第1章 5話 人斬り
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
レジェンド Online
ほのぼのと
第1章 5話 人斬り
「たとえ回り道でも、誰がなんと言おうと俺にしか出来ない道を行けばいいんだ・・・」
”ブ~~ッ”牙から少し離れた椅子に座ってコーヒーを飲んでいた鍛冶屋の親父が口に含んでいたコーヒーを噴出した。
「なんだ~、やぶからぼうに~」と鍛冶屋の親父
「えええええ~~~~~ぇ」その言葉に鍛冶屋の親父が反応した事に、逆に牙が驚いた。
「悪い悪い、逆に驚かしちまって~」
「まあ~兄ちゃんが言った事、その通りだと思うが、ほんの少しでも協調性を持って、それが出来るのが一番良いな。・・・・あ、誤解しないでくれ、兄ちゃんが協調性が無いって言ってるわけじゃあないからな」と親父が言う。
牙の頭の中で、はてなマークがいくつも飛んでいく。「は~~~あ、親父さんNPCじゃ~~~」
「じゃ~ぁ、ないな」と言って大笑いし始める。
「へ・・・・ばらしちゃって、いいんですか?」少し心配そうに牙が言う。
「あ~あ、そのうち誰かが気づくだろうし、OnlineゲームにゃあGMは付き物だろう。まあ俺はGMじゃあないが・・・運営会社の人間であることには変わらないが」
「まあ、あれだ、みんながみんな運営の敷いたレールを通るわけじゃあないって事は解るよな~?」
「ええ、まあ」(俺のことを言われているのか?)と牙は思った。
「お金を頂いてサービスしている以上、どんなことが起こっても、お客様に満足していただけるサービスを提供するのが運営会社としての務めだと俺は思ってる。手前味噌だが・・・」
「とにかく早くレジェンドの世界の中で、日本刀を打ってみたいと言うお客様がいてな~、まあ俺の知り合いなんだが・・・・そのおかげで俺は今ここに居るってことだな」
少し困ったような、だが楽しげにその鍛冶屋の親父は話す。
「は~、大変なんですね~、色々と」
牙は鍛冶屋の親父があまりにもあけっぴろげに話す姿に好感を抱いていた。(PCが日本刀を打つ為にこの人がここに居るって事は・・・・レジェンドにまだ日本刀がないってことなのか?)と牙は考える。
「ここにはクエストで来たんですが、もう一つ日本刀が手に入るかもしれないと思ってて・・・・今の話じゃあ無理そうですね?」
「NPC製の日本刀は無いが、俺の知り合いが打った日本刀ならここにあるが・・・・」
(やった~・・・・でも・・・・売ってくれないだろうな~・・・・)と牙。
「これは、レジェンドで始め打った日本刀ってことで、記念に貰った物で売れないが」と言って親父はバックから日本刀を取り出してみせる。
(やっぱり・・・・)牙は肩を落とした。
「鞘から、刀抜けたらそいつに話しつけてやってもいいぞ」
牙は鍛冶屋の親父から日本刀を受け取ると、刀のつばに親指をかけ、ゆっくり力入れていく。”カチッ”と音がして、あっけなく刀は鞘を離れた。
「ほ~~~」と感嘆の声、「振れるか?」の問いに牙は鞘を鍛冶屋の親父に預け、天井の低いその小屋で刀を左右振り空気を切り裂いていく。
「わかった・・・・話をつけてやろう」7~8回牙が刀を振ったところで親父は言い、何処と連絡を取ろうとしているのか何も無い空間をタッチして操作しはじめた。
「ありがとうございます、こんな貴重な刀を・・・」牙が礼を言う。
「かまわんさ」と鍛冶屋の親父は日本刀を受け取り鞘に戻した。
鍛冶屋の親父は口をパクパクしているのだが、牙には何も聞こえてこない。
(なんか?微妙~・・・・俺も同じ機能が使えるようになったら、人前でするのは止めておこう)と牙は思うのだった。
「兄ちゃんLvいくつだ?」不意に声がする。
「13です」
「は~~~あ?・・・ま・・まあいいか」親父は少し驚いた表情をしたが、また口パクが始まった。
「後5分ほどあれば着くそうだ」と親父。
「じゃあ近くまで来てるんですね」と牙。
「何も知らないんだな・・・・」鍛冶屋の親父が頭を抱える「Lv13なら・・わからんか・・・情報掲示板に載っちまってる話だから話すが、Lv20になると、一度行った所には転送陣を使って転送出来るようになる。その他にも幾つか転送ポイントを指定して転送が可能になるんだが・・・・やつはまだポーリングの街だ、冒険者の初期街の名前くらいは情報として知ってるだろ~?」
「ええ、ポーリングの名前だけは知ってます」牙は素直に答えた。
「どこのゲームでも一緒だと思うが、武器にはそれを扱うための基本値があるんだが・・・・、レジェンドでは基本ステータス値の和によってそれが決まる。Lvじゃないんだ、だからLvが低くともステータスの値さえ満たせば、どんな武器だろうと装備が可能になる・・・・ここまでは、わかるだろう?」
「はい」(そんな情報始めて聞いた・・・・多分・・・・俺が規格外なのか??)と牙は考えた。
「でだ、運営の側の俺たちからみると、あの日本刀はLv20になったプレイヤーが、やっと狩りを始めて、25以上に成ったころ始めて扱える代物だと考えているんだが・・・13なんだろ?今まで何を狩って来た??」
「何をって・・・・野うさぎに、いのしし、後は熊です」
「魔法でか?」
「妖精さんには、あったことすらありません!」(キッパリ)
「なに~~~~~、魔法使えなくて・・・・武器も無いのに・・・・」親父は唖然とした顔で牙を見上げる。
「ありますよ、狼だから・・・・爪とキックと噛み付きです・・・・」意地になった牙が顔を真っ赤にしながら言い張った。
「そ、そうなのか?俺は技術屋だから種族ごとのスキルまでは把握して無くてな~、すまないが、ステ見てもいいか?」親父は、あきれ果てたような顔している。
「どうぞ・・・見せ方っていうか、自分のLvやスキルLvの確認の仕方は知ってるんですけどステータスを確認する方法知らなくって・・・勝手に見てください」
「いや、それでいいんだ・・Lv20にならないと見れない仕様だから。こっちでホストコンピューターに繋いで確認する・・・・名前だけ教えてくれるかな?」
「プレイヤー名は牙です」
親父が名前を聞いて顔を確認するように牙のほうを向いた。牙はそれに気づいたが攻略スレのスレ版に自分のプレイヤー名がさらされている事は解っていたので、気にもとめなかった。
(か~~~~、この子が白ちゃんか~~、獣人の姿は初めて見たからな~、ちゃんとミサンガ風首輪ついるし・・・・)道上はマジマジと牙の顔を見てしまっている自分に気づき、(しまった~)とも思ったが、今更と、ホストコンピュータ(以下HCへ省略)へ情報確認のため管理画面からHCへ繋いでいく、フェニックスゲームズでは、顧客のキャラクターデータに個人の顧客データを含んでいたため、管理職以上で権限を与えられえた者以外、閲覧禁止であった。
が、道上にはその権限が与えられていたのである。
道上はHCから得た牙のデータを見ていく、が、比較するデータが無いのに気づいた。牙のデータを見て判った事は、暗闇の中を走りに走り回って狩りを行っていたと言うこと位だった。IN、OUTの時間を見ると、ほぼ真夜中が多く、迷いに迷ったのだろう・・・・という事を道上は見出していた。
「迷子の迷子の子猫ちゃん~~~、ってか~」思わず歌っていた。
「え~~~ぇ、そんなことも判るんですか??」図星をつかれあせった牙君だった。
「あ~~、図星だったか~、暗くて方向間違えて走り回ったのかな~って、思っただけなんだけど」
「です」牙は照れ隠しに頭をかいてみせる。”ポリポリ”
「っていうことは~、まだ狼族の町には着いてないって事か?」
「お恥ずかしいですが」
鍛冶屋の親父が大笑いしだした。牙は顔をひきつらせている。
薄暗いその部屋が一瞬明るくなる。御座が敷かれた部分に黄色い魔法陣のような物が描かれそこに金色の粒子のようなものが、だんだんと人の形にまとまって眼光鋭い中年の男性の姿となった。190センチはあろうかという長身に着流しという姿が妙にかっこよく牙は感じた。
(これが、転送なのか??しっかもこのおっさん、でかいし)牙は始めて目にしたその光景に目を丸くして呆然と見つめていた。
「ちょ、おまえ、いきなりこんな所に現れやがって!」鍛冶屋の親父も驚いたのだろう、現れた中年の男性に強い口調で言い放つ。
「ミチ!誰が急がしたんだっけ?・・・・まあいい、これがお前の行ってたワンコか?」と言って牙の姿を上から下へ流すように見る。
「お手!」牙は思わず差し出された手のひらに手を置いてしまっている自分がいるのに気づく・・・・「あっ・・・・」
「おお~~~、いいのりじゃね~か、気に入ったぞ、ワンコ!」中年の男性は大笑いしだした。
「こっちのワンコは牙君だ、で・・・お前こっちの名前なんだっけ?」鍛冶屋の親父が聞く。中年の男性は「牙」の名前を聞いてふ~んという感じで反応する。
「鍛冶だよ鍛冶、刀鍛冶の鍛冶!」中年の男が言い放つ。「だ、そうだ・・・・で、俺の自己紹介してなかったな・・・・道上だ、知り合いはみんなミチっていうが、好きに呼んでくれていい」鍛冶屋の親父だった。
「牙です、よろしくお願いします」牙はそお言いながら一礼する。
「あ、お前のステ見るぞ・・・」と道上は鍛冶のステータスを勝手に見始めた。
「勝手にしろって~・・・もうやってんじゃね~か」と呆れ顔の鍛冶。そんな二人のやり取りを見ながら(古い知り合いなのだろう)と牙は微笑ましく思った。
「おお~・・・・なるほどな~・・・・ふ~ん」と二人のステータスを比較しているのだろう・・・道上が一人つぶやいていた。
「・・・そんで・・・なんかわかったのか?」鍛冶だった。思ったよりも気が短いようである。黒い和服の袖に腕を隠したまま腕組みをしている姿がみょ~にカッコよく牙の目に写る。
「いいですね~着流し、かっこいいです」
「おう、ポーリングの裁縫屋に無理言って作らせた、やっぱり、日本刀さすのには、和服が一番だと思ってな」気に入っているのだろう、うれしそうに微笑んでいる。
「で、牙君だっけか・・・・何で日本刀がいいんだ?」
「あ~、歳さんに憧れて剣道を小さいときにやってたんで・・・・それでです」
「歳さん??」
「土方歳三さんです・・・・新撰組の、実家が函館の五稜郭のすぐ傍にあるんで・・・・ゆかりの地というか、そんなので・・・・俺の中ではヒーローと言うか、憧れの人なんで・・・・勝手に歳さんって呼ばせていただいてるだけなんですけど・・・」ニコニコうれしそうに話す牙を見て、鍛冶はうらやましく感じていた。
(俺のヒーローって???だれだった?)鍛冶は思い出そうとするが、思い浮かばない・・・・(歳をとったからか?)と思うのだった。
「ほ~、歴史上の人物が少年時代のヒーローか・・・・最近じゃあ珍しいな、家のガキなんて、何チャラ戦隊のレッドがいいとか、そんなんだが・・・・親の教育がわるいのかな~?」首をかしげる鍛冶
「いや、そっちのほうが、正常かと・・・・思いますが」
「まあ、その憧れをその年齢までもち続けてるのは、ある意味うらやましいが、いいことだと思う」
「じゃあ、いつまでも話しててもなんだから、いってみようか?」鍛冶が冒険者のバックから日本刀を取り出した。
(やっぱり、そおいう事だろう・・・・)と牙は考えていた。
「おいおい、この狭いとこで斬り合わんでくれ~、間違ってこっちの首が飛びそうだ」
道上はほかの画面を見ながらも、二人の話は聞いていったのだろう、勘弁してくれと言わんばかりの言い方をする。
「二人のステ見比べても、10%位の差だ・・・・誤差って言えなくわね~から、好きな様にやりな~」道上が言う。
3人は連れ立って、職人のNPCをよけるようにしながら、工房に面した広い通りにでてきた。通りの路面は石を削りだした後、平らになる様に一応はならしたような跡はあるが、けっして平らとは言いがたい地面だった。
「せっかく作った日本刀の耐久減らすことも無いだろう」と言って道上は二人に工房製の両手剣を渡した。
「決闘モードだと先にHPが5%切ったほうが負けになって、勝負がついたら自動的に全回復するように出来てる・・・・鍛冶、申請してやってくれるか?」
「おう。・・・・いったか?」
牙の視界に決闘申請と言う文字が表示される。その下にYES・NOの選択ボタンが表示されていた。
「来ました。YESの方押します」牙がボタンを押した瞬間に両者の前にカウントダウンの数字が表示された。
5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 ・ STARTの表示が順に表示された。
二人の間合いは約5メートルといった所だった、鍛冶は中段に自然なたたずまいなのに対し、牙は剣を左手にダラーっと下げている。どちらの間合いでもないようだが、お互いまずは様子見といったところだろう、動く気配が無かった。
「左利きなのか?」鍛冶が牙に聞いた。
「いや・・・なんとなく・・・」牙が一気に間合いを詰めるが、ピクリとも動かない鍛冶を見て2メートル程の所で止まる。
(全然視線と中心線がぶれないや・・・)牙は間合いを詰める際に体を左右に振って見せたのだが、鍛冶は何処を見るとも無くただ牙の方を向いていただけだったのである。(完全に自分の間合いを解ってるんだろうな)そうも思った。
(このワンコ・・・・俺の間合いの手前で止まりやがった・・・・、俺より間合いが長いのか?)と鍛冶は考える。(打ち込もうとすれば打ち込む部位を一瞬でも見るはずなんだが・・・・一回様子見で打ち込むか?)
「来ないならこっちからいくが?」鍛冶が言う。
「いや~~、こわいんですが・・・・」と牙。
次の瞬間鍛冶が動く、中段のまま牙の剣を持つ左腕に向かって振り下ろされる剣、牙は迎え撃つように、剣を振り上げながら体ごと体当たりする、近い間合いの中で右コブシを鍛冶の左顔面めがけて叩き付けた。
”ゴツ”という鈍い音がして、鍛冶が少しふらつくが、耐え切って牙を剣と共に弾き飛ばす。
1メートル以上飛ばされた牙は、転がりながら吹き飛ばされたダメージを受け流すことに成功したものの、立ち上がろうとして低い体制になっている。鍛冶見逃さない、「うおりゃ~~」と掛け声と共に上段に振りかぶった剣を容赦なく牙の頭へ、牙は右に回転しながらその剣をかわす。”ガチーン”と勢いあまって剣が路面に叩きつけられた。
牙はその隙をついて体制を立て直すと、鍛冶の左、左へと回りこむ、鍛冶は左が見えづらく成っているのか、牙が回りこむたびに足裁きでそれを牽制する。
(っきしょ~、殴りにくるだと~~)鍛冶は少し驚いていた。少し頬のところに食らったが見えてはいるのだった。方便で見えないかのように左に動く牙を牽制していた。
(速さは負けてるな)と思ったのだ。(それならば、弱みがあると見せかけて、攻撃してくる方向を限定した方が、対処がしやすい)と考えた結果である。
(あの状態から突き飛ばしやがった・・・・)牙は驚きを隠せないでいた、そして上段が来たのだ、よけるのが精一杯だった。(あれが地面に行かないで、こっちに薙ぎが来ていたら)と思うとぞっとするのであった。
(どちらにしても次で終わる)二人は共にそう思っていた。
牙は左に行くようにフェイントをかけ、ワザト鍛冶の小手を見る、そして小手ではなく剣自体を鍛冶の右に大きく払うよにして、剣と剣とが弾き合った、その反動を利用して踏み込んで胴を薙ぎにいく。
確かに捕らえたのだ(後は振りぬくだけだ・・・)と牙が思った瞬間、払ったはずの鍛冶の剣が牙の首に来ていた(何が起こった・・・・)理解する間もなく瞬時にHPが減っていく。牙は熱く感じる首の剣を感じながら、意識が遠のいていくのを感じていた。
「やばかったんじゃね~のか?」
「ああ、最後の突きは、やばかった・・・・」ほっとした表情の鍛冶が言う。
「強いんだよな・・・この兄ちゃん?」と道上
「ああ、リアル刀鍛冶で剣術も免許皆伝の俺に土つけたんだ・・・・わかれ、そのくらい」と鍛冶が言う。
牙が意識を取り戻すと、周りの風景が真っ赤に表示され、「YOU LOSE」のシステムメッセージが流れた。それと共に聞きなれた”ポーン”という音が何度も鳴ったが確認する気にもなれなかった。
さっきの小屋に寝かされて居るのだろうか?薄暗い部屋の中なのはわかったが、まだ意識がしっかりとしていなかった。リアルなら死亡フラグが立っているダメージを受けたのだ、当たり前といえば、当たり前なのだろう。
近くで道上と鍛冶の二人が話す声が聞こえていたが、もう少し横になっていようそう思う牙だった。
”ポーン”「称号 人斬り を獲得しました」システムメッセージが流れる。
「お~、称号きた~・・・人斬り・・・だとよ」と大笑いする鍛冶。「お前らしくていいじゃね~か」道上がつられて笑う。牙は眠気に勝てず、その場で眠りについていく。
ポーリングの石版に「人斬り」の称号を初めて獲得した者として、二人の名前が刻まれた。




