ローエンダイム行 ~2
まんまと館を抜け出したアンナローゼは盗賊ラビオと港に来ていた。
「まずは変装だな、親父さんが探してるかもしれねえ」
「そうね」
そうは言ったがたぶんそれはないだろうな、とアンナローゼは思っていた。父侯爵のあの冷たい態度では、役にも立たない家出娘など、探すほどの価値もないと思っているはずだ。
「この店なら口が固いから大丈夫だ」
そう言われてラビオの馴染の古着屋で着る物をひと通り揃えた。
「ちょっと、これはどういうこと?」
「よく似合うぞ」
アンナローゼに用意された服は、どこかの貴族か金持ちの家の従者という姿で、全部男物だった。
「お嬢ちゃんの格好してたらすぐにバレちまうだろうが。これなら帽子もついてるから顔も隠せるしな。サイズもちょうどいいじゃねえか、胸も尻もつるんぺ」
「うるさーーい!」
アンナローゼは手を伸ばしてラビオの口を塞いだ。
ラビオは構わずゲラゲラと笑っている。
そこで口元に伸ばした手がチクチクしないのに気が付いた。
「そういえば、あなた髭を剃ったのね」
「どうだ、男前だろ。いつでもチューしてやるぞ」
「ばか!」
「これからお前のことはアンリって呼ぶからな」
「わかったわ」
「女言葉は使うなよ」
二人が港に現れたのは、もちろん船便を探すためだ。
まさか公爵家の花嫁一行が倍の日程で進んでいるとは知らず、先回りするために海路を使おうと考えていた。
ローエンダイム公爵領とエルンハイム侯爵領は交流が盛んで、船便もすぐに見つかった。だが、路銀はたっぷりあるくせにラビオは船賃を値切る交渉をしている。
(なんで、そんなことするのよ)
(大金をぽんと払うと怪しまれるんだよ。下手すりゃぼったくられる。それに安いにこしたことはねえだろ)
アンナローゼはそういう処世術がまるでないので、ほおほおと感心して頷いた。その後、無事に船便を押さえられたのは、やはりラビオがいなければできないことだったろう。
「あれっ、ラビオさんじゃないですか」
「おめえは?」
船に乗り込もうとしていると、船員から声を掛けられた。
「クロードさんとこでお世話になってました。身ぐるみ剥がれた馭者ですよ」
「ああ、あの。悪かったな、俺も商売なんでな」
「クロードさんがずっといい服を買ってくれましたからいいんですけどね。あの人、ほんっといい加減なんで、嫌気がさしてやめました。僕、ケインって言うんですよ、この船に乗るんですか?」
「ああ、そうだ。よろしく頼むぜ」
クロードとアンナローゼの駆け落ち騒ぎではこの二人は共犯者なわけだが、ラビオは人懐こく世間話をしてくるケインを適当にあしらって早々に船に乗り込んだ。
(なんか胡散臭えな)
髭を剃って人相が変わっているのにすぐに見破ってきた。いちおう、商人に見えるように変装もしているのに。
屈強な盗賊のラビオも海の上では分が悪い。山育ちで泳ぎは苦手だ。
尻のあたりがむずむずするような嫌な予感がしてラビオは振り返った。
しかし見えたのは、ニコニコと愛想よく手を振るケインの姿だけだった。




