聖女(仮)様 逃げる~2
「クロード様!」「アンナローゼ様!」
「ふたりのときはアンナって呼んで」
ケインに案内された先には小型の馬車が待っており、その中で彼女を迎えたのは金髪で涼やかな青い瞳の青年だった。
素晴らしく男前だ。
「アンナ、本当に来てくれたんだね」
この青年は街一番の富豪『ブラスト商会』の跡継ぎ息子。侯爵令嬢アンナローゼの14の誕生祝の宴席に呼ばれた彼に、彼女は一目惚れしていた。
それ以来、手紙をやり取りし、たまにこっそりと劇場や避暑地での短いデートを楽しむ仲。
可愛らしいママゴトのような恋ではあったがアンナローゼは運命の相手と思い定めていた。
しかし、その恋が実らないことも二人にはわかっていた。
アンナローゼの実家、侯爵家に生まれた女児は聖女としての務めがある。
その証は15歳になるまでに体に現れるのだが、15の誕生日を迎えたアンナローゼにはその兆候はない。
つまり彼女は聖女になり損ねたのだ。
だからと言って商家に嫁げるわけではなく、彼女には王族との政略結婚が進められていた。
きっとこの逢瀬は最後になるだろう。
アンナローゼはその思いを心の片隅に追いやり、このひとときを思い出として焼き付けようとクロードに誘われるまま馬車に乗った。
(今日で私は聖女の候補ですらなくなる、そして一生を牢獄に繋がれたような上辺だけの結婚生活を送る。だから女神様、今宵のことは見なかったことにしてくださいませ)
クロードの顔を振り仰ぐと、月の淡い光に照らされた美しい顔が近づいてくる。
(は、はじめてのキス? どうしよう目をつぶった方がいいのかしら)
なんとなくそんな気がしてぎゅっと瞼を閉じたときだった。
「うわあああ!」
馭者のケインの悲鳴が上がり、馬車が急停止した。
「きゃああっ」「何事だ!」
アンナローゼとクロードが叫ぶと同時に馬車のドアが乱暴に引き開けられた。
「よお、邪魔して悪いな」
「な、何者!」
髭面の屈強な男が顔を覗かせ、手に持った剣をクロードに突き付けるとせせら笑って言った。
「お察しの通り盗賊ですよ、お坊ちゃん」




