お嬢様はさらわれがち~2
ガタガタと揺れる馬車がやっと止まり、アンナローゼは窮屈な箱から出された。両手の戒めはそのままだが、顔にかぶされた布袋は取り去られて周囲の様子は見えてきている。しかし、ここがどこかはさっぱり見当が付かない。
薄暗い部屋の中央には初老の男。金縁の片眼鏡を掛け、指には高そうな指輪がずらり、まともな商売をしていないのは一目瞭然だ。その男と机をはさんで、アンナローゼを連れてきた男たちだろう、チンピラのような男たちが何やら交渉事をしている。
「なかなか上物でしょう、もうちっとはずんでくださいよ」
「ガキじゃなぁ、あまり引き合いはねえぞ」
「こいつの主人は裕福な商人のようだから、身代金がとれるかもしれやせん」
「それじゃあ、その裕福な商人の方を連れてこい」
「いや、そいつはガタイがでかくて強そうだったんで」
「話にならねえな。だいたい、自分の従者を助けてやるような情け深い商人が裕福なわけねえだろ。裕福ってことは強欲に決まってらぁ、そんなヤツは身代金なんか出さねえよ」
その後も何か交渉していたようだが、最後に硬貨が投げられる音がして話は終わったようだ。
「それで我慢しな、明後日の市に出してみるが大した値段はつきそうもねえ」
男たちはぶつぶつ言っていたがそれ以上は粘らなかった。
「ちょっと! もう少し粘りなさいよ」
首を振ってさるぐつわを振り切ると、アンナローゼは男に向かって叫んだ。
「おいおい、ずいぶん威勢のいいガキだな。いや、こいつ女か?」
「どうです親方、女なら色を付けてくださいよ」
「女ったってこいつはまだガキんちょだろ。酒場でも娼館でも使えやしねえ、せいぜい小間使いか下働きだ」
「あなたたち、この国では人買いは重罪よ」
「いやいや、お嬢ちゃん、俺らは人買いじゃねえ。職業斡旋のギルドだ」
「どこが?」
「例えばお針子を探している店があるとする。だがな、一軒一軒『裁縫の上手な娘さんはいませんか?』なんて探すわけにはいかない。そこで俺のところに『裁縫の上手な娘を紹介してくれ』と言ってくるわけだ。俺はうちの店に登録している裁縫上手な娘さんを紹介してあげるのさ」
「それは許可がいるのではありませんか?」
「いちいち許可を取ってたら金がかかって仕方ねえ。ギルドのバカ高い登録料を払ったら分け前が減っちまうからな」
「ようするに闇ギルドですね、私を解放しなさい」
「できねぇな、俺はもう金を払った。あんたを誰かに売りつけ、いや斡旋して手数料をもらわないと丸損だ。それともあんた、金持ってるのか?」
「…いまはありません」
「良さそうなペンダントしてるじゃねぇか。それを見せてみろよ」
「これはダメです、お母様の形見ですから。それに紋章が入ってますから足が付きますわよ」
「どこかで知恵を付けられたみてぇだな。じゃ、自分で稼いでもらうか」
「私が、稼ぐ?」
「ああそうだ、明後日の夜に闇市が立つ。そこであんたに幾らつくか試してみろ。それが嬢ちゃんの価値だよ」
理不尽極まりない屁理屈だが、アンナローゼは心惹かれた。『自分の価値』というものをこんなにはっきりと計れる機会はめったにない。
「面白いじゃない! あなたに大儲けさせてあげるわよっ」
声高に宣言したアンナローゼの声が部屋に響いたが、男たちは顔を見合わせ、きょとんとした。
そして一斉にゲラゲラと笑い出した。




