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9.はらの過去

 夜になった。

 町の灯りが、少しずつ消えていく。


 僕は古いビジネスホテルの部屋にいた。

 狭い部屋、ベッド、テレビ、安いカーテン。


 僕はベッドに座りながら、未来を見ていた。

 何度見ても同じ未来だ。



「……変わらないな」


 僕は呟いた。


 未来は変えられる。

 でも、未来が何度も同じ形で現れるとき……。

 それは……強い未来。

 避けにくい未来。

 つまり、はらはほぼ確実に死ぬ。


 その時だった。


 コンコン。


 ドアがノックされた。


 僕は一瞬で立ち上がり、未来を見る。



――ドア、はら――


「……」


 僕はドアを開けた。


 やっぱり。

 ドアの向こうには、はらが立っていた。



「こんばんは」


 僕はため息をついた。



「尾行じゃないって言ったよね」


「違う、お前の心がここに導いた」


 本当に最悪の能力だ。

 どこにいてもバレる。


 はらは部屋に入る。



「狭いな」


「文句言わないで」


 はらはベッドに座った。



「で、未来見えた?」


 僕は少し黙った。



「君が死ぬ未来」


 はらは一瞬だけ止まった。


 そして笑った。



「やっぱりか」


「驚かないの?」


「別に」


 はらは天井を見ながら言った。



「俺、自分が死ぬ未来何回も見たんだよね」


「……は? どういう意味?」


「俺の能力、心を読むだけじゃないんだ」


 僕は黙った。



「人の心には、未来の恐怖もある。未来の記憶もある。そして、未来の予感もある。俺には、それも聞こえるんだ」


「……」


「つまり、人の未来も少しだけ分かる」


 はらは僕を見た。



「お前ほど正確じゃないけどな」



 なるほど。

 だから、はらは僕を見つけられた。

 だから、はらは能力者の時代を確信している。



「で、俺が死ぬ未来ってどんなの?」


 僕は少し迷ったが、伝える事にした。


 暗い路地、血、ナイフ、僕。

 僕が知っている情報はこれだけ。


 はらは静かに聞いていた。



「そっか」


 僕は何も言えなかった。



「安心しろ、怒ってない。むしろ納得」


「なんで?」


 はらは少し黙った。



「俺、人を殺したって言っただろ?」


「うん」


「相手、能力者だったんだ」


「……」


「未来を見る女」


 僕は息を止めた。



「その女言ったんだ。あなたは未来を見る男に殺されるって」


 部屋の空気が凍る。



「お前のことだろ」


 はらは笑った。


 僕は何も言えなかった。


 はらは立ち上がった。



「まあ、まだ死んでないけど」


 はらは、ドアに向かって歩いた。



「でも……」


 はらは振り向いた。



「未来って面白いよな。見えても変えられないこともある」


 はらはドアを開けた。



「じゃあな、未来少年」


 はらは去っていった。

 ドアがゆっくり閉まる。


 静かな部屋。

 僕はゆっくり目を閉じた。

 未来を見る。



 ――「これが未来だから」――


 映像が消える。



「……やっぱり変えられないのか」


 僕は呟いた。

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