聖女(仮)様 逃げる~3
「アンナローゼェェェェ」
クロードの絶叫が野犬の遠吠えのように空しく響く。
彼は身ぐるみはがされ、下着だけの姿で道に膝を付くという情けない姿でむせび泣いていた。
「あのぉ、もう行っちゃいましたよ。それになんで僕まで」
ケインの冷めた声で我に返ったクロードは、膝に付いた土埃を払いながら立ち上がった。
「仕方ないだろ、相手は盗賊なんだ。後で服は買ってやるから」
とばっちりを食らったケインも身ぐるみはがされてくしゃみをしている。
「それにしてもひどいですよ、あのお嬢様はクロード様をかばって連れて行かれちゃったんですよ」
「こうでもしないと俺の賭け事の借金がチャラにならないんだっ」
その身勝手な言い訳にケインはうんざりしてため息をついた。
「まさかと思いますけどお嬢様の身に何かあったら」
「もちろん彼女には指一本触れるなと言ってある。なんたって聖女様かもしれないんだ」
アンナローゼが聖女候補として育てられたことは皆に知れ渡っているが、それ以上詳しいことは領民にまでは知らされていない。
「ご存じなんですか? もし聖女様なら邪な思いで触れた途端、その者は命を失うって教わりましたよ」
この国に伝え語られている『聖女伝説』は昔話、というよりいい加減な噂話が大半だ。このようなバカバカしいとしか思えない噂が独り歩きしてしまっている。
「だーかーらー、僕らは清い関係なんじゃないか。今日はちょっと危なかったけど。あんまり可愛かったんでうっかりキスしそうになっちゃった」
(天罰でも食らえばよかったのに)
連発されるクズ発言に従者とは言えケインは呆れ果てていた。
「そんな見下げた顔すんなよ。大丈夫だって、彼女の親は侯爵様だぞ。身代金をケチったりしないって。俺の親父なんて身代金を請求したら『そんなヤツは知らん、どうとでも勝手にしろ』と言ったんだ」
「それは自業自得というものでは?」
「弟たちが出来が良すぎるんだよ。俺しか跡継ぎがいなかったら諦めて金を出してくれただろうさ」
自虐を込めてヘラヘラと笑うと、クロードは馬車が走り去った方角をじっと見つめた。
「アンナ、いい子だったなぁ。どうか無事でいてくれよ」




