2.逃亡者
僕は電車を降りた。
ニュースは、思ったより早かった。
スマホには、男女二名が死亡、犯人は不明、息子の行方を追っていると記載されていた。
スマホの動画にも載っていた。
僕はイヤホンをして聞いた。
「速報です。都内の住宅で男女二人が死亡しているのが見つかりました。警察は、この家に住む高校生の行方を追っています」
心臓の音が速い。
僕はフードを深く被った。
スマホの画面に、僕の家が映る。
そして画面が切り替わり、僕の写真が出た。
「この家に住む少年は、未来が見える高校生として、テレビ出演していたのですが、現在行方が分かっていません」
駅にいた人達がざわつく。
「え、あの子?」
「テレビ出てたよね」
「犯人って事?」
僕は目を閉じた。
――改札、駅員、通報、警察、職務質問、逮捕――
僕は目を開けた。
大丈夫、僕は捕まらない。
改札に向かう未来を消す。
その代わりに、ホームの端へ歩いた。
数秒後、駅員が改札の方に走っていく。
「すみません、通報があって……」
未来通りだ。
でも、僕はそこにいない。
そして電車が滑り込んできた。
ドアが開く。
僕は、一番端の車両に乗り込んだ。
すぐに未来を見る。
――警察がこの駅に来る未来、五分後――
……ギリギリだ。
そしてドアが閉まり、電車が動き出す。
警察は間に合わない。
「ふふふふっ……」
僕は静かに笑った。
車内は静かだった。
夜のローカル線。
乗客はまばら。
疲れ切っているサラリーマン、音楽を聴いている高校生、寝ている老人。
誰も僕を見ていない。
でも、油断はできない。
僕はまた未来を見る。
――数分後、誰かがスマホでニュースを見る、そして僕に気づき写真を撮る、すぐSNSは拡散、通報――
……ダメだ。
僕は、次の駅で降りる未来を選んだ。
電車が止まった。
小さな無人駅だ。
ホームには誰もいない。
僕は電車を降りた。
ドアが閉まる。
電車は闇の中へ消えていった。
周りは静かだった。
「ここはどこだろう」
住んでいた場所からは遠ざかっている。
それだけで、少し安心だ。
僕は未来を見た。
――駅を出る、コンビニ、店員、客、監視カメラ、後日、警察が来る――
……問題ない。
すぐにはバレない。
僕はコンビニに入った。
「らっしゃいあせー」
チャラチャラした若い店員だ。
やる気のなさそうな声。
僕は、カップ麺と水を持ってレジへ行く。
「420円でーす」
財布の中には、三万円ほどあった。
未来を見ながらお金を出す。
――不審に思われない未来――
成功だ。
コンビニを出て夜空を見上げる。
星が綺麗だ。
「これからどうする?」
自分に聞いた。
未来を見る。
――警察、指名手配、全国ニュース、逃亡生活――
その未来の中で、僕は生きていた。
でも捕まっていない。
まだ自由だ。
その時だった。
また、別の映像が流れ込んできた。
――テレビ、霊能力特集、あの女の子だ。
10代くらい、黒い髪色、肩までの髪の長さ。
「この人、嘘ついてる」
女の子は言った。
画面に映っているのは、僕の写真だ。
「この人、親を殺してる」
真っ直ぐな瞳で言った。
「どうして分かるの?」
スタジオの司会者は、その子に聞いた。
「だって、この人の過去が見えるから」
その子は平然とした態度で言った――
ここで未来が終わった。
僕は立ち尽くしていた。
あの子……前に未来で見た子だ。
間違いない……過去を見る能力者。
未来が見える能力者がいるくらいだ。
過去が見える能力者がいてもおかしくない。
もし、その子が僕を見つければ……終わりだ。
僕がどれだけ未来を回避しても、過去は変えられない。
つまり……僕の敵。
この未来が、どれくらい先の未来か分からない。
遠くでパトカーのサイレンが鳴る。
僕は歩き出した。
暗い田舎道。
街灯も少ない。
「……逃げなきゃ」
僕は未来を見た。
――数ヶ月後、霊能力ブームがおきていた。
テレビには新しい能力者達、あの女の子もいる。
どんどんその子が有名になる。
僕を捕まえるために、現れた――
僕はフードを深く被った。
もう、普通の生活は戻らない。
僕は逃げ続ける。
未来を見ながら。
だけど、心の奥で別の未来が揺れていた。
それは、僕が世界を変える未来だ。
能力者が当たり前になる未来。
そして、僕がその頂点に立つ未来。
「だったら、先に世界を変えてしまえばいい」
僕は未来を見た。
――霊能力ブーム、能力者、混乱する社会。
そして、その中心にいる僕――
僕の世界の始まりだ。




