祈りの丘にて~3
アンナローゼとラビオが連れて行かれたのは、警備隊の詰め所などではなく、こじんまりとした家だった。
(どうも芝居がかってると思ったら、警備隊も事情を知ってたのか)
ほとぼりを覚ますためにと公爵が用意した隠れ家だ。ラビオの怪我を癒すのにもちょうどいい。アンナローゼの力を使うと、魔導士たちに嗅ぎつけられる恐れがあるので、口の堅い公爵家の医者が呼ばれた。
「ね、ラビオ」
「あんだ」
だが、元気いっぱいのアンナローゼはなかなかラビオを休ませてはくれない。
「ねえってば」
「あんだよ」
「二人きりなのに、何もしないの?」
「寝かせてくれ」
ベッドの中のラビオは気のない返事をした。
「俺の女になれって言ったじゃない」
(まいったなぁ)
キスして、抱いて、笑って、そんな風にあしらえばたいていの女は満足する。だが、この娘にそれはしたくない。
それに恐らく彼女は、具体的に何をするのかわかっていないだろう。
そのくせどこで聞いたのか、貴族の姫君らしからぬ妄想だけは膨らんでいる様子だ。
「ねえ、なんで…私が、その、つるぺただから?」
ラビオは腹を抱えて苦しそうに笑い出した。
「やめろって、傷口が開きそうだ」
「笑わないでよ、ばかぁ」
「違うよ、おめえが大事だからだ」
ベッドに潜り込んできたアンナローゼをそっと抱きしめた。彼女は力を入れたら壊れそうにか細い。
「でも、男の人は大きい方が好きでしょ」
「俺は美乳派だ、でかきゃいいってもんじゃない」
「ほんと?」
「それに、ほら、おまえにそっくりなマチルダだってけっこうでかくなってきてたし、おまえもそのうち」
「もう、やだ! どこ見てたのよっ」
たいていこんな感じで痴話げんかになる。
(僕は何を見せられてるんだろ。てか、ラビオはなんで自ら地雷踏みに行くのかね。俺の女どころか、すっかり尻に敷かれてるし)
黒猫ケインは偵察と称して、屋根裏から二人の様子を覗いてはマチルダに報告していた。マチルダはその痴話げんかがいたくお気に入りで、いつも楽しそうに聞いていた。
エルンハイムよりさらに堅苦しいローエンダイム公爵家で、アンナローゼとの日々を懐かしく思い出しながら。
「ねぇ、ラビオ」
「あんだ?」
「私のこといつから好きだった?」
「さあな」
「私は最初に会ったときから好きだったわよ」
「嘘つけ、おまえはあんときクロードに夢中だったじゃねぇか」
「あんなの…誰でも良かったの。マチルダには悪いけど、あの公爵はどうしても好きになれなくて」
「そうか」
「ねぇ、ラビオってば」
「最初に会ったときに決めてたよ、おまえを守るのは俺だって」
やっとラビオが根負けして、アンナローゼは言って欲しい言葉を引き出した。
ラビオは天井を睨みつけたが、甘すぎる夜に黒猫は当に退散していた。




