聖女(仮)様 旅立つ ~3
「さあて、お姫さんよ。どんな儲け話があるんだい?」
「お父様から随分と巻き上げたくせに」
「金なんていくらあってもいいからな」
嘯くラビオにアンナローゼは革の小袋を取り出して見せた。
「私の宝石が入ってるわ。これを差し上げますから換金してちょうだい」
「残念だが、お貴族さんの宝石は紋章が入ってて足が付いちまうんだ」
「大丈夫です、これは侯爵家とは関係ない私のコレクションですから。あまり高価なものはないですけど」
「なるほどな。で、これを報酬に俺に何をさせようってんだ?」
「私をローエンダイムに連れて行ってほしいの」
「ローエンダイムってあんたの元嫁ぎ先か」
「これを届けなくてはならないのよ」
アンナローゼは絹のハンカチに包んだ赤い指輪を掌に乗せた。
「たしか7歳か8歳くらいのとき。ローエンダイム公がわざわざいらして、お父様と婚約の話をまとめたのです。そのときこの指輪をくださって、お嫁に来るときは付けてきておくれとおっしゃったの」
「おいおい、そいつロリコンじゃねえの、そんな子供にプロポーズするなんて」
「政略結婚ですもの、貴族同士ではよくある話ですわ。でも、ご本人がいらっしゃるなんて確かに珍しいけれど」
「そんなもんかね」
「もし、公爵様があの約束を覚えていたら、マチルダが替え玉だってばれてしまうかもしれません」
「ガキの頃の約束なのに?」
「子供の頃は公爵に肖像画を送るときには、必ずこの指輪を付けて描かせていましたの。それが公爵の希望だとしたら覚えているんじゃないかしら、それに」
「それに?」
「マチルダが玉の輿と思っているのならいいのだけれど、私のために無理をしているならやはり助けてあげたいわ」
「ふうん、でもよ」
ラビオは皮肉な笑いを浮かべて言った。
「あんたにはわからないだろうけど、公爵ってのはすげえ金持ちなんだろ。旦那が年上だろうが自由がなかろうが、贅沢三昧できりゃいいって女はいくらでもいるぞ」
「マチルダはそんなコじゃないわ!」
「そうかあ? 今までだって窮屈なのは同じじゃねえのか?」
「だから確かめるの、本人に直接。いいわよ、ラビオが出来ないって言うなら一人で行きます」
アンナローゼはふんっと鼻から息を吐くと、ラビオに背を向けて歩き出した。
「おーい、ローエンダイムの領地は反対方向だぞ」
アンナローゼはもう一度、鼻を鳴らして戻ってきた。
ラビオはへへっと笑ってその後について歩き出した。




