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46.ひなのいない世界

 静かだった。

 さっきまで響いていた警報も、銃声も、全部遠く感じる。


 僕は床に座っていた。

 腕の中にひながいた。


 動かない。

 信じられないくらい軽かった。



「ひな……」


 れんは泣いていた。


 ゆきも黙っている。

 誰も何も言えない。


 僕はひなの顔を見る。

 目を閉じている。

 穏やかな顔だ。

 まるで眠っているみたいだった。

 でも呼吸はない。


 未来を見る。

 いつもの癖だ。

 でも何も見えない。

 未来は消えたまま。



「ひな」


 返事はない。



「なんで……なんでこんな……」


 れんは震える声で言った。


 僕は答えられない。

 僕が選んだ未来だからだ。


 ひなが死ぬ未来。

 それを僕は選んだ。


 オラクルが、数メートル先に立っていた。

 顔が真っ白だ。

 さっきまでの余裕はない。



「……死んだのか」


 オラクルは言った。


 オラクルはひなを見る。



「未来を消した代償か……」


 僕はひなをゆっくり床に寝かせた。


 そして立ち上がりオラクルを見る。



「終わりだ」



 オラクルが苦笑いをする。


「終わり?」


 周りを見る。


 壊れた装置。

 倒れた兵士。

 消えた未来予測機。



「確かに未来は消えた。能力も、装置も消えた。……でも研究は終わらない」


 オラクルはゆっくりと動いた。



「まだやるの!?」


 れんは言った。



「人間は未来を知りたがる」


 オラクルは言った。



 僕は一歩進む。

 未来はない。

 だから迷わない。



「終わらせる」


 オラクルが後ろへ下がる。

 壁にぶつかる。

 逃げ場はない。



「俺を殺すのか」


 オラクルは言った。


「わからない」


 未来がないから。

 結末も見えない。

 

 オラクルが笑う。


「いいね。それが人間だ」


「しょうた……」


 れんは言った。


 僕はオラクルの前に立つ。


 同じ能力、同じ実験、同じ未来だったはずの存在。



「僕達、似てる」


 オラクルは言った。


「違う。僕は未来を支配しない」


 静かな沈黙。


 その時、床が揺れ始めた。



「地震!?」


 れんは言った。



「違う! 施設が崩れてる!」


 ゆきは言った。


 ひなが消した未来予測装置。

 その影響で、研究所のシステムが壊れ始めている。


 警報が再び鳴る。



「施設崩壊まで五分」


「逃げないと!」


 れんは言った。


 僕はひなを見る。

 ひなは動かない。


 そしてオラクルを見る。

 オラクルも僕を見ている。


 研究所が揺れる。 


 崩壊まで五分。


 そして僕はある決断をする。

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