お嬢様はさらわれがち ~1
目を覚ました時、アンナローゼは真っ暗な場所にいた。
暗いだけではなく狭くて窮屈で身動きとれない。首を振ってあたりを探ろうとしたが、口にはさるぐつわをされ頭からすっぽり布袋を被せられているようだ。
(やだ! これって私、絶賛かどわかされ中? もう2回目じゃないの)
一度目はクロードの借金のために自ら人質となったのだが、これは正真正銘のかどわかしだ。
(ラビオは何やってんのよ! 用心棒のくせにぃ)
「アンリ、おーいどこだ?」
その頃ラビオは船室でアンリ=アンナローゼを探していた。
夕食の後、着替えるからと寝室を追い出されたので、しばらく船室で時間を潰していたのだが、戻ってみると彼女はいない。
甲板に出てみたが、ちょうど港に着岸したところで、荷物を積んだり下ろしたりと人でごった返している。
(あのバカ、物珍しさで船を降りちまったんじゃねえだろうな)
ラビオは船と岸を繋ぐ梯子を駆け下りようとした。
「おっと、お客さん。勝手に降りては困ります」
そう言って行く手を塞いだのはケインだった。
「てめえ、どけ!」
「だめですよ、荷物を運んでいるんですから」
「荷物だぁ?」
ラビオは岸で荷物を降ろしている一団がいるあたりを見た。大きな木箱に入った資材がほとんどだが、小さな箱を運んでいる2,3人の男の動きが怪しいのに気付いた。その箱はちょうど手足を折りたためば人が入るくらいの大きさだ。
「うちのガキはどこだ?」
「さあ? 知りませんよ」
ラビオは腰に手を回し、ナイフを抜いた。
「知らねえなら、どけっ!」
言いざま横に薙ぎ払ったが、ケインはそれをひらりとかわすと宙返りして元の位置に立った。
「ただのネズミじゃねぇな」
「やだなぁ、ネズミじゃないですよ」
何度も繰り出されるナイフをのらりくらりとかわされ、ラビオはぎりぎりと歯噛みした。
岸壁を見ると箱を運んでいた男たちは馬車に乗って走りだそうとしている。
「くっそお!」
埒が明かないとナイフを投げつけると、それを避けたケインの片手を掴んで投げ飛ばした。
「おっと」
さすがにケインはバランスを崩したので、その横をすり抜けようとしたがケインもナイフを取り出して梯子と船を繋いでいたロープを切った。
「危ねぇっ」
足元がガクンと揺れて梯子が船から外れてぶら下がる。ラビオはすぐに船の手すりに掴まって甲板に這いあがったが、ケインは。
「いない? どこへ行きやがった」
ケインの姿はどこにもない。その代わりいつ現れたのか、ぶら下がった梯子を伝って黒猫が岸壁へと降りて行った。
「出港! 出港!」
船出の合図が響き渡る。
「ちょっと待て、まだ乗っていない奴が」
ラビオは叫んだが船の艫綱は外され、船は港を離れ始めた。
「ちくしょう! てめえ、覚えてろ!」
叫び声は港の喧騒にかき消され、アンナローゼの行方はわからないまま船はローエンダイムへと舳先を向けた。




