洗礼の儀式~1
港の岸壁にずらりと揃った騎士団が居並ぶ中、アンナローゼが一人歩いて行く。ラビオはそれを船の上からぼおっと眺めているしかない。
風に乗り、か細い歌声が聞こえてきた。
それは聖女の歌ではなく、アンナローゼの別れの歌だった。
「なんか、がっかりですね」
人の形に戻っているケインが声を掛けてきた。
「やる時はやる人だと思ってたんすけど、案外ヘタレっすね」
ラビオはじろりとケインを見たが何も言わなかった。そんなことは自分がいちばんわかっている。
「このままでいいんですか。あの方が黙って連れて行かれたのは、あなたがお尋ね者にならないようにですよ。クロードの時と同じだ」
「わかってるよ。だからどうしろってんだ、アイツの家の問題だろ。お貴族さんのやることに付き合えねえよ」
「ふうん、じゃあ、マチルダ様からの伝言がありますけどいりませんか?」
「なんだよ、今さら」
「アンナ様のいないところであなたにだけって話なんですけど、あなた方、ずっといちゃついてたから」
「ケンカ売ってんのかこの野郎、早く話せ」
ケインはアンナの前世について話した。聖女となったマチルダの代わりに嫁がされ、公爵から打ち捨てられた存在だったこと。父親もわからぬ子供を産み、失意のまま若くして亡くなったことなど。
「あの種馬公爵はクソだな」
「じつは、アンナローゼ様が聖女になったのは、マチルダ様のせいかもしれないんです」
「そんなことができるのか?」
「マチルダ様が前世で聖女になったとき女神と契約したと言いましたよね」
「命を捧げる代わりに来世ではってやつだろ」
「そのときうっかり『アンナも同じ悲しみを知ればいいのに』って言っちゃったんですって。アンナ様の境遇をご存じなくて、つい恨み言が出たんでしょうね」
「それを女神が真に受けた?」
「本当のことは女神に訊かないとわからないですが」
「そんでマチルダは、俺にそれを聞かせてどうしようってんだ」
「今度こそアンナ様を幸せにして欲しいって。できるだけの手伝いはするから、もちろん公爵も」
「公爵も?」
「アンナ様にひどい仕打ちをしたって自覚はあるみたいです。どうです、公爵の力添えがあればなんとかなりそうでしょ」
「なるほどな。おまえ、なんかいい策があるんだろうな」
「アンナローゼ様は脱走の名手ですから、かなり警備はきついでしょうけど、ワンチャン、救い出す手がなくはないです」
「俺にできるのか? 魔導士までいるんだぞ」
「あなたにしかできないですよ、盗賊ラビオさん」
「よし、詳しく話せ」
ラビオは久しぶりに盗賊の顔に戻った。そしてケインは狡猾な参謀と言ったところか。二人は顔を寄せ合い『聖女奪還作戦』を話しだした。




