洗礼の儀式~3
「まずはですね」
ケインはしたり顔でラビオに『作戦』を語り出した。
「修道院の庭の扉は滅多なことでは開きませんが、洗礼式などの行事の時はえらいさんの馬車を入れるために開いています。つまり洗礼式の日なら馬で乗り付けることができるんです」
「なるほど、それがワンチャンってことか」
「修道院では魔導士の魔法は使えませんし、衛兵も限られているはずです。侯爵の屋敷から連れ出すより警備は手薄でしょう」
「だがそれで逃げられるのか? 扉はすぐ締められちまう」
「僕が生垣をカットしておきますから、そこをジャンプして逃げてください」
ケインはさらっと言ったが、それほど簡単なことではない。
「俺とアンナを乗せてジャンプできる馬なんて、そう簡単に見つかるかよ。エルンハイムにはまずいねえぞ」
「ローエンダイム公爵は馬のコレクションで有名なんですよ。公爵に借りてきましょう。確か去年のチャンピオン馬をお持ちのはず」
「そんなすげえ馬を貸してくれるか?」
「アンナ様のためなら『できるだけのことはする』って言ってましたから、馬くらい」
「そりゃ頼もしいな」
ケインはマチルダからかなり詳しく聞いているのか、式典の手順と隙を付けるタイミングを知っていた。
「そして、ここが一番大事です」
「なんだ」
「とにかく全速力で逃げてください」
「当たり前だろう」
「アンナローゼ様を後ろに乗せていれば、いきなり攻撃はしてこないと思いますが、万一ということがあります」
「万一?」
「聖女を他国に取られるくらいなら…」
「侯爵は実の父親なんだろ、そんなことまでするか?」
「だと、いいんですけどね」
ラビオはその作戦通りに、アンナローゼを乗せてひたすら走っていた。
彼らが修道院を離れると、騎士団が追手として放たれた。姿は見えないが魔導士たちも追っているはずだ。
「どこへ行くの?」
「祈りの丘だ」
祈りの丘は聖女伝説の文字通り聖地だが、見晴らしがいいので観光地でもある。道は広く走りやすいがそれは追手にとっても同じ。
そして、ローエンダイムとエルンハイムの国境にあった。
「ラビオ、血が。怪我してるわ」
「衛兵が斬り付けてきたからな、それくらいなんでもねえよ。よし! 見えてきたぞ」
美しい緑の丘が見えたとき、彼らの後ろにエルンハイム騎士団の姿が迫っていた。




