8.守る
はらと別れてから、僕は町の外れまで歩いていた。
風が強い。
遠くでトラックの音が聞こえる。
僕は立ち止まり、未来を見た。
――数秒先、通行人、車――
危険なし。
でも、さっきから同じ未来が何度も見えている。
――暗い路地、はら、血、ナイフ、僕――
「……」
僕はため息をついた。
未来は絶対じゃない。
変えられる。
今までも変えてきた。
でも、あの未来は何度見ても出てくる。
つまり、ほぼ確定未来。
はらは、僕に殺される。
僕は、はらを殺す。
僕は、小さな公園のベンチに座った。
スマホを持つ人の未来を見る。
――ニュース、SNS。
霊能力ブームは、確実に広がっていた。
テレビ番組、能力者特集、街頭インタビュー。
信じる?
信じない?
人々は盛り上がっている。
でも、未来ではもっと大きなことが起きる。
能力者を利用する企業。
能力者を研究する大学。
能力者を探す警察。
そして、能力者を捕まえる組織――
「……面倒だな」
その時だった。
「やっぱりここか」
男性の声がした。
僕は振り向く。
そこには、はらがいた。
いつものサングラスをかけ、ポケットに手を突っ込み立っていた。
「心が静かすぎる場所……お前、こういうとこ好きだろ」
はらは隣に座った。
「尾行?」
「違う」
はらは笑った。
「心を辿っただけ」
本当に最悪の能力だ。
「で? 答え出た?」
はらは、まっすぐ前を見て言った。
「俺と組むか……それとも一人で逃げるか」
僕は未来を見る。
――はらと組む未来、 能力者ネットワーク、情報、金。
血、死……――
未来は変わらない。
「はら。能力者の時代って言ったよね? あれどういう意味?」
はらは空を見た。
「簡単だ。能力者は金になる」
僕は黙った。
「テレビ、企業、政治、全てが能力者を欲しがる。だから能力者は商品になる」
はらは笑った。
「嫌そうな顔だな。でも事実だ。お前だってもう商品だろ」
はらは僕を指さした。
確かに……。
テレビ、出演料、スポンサー。
……。
「だから……親に殺されそうになった」
僕は呟いた。
はらは一瞬だけ黙った。
「なるほど……」
そして笑った。
「そりゃ殺すわ」
僕は、はらを見た。
「驚かないの?」
「能力者は普通じゃない。普通の人生なんてない」
「……」
「俺も人殺してるし」
僕の目が少し動く。
……本当に?
はらは笑った。
「聞こえてるぜ。今、未来見たろ」
しまった。
「安心しろ。お前を殺す気はない。むしろ守ってやる」
守る?
「お前、面白いから」
僕は未来を見る。
――はら、路地、血――
……やっぱり変わらない。
僕はゆっくり立ち上がった。
「今日は帰る」
「そっか。でもさ」
はらは、僕に背中を向けながら言った。
「気をつけろ。能力者は、能力者に殺される」
はらは去っていった。
僕はその背中を見ながら、未来を見た。
――暗い路地、はら、血、ナイフ、僕――
未来が消えた。
「……能力者の価値か」
もし、はらの言う通りなら、この世界は能力者の戦場になる。
その戦場で、僕は生き残る。
たとえ何人殺すことになっても……。




