祈りの丘にて~2
「待て待てぃ、何事か? ここはローエンダイム領であるぞ、勝手な真似は許さん!」
「怪しいものではござらぬ、我らはエルンハイム騎士団である」
「我らはローエンダイム国境警備隊、いったいなんの騒ぎなのか」
(あっぶねえ、間に合ったようだな)
「ややっ、その馬は公爵様の愛馬『グリーングラス号』ではないか。さては貴様、通報のあった馬泥棒だな。取り調べる故、警備隊の詰め所へ来てもらおう」
「お待ちください、その男は構いませんが、お嬢様はお返しください」
「お嬢様?」
「その方はエルンハイム侯爵の…」
言いかけて騎士団の長はしまったと口をつぐんだ。
「エルンハイムの姫君なら、結婚の準備のため公爵邸にいらっしゃるはずだが、この娘はどなたのお嬢様なのだ?」
「いや、それは」
アンナローゼの名を出すことはできない、ましてや聖女などとはけして口にはできないことだ。
「公爵様の愛馬を盗むとは許しがたきこと。見過ごすわけにはいかん。この両名はローエンダイム国境警備隊で預かる」
爵位の差がモノを言った。公爵家の当主は王族だ。侯爵家は臣下にあたるので騎士団といえども逆らうことはできない。
ここに騎士団長、アンナローゼの兄がいたら状況は変わっていたかもしれない。しかし、今日の式典のため彼は警備には加わっていなかった。
(ケインのやつ、そこまで読んでいたか。猫のくせにやるじゃねえか)
ラビオは表面上はしおらしく、警備隊に連れられて祈りの丘を下って行った。そして騎士団はそれを見送るしかなかった。
「おい、魔導士ども」
騎士団の長が忌々しげに声を発した。
姿を消していた魔導士たちが数名、姿を現した。
「なんですか?」
「何故、加勢しなかった」
「私たちはアンナローゼ様の護衛を仰せつかっております。あの方を捕まえるのは私たちの仕事ではありません」
「なんだと? では危害を加えれば我々でも容赦しないと言うのか」
「厳密に言えば聖女様の護衛です。聖女の存在を犯す者は亡き者にしてよいと承っております」
「誰にだ? おまえはさっきから誰のことを言っている」
魔導士たちは答えず、その姿を消してしまった。




