聖女(偽)様 売りに出される~3
「ほれ、持ってけ泥棒」
悪態をつきながらラビオは銀貨五枚を親方の前に放り投げた。
「毎度ありぃ」
どうやら二人は顔見知りのようだ。
「助かったぜ、ラビオ。とんだ聖女さんをつかまされちまった。ほい、これはねえちゃんの取り分だ」
そう言って親方は銀貨を一枚返してよこした。いちおう職業斡旋所の建て前は通す気らしい。
「あほらしい、自分の金で自分を買い戻してりゃ世話ねえや」
「なんだ、その嬢ちゃんはおまえのスポンサーか」
闇ギルドの親方はニヤニヤしながらアンナローゼを振り返った。
ラビオにさんざん説教されてすっかり膨れている。
「ねぇ、銀貨五枚って何が買えるの?」
「そうだな、この闇市の相場じゃ子豚が一匹ってとこだ」
「子豚!?」
アンナローゼが叫んだのを見てラビオが吹き出した。
「とりあえず豚の方がケツはでかいな」
「ばか!」
(おやおや、こりゃどうした)
親方が知っているラビオは小娘相手に軽口を叩くような奴ではなかった。
「あのなぁ、嬢ちゃん」
親方も二人につられて笑いながら話し出した。
「この市場は人に値段を付けてるんじゃねぇ。大工なり料理人なりの役に立つ腕を持ってるから雇おうってなる、それで値段が付くんだ。聖女さんもどっかで役に立つものなら重宝されるだろうさ。この町じゃ用がねえってだけで価値がないってことじゃねえんだよ」
アンナローゼはふんふんと感心してうなずいた。
「何を言いやがる、聖女で客集めしてあわよくばぼったくろうと思ってたくせに」
「そりゃ、俺だって赤字は出したくねぇからな」
「私をいくらで仕入れたの?」
「銅貨9枚、良心的だろ? あいつら3人組だったからもめないようにしてやったんだ」
「ひでえな。そういや競りの時に俺と張り合って値段を釣り上げてた奴はサクラか?」
「いやいや、俺んとこはそんなセコい真似はしねえ。サクラだったら銀貨10枚まで釣り上げてたさ」
聖女なんかに金を出す奴はいないだろうとタカをくくっていたのだが、そいつのせいで値段が吊り上がった。ラビオは自分以外に聖女に興味を持つ者がいるのが薄気味悪かった。
急に市場の方が騒がしくなった。
人々が走り回り叫ぶ声に、馬のいななきや物が壊れる音が混じっている。
「なんだ? 喧嘩でも始まったか」
「親方! やべえっす、逃げてください」
闇ギルドの若い手下が走り込んできた。
「なんだ、何事だ!」
「騎士団です、エルンハイム騎士団が闇市に」
「騎士団だとお? なんだってこんな田舎町に。とにかく金目の物を持ってすぐに逃げろ」
ギルドに限らず闇市に関わっている者はみな、大慌てで荷物をまとめて逃げ出した。
そしてアンナローゼも慌てていた。
「ラビオ、ここにはいられないわ。早く逃げましょう」
「なんだ、知り合いでもいるのか?」
「エルンハイム騎士団の団長はお兄様なの!」
「げっ」
エルンハイム騎士団は主に領地のいざこざを治める内政のための軍団だ。こんな小規模な闇市の摘発に動くような部隊ではない。武装もしていない小悪党の討伐には大袈裟すぎる。
「この市場で『聖女』を売買している不届き者がいるとの報を受けた! 競り市の責任者、および落札者は速やかに出頭せよ!」
騎士団が馬上から触れ回る声を聞き、ラビオは飛び上がった。
「冗談じゃねえ、俺のことじゃねぇか!」
ラビオはアンナローゼの手を引いて、暗い裏通りへと走り出した。しかし、土地勘がなくどちらへ向かうか決めかねてしまう。
「お困りですか?」
不意に暗がりから声がして男が現れた。
「馬をご用意しましょうか、銀貨5枚で」
「あっ、てめえは」
馬を二頭引き連れ、薄笑いを浮かべているのはケインだった。




