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36.消える世界

 ヘリの音が近づいてくる。


 強い風。

 砂が舞う。



「もう来る!」


 れんは叫んだ。


 れいじは気絶している。



「この人どうする!?」


 ゆきがれいじを見る。



「置いていく」


 僕は答えた。



「え!?」


 れんは驚いた。


 僕は未来を見る。



――れいじ、捕まる未来、僕達、逃げる未来――


 未来が流れる。



「逃げる時間ない」


 ひなは言った。


 僕はひなを見る。

 ひなはまだ座っていた。

 腕から血が流れている。


 でも目は静かだった。



「ひな?」


「しょうた、未来見て」


 ひなは言った。


 僕は目を閉じた。

 未来を見る。


――ヘリ、兵士、銃、僕達、包囲される。

 逃げ場はない――


 未来が消える。


 僕は目を開けた。


「……逃げられない」


「そんな……」


 れんは震えていた。



「だから消す」


 ひなは言った。



「何を?」


 ひなは空を見た。



「世界」


 ひなは呟いた。


「え……?」


 れんが固まる。


 ひなが目を閉じる。


 空気が震える。

 今までと違う。

 いつもの防音じゃない。

 もっと深い何かが消えていく。


 ヘリの音が突然止まった。

 完全に静かになった。



「音が……」


 れんが目を見開く。



「音だけじゃない」


 ひなは言った。



 僕は未来を見る。

 でも未来が見えない。


「……未来が」


「どうしたの!?」


 ゆきは言った。



 僕は驚きで動けなかった。

 その瞬間、空が歪んだ。

 ヘリは止まっている。

 プロペラも、兵士も全部止まっている。


 まるで写真のようだ。



「みんな……止まってる」


 ゆきは言った。



「世界を消してる」


 ひなは言った。


 そうか。

 ひなの能力は音を消す能力じゃない。

 存在を消す能力。



「短い時間だけ現実を消す」



「そんなことできるのか」


 僕はひなを見る。



「できる」


 ひなは笑った。

 でもひなの顔は青い。


 体が震えている。

 血が止まらない。



「早く逃げよう」


 ひなは言った。


 僕は未来を見る。

 でも未来がない。

 僕は初めて未来なしで走った。


 れん、ゆき、ひな、四人で森の奥へ。


 その瞬間、空が戻った。

 ヘリが動き出す。



「目標は、どこに行った!?」


 兵士が混乱する。

 岩場には、れいじだけが倒れていた。


「隊長がやられてる!」





 森の奥を僕達は走っていた。


 ひなが急に倒れる。


「ひな!」


 僕は支える。



「ちょっと無理した……」


 ひなは辛そうだった。


 僕は未来を見る。



――未来が戻る。


 そして一つの未来が見えた。

 ひな、病院のベッド、動かない――


 未来が消える。



「しょうた……」


 ひなは呟いた。


 僕はひなを見る。



「絶対死なせない」


 能力者の世界はさらに深く暗くなっていく。

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