二人の聖女~1
どう考えても罠だ。
ラビオはそう思ったがケインの申し出を受けるしかなかった。ケインは一頭の馬をラビオに渡すと自分も馬に跨り、アンナローゼをひょいっと前に乗せた。
彼女はというと颯爽と現れたケインが、ピンチを救いに来た騎士のように見えているのだろうか。うっとりとした表情でケインの首にぶら下がっている。
(ああ、もうこの娘っ子はどんだけ甘っちょろいんだよ)
だがラビオの心配は当たらず、騎士団に出くわすこともなく、ケインの案内で無事に港まで馬を走らせることができた。
「さあ、もうじき船が出ます。乗り込んでください」
「どこへ行く船だ?」
「もちろんローエンダイムです」
「本当だろうな」
ラビオが凄むとケインは人差し指を立てて「聞いてごらん」と合図した。
「ローエンダイム行きぃ、出港するぞー、乗る奴は急げー」
「大変! 早く乗らなきゃ」
ラビオがなんだか不機嫌なのは気になったが、アンナローゼは急いでタラップを登り始めた。ラビオもその後を追う。
(この野郎、俺たちの邪魔をしにきたんじゃないのか?)
船が出港してざわついていた船員や客が落ち着くと、ラビオはアンナローゼとケインを人気のない甲板の端に連れて行った。
「おめえの狙いはなんだ? 黒猫野郎。こいつをかどわかしたのはおめえの仲間だな」
「仲間だなんて、金で雇っただけです」
「えっ、そうだったの?」
「それで今度はやけに親切じゃねえか、どういうこった?」
「確かにね、僕はあなたたちを足止めしろと言われてました」
「言われてた? 誰の差し金で」
「僕はマチルダ様にお仕えしています」
「なんですって! ねぇ、マチルダは無事なの?」
「それはご心配なく」
「マチルダは俺たちに来るなと言ってるのか?」
「僕はそう言いつかってますけど、少し気持ちが変わりました」
「どういうことだ?」
「どうもお嬢様の様子が、僕の前世の記憶とだいぶ違うんですよね。きちんとお二人で話し合った方がいいんじゃないかと思い始めてます」
「前世? 記憶だと?」
「話がさっぱり見えないんだけど」
「それは僕の口から言うよりマチルダ様に直接お聞きください」
「マチルダに会えるのね!」
「まだ公爵邸には到着していませんから。男性は無理ですけど、女性ならば恐らく」
そう言うとケインはしゅるんと音もなく黒猫に変わった。
「まぁ、あの猫ちゃんはあなただったの? マチルダに使い魔がいるなんて知らなかったわ」
「どうやら俺たちが知らないことは、まだまだあるみたいだな」
二人を嘲笑うかのように「にゃあん」と啼いて、ケインは闇へと溶けて行った。




