眷属でしょ、今はお父様より私が上位のはず」
魔導士は逆らえず、仕方なく前線へと飛び出して行った。
(私だっていやよ。いやに決まってるじゃない)
「アンナ!」
(もー、なんで来ちゃうのよ! 泣きたくないのに)
努めて明るく振舞おうとしていたのに台無しだ。アンナローゼの背後にはラビオが立っていた。
「やめろ、おめえがやることじゃない!」
「ごめんね、行かなきゃ」
「この国の奴らは聖女なんてわかっちゃいないんだ、こんなときばっかり頼りやがって、おめえが命を賭ける必要はねえぞ」
アンナローゼは弱々しく首を振った。
(やめてよ…やっと諦めたんだから)
「言ってたじゃねえか、お国のために死ぬ気はないって」
「そうよ」
「こっち来い! 逃げるぞ、あ?」
ラビオはアンナローゼの手を引っ張ろうとしたが、厚い空気の壁に阻まれて手に触れることさえできない。すでに対人結界が張られているようだ。
「ありがとうラビオ。楽しかったよ、幸せだったよ。本当は行きたくなんかない、コクミンなんか知らない。でも…でも、私が行かなきゃ、ラビオが死んじゃう」
「おまえは聖女なんかじゃねぇ、俺の女だっ!」
結界の壁を叩きながらラビオが叫んだ。
アンナローゼは笑おうとしたが、その顔は涙でぐしゃぐしゃに崩れていた。
瞬間、頭上が真昼のように明るくなった。
振り返ると巨大な火球が、いや、この大きさは隕石が近づいてくる。
(でかっ、女神の力でも防げるかしら)
この業火に焼かれる人々を思うと、アンナローゼはただ前を向き、祈りの丘の頂上へと駆け上がって行った。




