祈りの丘にて~4
それはまるで
大鷲と巣の中でくつろぐ小鳥。
けしてお似合いとは言えないけれど、二人はまるで気にしない。
公爵のはからいで、二人は見つかることもなく、例え見つかっても邪魔されることもなく…あの黒猫のケインさえ遠慮するほど睦まじく過ごしている。
やがてラビオの傷も癒えていった。
しかし、ラビオはらしくもなく…のらりくらりと甘えるアンナローゼをかわしていた。
「なんつうか、聖女さんてのは畏れ多くてなぁ」
差し込む満月の光に浮かぶアンナローゼは、まだ幼さを残しながら儚くも美しく…ラビオが触れるのをためらうのも無理はない。
「あ、もしかして」
「ああん?」
「男の人とアレしちゃうと聖女じゃなくなるとか思ってる?」
アンナローゼにそっと耳元で囁かれ、ラビオはぶーっと吹き出してむせ返った。
「おまえなあ。いちおう侯爵の姫さんなんだろうが」
「そんなの関係ないもん。ケインが言ってたわ、マチルダが前世で聖女の証が現れたのって、もう公爵様とお付き合いした後だったんですって」
「あの種馬公爵は昔っから手が早かったんだな」
ラビオは溜息をついて、アンナローゼの肩を抱き寄せると、そのまま乱暴に顔を仰向かせ唇を押し付けた。
生々しさに怯えるアンナローゼの震えが伝わってくるが、抱きしめた力を緩めなかった。体を離した後も彼女は目を見張って小刻みに震えている。
「こういうこった。おめえの知ってるキスなんざ、子供の挨拶なんだよ」
「…ラビオの馬鹿」
「は?」
「こんなことばっかりしてたんでしょ。ずるい、私のこと子供扱いして。どこの女と遊んでたの!」
「いやいやいや、俺もいい歳の男なんだから勘弁してくれよ」
「ウソよ」
アンナローゼはくすくすと笑いながらラビオの胸に顔をうずめた。
「すごいわ、気持ち良かった。でも、なんか、変な感じ」
強がりを言って細い腕で強くしがみついてくる。それでもラビオはまだ迷っていた。大人になり切れていない少女を思うままにしていいものか。
「本当は言いたくなかったけど」
「なんだよ」
「愛してる…もうっ、ラビオに先に言って欲しかったのに」
「そんなもん、言わなくてもわかることを」
愛おしさには敵わない。小動物のように胸にうずくまる少女にラビオは微笑みかけた。
「俺も初めてだから知らんが、たぶん相当、痛ぇぞ。明日は歩けないかもしれねぇ」
「初めてなんて、うそでしょ」
「初めての女は、初めてなんだよ。アンナ、本当に俺でいいのか?」
「言わなくてもわかってることを訊かないで」
ラビオは気付いただろうか。アンナローゼの性急さ危うさの意味、そして二人の時間がじきになくなることに。
それを思い計るにはあまりに若く、ただ目の前の幸せがすべてだった。
だがその日はやってきた。
新月の夜
深夜十二時を過ぎたころ、アンナローゼの母の形見のペンダントが砕けた。




