3.バス
夜道を歩きながら、僕は何度も未来を見ていた。
数秒先、数分先、数ヶ月後。
未来を見る事は、今では呼吸みたいなものだ。
未来を見る事で、落ち着いている自分がいた。
ただ……さっき見た未来だけが、どうしても頭から離れない。
「この人、親を殺してる」
その言葉が、何度も何度も頭を巡る。
僕は、スマホを見ている人の未来を見た。
――ニュース、SNS、拡散――
……もう時間の問題だった。
コンビニに置いてあった新聞を手に取った。
まだ朝刊前の時間だ。
事件は載っていない。
でも、未来では載っている……。
僕はまた未来を見た。
――朝のテレビニュース、大きな見出し。
「未来が見える高校生、両親殺害の疑いで失踪」
僕の写真がある。
「警察は全国に捜査網を広げています」――
「……思ったより早いな」
僕はぼそっと呟いた。
でも、焦りはなかった。
未来を見れば、回避できる。
今までもそうしてきた。
大丈夫……問題ない。
歩いていると、小さなバス停が見えた。
僕は時刻表を見た。
次のバスは15分後だ。
僕は未来を見る。
――バス、乗客三人、途中で乗る老人――
……問題なし。
その未来のさらに先を見る。
――駅、小さな町、安いビジネスホテル。
警察はまだ来ない――
大丈夫。
そう判断した瞬間だった。
別の未来が割り込んできた。
――スタジオ、カメラ、司会者。
そして、あの女の子。
「次の映像を見てください」
スタッフが画面を切り替える。
そこに映るのは……暗い部屋だった。
血、倒れた男女。
そして、包丁を持つ僕。
僕は、呼吸が荒くなった。
「これは、この人の過去」
女の子は静かに言った。
スタジオが凍りつく。
「本当に……見えるの?」
司会者は驚いた表情で、女の子に聞いた。
「うん。全部見えるよ」――
ここで未来が途切れた。
「……まずい」
今までとは違う。
未来を見る能力者がいるなら、まだいい。
でも、過去を見る能力者。
僕がどれだけ未来を回避しても、過去は消えない。
ベンチに座りながら、僕は考えた。
未来を見る。
――数ヶ月後、霊能力ブーム、テレビ局、新しい能力者。
社会が変わる。
能力者が注目される。
そして、女の子が中心にいる。
名前が表示されている。
……みき――
みきって名前か。
僕はこれから、この子と戦わなければいけない。
もし、みきが僕を追い始めたら、僕の逃亡は終わる。
僕はさらに先の未来を見る。
――警察、テレビ、能力者特集。
「この人、今……北に向かってる」
みきは言った。
僕の背筋が凍る。
時計を見ると、あと五分でバスが来る。
……でも!
僕は未来を見直した。
――バスに乗る未来、数日後、テレビ、みき。
「この人、このバスに乗った」
警察、追跡、逮捕――
「……ダメだ」
僕は立ち上がった。
バスは使えない。
未来を変える。
もっと予測できない動きだ。
もっと遠くへ。
僕は、暗い道を見た。
街灯もない、人もいない。
未来を見る。
――歩く僕、山道、古い神社、誰もいない――
安全だ。
僕はバス停を離れ、闇の中へ歩き出した。
遠くでバスの音が聞こえた。
バスは停まり、すぐに出発。
もし乗っていたら、その未来は終わっていた。
僕は空を見上げた。
星が広がっている。
「……面白い」
自分でも驚くほど冷静だった。
未来を見る僕。
過去を見るみき。
つまり、能力者同士の戦いになる。
「先に動いたほうが勝つ」
もし、みきが僕を探すなら、僕もみきを探す。
先に見つける。
そのとき、未来が流れた。
――テレビ局、観客席、霊能力特番、ステージ。
そこに立っている、みき。
半年後、全国放送、能力者特集――
僕は笑った。
逃げるだけじゃつまらない。
「会いに行く」
どちらが勝つか勝負だ。




