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第1章 3話 俺は生きていく

残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

                      レジェンド Online



ほのぼのと


 

第1章  3話 俺は生きていく




  休日の朝は、さわがしく始まった。


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!


 部屋の来客を知らす電子音が、枕もとのにある携帯端末から鳴り響く。


「うー、こんな朝っぱらから・・・・」端末には仁の部屋の入り口に立つ女性の姿を映し出している、時間はAM 7時・・・美和ネエだった。


 ピンポーン、ピンポーン!「いないの~」インターフォンからの声が携帯端末のスピーカーを通して伝えられる。現在のスマートフォンと同じくらいの大きさの端末が、電話やメールはもちろん、家電のリモコンから、部屋のロックに至るまで全て制御が出来るようになっている。


「今開けますって」言いながら、仁は自分がジーンズにTシャツ姿のまま寝てしまっていたことを確認する。「ふう~」(これはこれで、今着替える手間が省けて・・いいのだが・・・・)少し自己嫌悪する。

携帯端末で部屋のロックを解除し「入っても、いいですよ~」と美和ネエに言う。

部屋のドアが開く音と共にけたたましい足音で、美和が仁の部屋に突入してきた。


ジーンズに真っ赤なライダーズジェケットという、いつものスタイルだが比較的長身でほっそりしている彼女には、とても似合っていると仁は感じていた。


「おっはよ~~~~、き~い~っく!」・・・・何故そうなる・・・・


まだベットから起き上がろうとしない仁に向けて、その必殺技は放たれた。・・・朝から元気よすぎだろー・・・・


「ぐっへ、痛いですって~」腹に直撃をくらった仁が腹を抑えた。


「うへへへぇ~、おはようの挨拶だ~~~」全然悪びれる雰囲気のない美和は笑って、それが当然のようにしている。下に二人の弟が居る3人姉弟のリアル姉である。弟二人に鍛えられたのだろうか・・・美和ネエの「ネエ」はそこからきていた。


実年齢も仁の1つ上なのだが・・・・(察するという言葉も世の中にはあって、配慮のない突っ込みは、墓穴を掘る事に繋がりかねない・・・・、触らぬ神に・・・・という、ことわざも・・・・)


「はい、コーヒー」美和が学生の頃から持ち歩いている紺色の少し小さめなスポーツバックから冷えた缶コーヒーが渡された。


「ありーっす」やっと上半身を起こし仁が受け取る。


美和は起きた仁と対面するようにベットの横に座る。


「昨日、君はいったい何時まで潜っていたのかね~?」


VR機で、仮想世界に繋ぐことを廃ユーザーたちは「潜る」と表現していた。


 美和が仁のこめかみを、両手のグーでグリグリする。看護学校の女の子達から「可愛い系」と言われていた仁の顔が痛さで歪む。グリグリ攻撃はいつものことなのだが、美和が思っているより仁が痛がるので余計にやりたくなるのだと美和は言う。


 美和が自分の分も用意していた缶コーヒーを開け、一気に飲み干していく・・・・上を向いているため、肩に掛からない程度に切りそろえられたショートヘアーが、普段隠している横顔と細い首筋を露出させる。

ゴクゴクと喉が音を立てコーヒーが飲み干される、その首筋を見て仁は一瞬美和に女としての艶かしさを感じた。


お互いに好意は感じているのだろう、お互いの好意をわかってもいるのだろうが、「今」はこの関係がいいと互いに納得しているのだろう・・・・そおいう関係も・・悪くはないのだ・・・ 


「夕方からINして、クエスト終わったら中で寝ちゃって・・・・」


「酔っ払ってINして、そのまま寝てしまったんだね~~~きみは~~?」目ざとくビールの空き缶を見つけ、これ見よがしに仁の目の前で美和は空き缶を振ってみせた。


「そのとおり」缶コーヒーを手の中でもてあそばせながら、仁が答える。


ふわっと、ビールとコーヒーの缶が美和の手を離れ、両方とも少し離れたゴミ箱に吸い込まれていく。


「で・・・・?どんなクエだったの??」の問いに、ありのままを話していく仁・・・・


「なるほどね~と」美和が納得する。「多分精霊族の初期街なんだと思う、4メートルくらいの石垣に囲まれた町じゃなかった?私は今回エルフっぽい精霊族選んだから・・・・でもな~~~?マリーなんてNPCいったっけな~~?あの町に??」と考え込む美和。


 クエストならどんなクエストでも全部受ける美和(クエストマイスターの二つ名を持っていた)が覚えのないNPCなのだ・・・・

(存在自体がレアなNPCなのか、全く違う町なのか?しか可能性はないな)と仁も考えた。


 「で、何で今回は精霊族なの?めずらしく?」仁の顔がいいたずらっ子の顔になる。


「いや・・・ほれ~・・・なんだ、私も一応、女の子なわけだ・・・職関係なく、種族選べるんだから、たまには可愛いキャラを・・・・」顔を少し赤くして美和が言う。


「そうですか・・・・美和ネエも・・・・女の子ですもんねー・・・・」思い出したかのように仁が言う。


「なんだ君は?さも私が、女ということを忘れていたかのような発言は??ん?ん~~~~?」再びグリグリ攻撃が発動していた。



><><><><><><



美和はふと何か思い出したように仁の顔を覗き込む・・・・「そだ!」

「熊・・倒したって言ったけど、武器も持ってないのにど~やって倒したの??」


「いや・・・これ」と言って、仁は動物が爪で何かを引き裂く振りをする。「あとは、動脈有りそうなところ噛み付いたり」


「は~あ??そんなので・・・倒せるの??」


「野うさぎも、先に爪で足の腱を切って逃げ足止めて、首に噛み付いて倒したから、同じかなーって、頚動脈やれれば死ぬでしょう・・・」


「まあ、理屈としては正解だけど・・・わたしは、このゲームでウサギや熊とは戦ってないし!」

「っていうか・・・なんであんなすばしっこいやつ倒せるわけ?」

(すばしっこい・・・・確かに・・・・最初は手間取ったけど・・・・今は普通に狩れてるからな~~)と仁は思う。

「ん~~~~狼さんだから・・・・?」仁が考えられた唯一の答えはこれだった。


「う~~~ん~~~種族で違いがあっても、LV20までは、チャートリアル的な{レジェンド}で生活するために最低限の薬草採取とか武器の材料採掘とか、妖精を探せとかそんなクエストがほとんどで、あっても泥棒ねずみから商人達を守れだったかな~・・・・君の方向音痴は特別だからね~~」


「採取も採掘もやったことありませんが、妖精さんのよの字も見たことありまっせん」(キッパリ!)


「は~い、そこ~、威張っていえる事じゃありませんから~~」

「LV20になる前には、みんな火の妖精魔法と水の妖精魔法は使えてますから~、

使えない方がおかしいし」実際そうなのだろうと仁はおもった。


「ま~あ、私はこれから連休前最後の外来だから、行ってくるとするよ~~」

美和は立ち上がるとベット横に置いてあったスポーツバックを肩から下げると仁の部屋の玄関に向かう。仁も見送りのため美和の後について行く。

さっとスニーカーを履いて向き直る美和「じゃあね~~ん」と言って手を振りながら仁の部屋を出て行く。「がんばって!」仁の声に「あいよ!」と答えて美和はエレベーターに乗り込んでいった。


玄関の鍵を閉めベランダへ・・・下を見ると美和ネエが細い体につりあわない大型の電動バイクを駐輪場から車道へバックさせようとしている。

(よくもあんなデカ物を・・・)仁は感心しながらその姿を見つめる。

難なくバックしたバイクはそのまま甲高いモーター音だけを残して走り去っていった。


仁の部屋に静寂がもどった。


「朝飯・・・何食おうっか?・・・」急に空腹を覚える仁君だった。



><><><><><><





 2151/05/04 AM  フェニックスゲームズ本社  VR・技術開発部、部長室



 朝礼を今しがた終え、コーヒーメーカーで落とした入れたてのコーヒーの香りが部屋中に香っていた。道上にとっては少しリラックスして、その日にすべき事を整理していく貴重な時間となっていた。

 ”ガチャ”ノックの音も無くいきなり開かれた部屋の扉から、「レジェンド」の開発責任者である高橋雄一が勢いよく入ってきた。

「道上さーん、このシステムのロゴなんですけど~」詰め寄るようにデスクの前まで走ってくると、十数枚にわたるゲーム内データを書き換え及び書き加えしたことを示す書類を突きつけてきたのだ。

(やっぱりきたか~~しゃあないな~)とあきらめる道上。

「あ~それね。どうかした?」はぐらかすように道上が言う。


「どうかしたじゃ~ないっすよ~。こんなスキルや装備・・・こっちに何の相談もなく作られたんじゃ~」


「困るの??」・・・・狸であった・・・・


「困りますよ~、ゲーム内のバランス考えて、こっちは一生懸命やってるんですから~」高橋は、勘弁してくれと言わんばかりの表情をしていた。「この奇遇クエストですか、これが出たことで、ゲームの中大騒ぎになってます。それとマリーってNPC探しも・・・」


「居ないよね~PCプレイヤーキャラクターだから」あっさりと道上が言う。

「東条しってるよね?」


「はあ~?知らないいわけないじゃないですか!でも・・・今はそんな・・・」


「東条は、パン作りが得意でねー」道上が高橋の言葉を無視して話を続ける。

「休みに子供に作ってあげたいらしいんだが、片づけが下手で、奥さんに叱られるそうなんだ。だからVRの中で試しに作ってみたいと言い出してね~」


(それと今回の件は何か関係あるのか?)高橋は怪訝な顔をする。


「昨日、娘さんの真理ちゃんを連れて一緒に遊びに来てもらってたんだけど・・・・うちの会社としては、東条が大恩人なのは、わかるよね?」


「ええ、・・・・・ええ~、それじゃあこのマリーって・・・・」


「そう、真理ちゃんにも楽しんでもらえるように、私がGMイベントを作って、(奇遇クエスト)を仕込んだまではよかったんだが、そこに通りがかった一般のPCが参加してしまった・・・って言うのが正しいかな・・・・俺もPCが参加するなんて思ってもいなかったから、あわててクエスト報酬考えてシステムに打ち込んだ・・・結果がそれ・・・すまんな」道上は頭を下げた。


「まあ~~~、困りますけど~~、そおいう事なら・・しょうがないかと・・・・」高橋は頭を抱え込む。

「3ヶ月に1回位しか発生させませんからね(奇遇クエスト)は、新しいクエスト、MOBキャラクターのUPデートでいっぱいいっぱいなんですから」


「すまないが・・・よろしく頼む」道上は改めて、高橋に深々と頭を下げた。


「それと・・・・営業のほうに、無駄にある町のデータを、家族向けに分譲する案も上げといた。・・・・忙しくなると思うが、手伝えることは、技術開発の方でも手伝うつもりだから、そちらも一緒によろしくたのむ」


二人の間に一瞬の沈黙が・・・・


「・・・・・鬼だ!」それだけ言うと高橋は、肩をガックリと落として、VR・技術開発部、部長室を出て行った。


 この半年後、「レジェンド」はファミリーユザー向けに、レジェンド内の広大な敷地を分譲していくことになる。





><><><><><><




 2051/05/04  高山仁 邸(8畳1Kバストイレ付き)

                       ・・・・邸じゃないって突っ込みありがとう^^;




 昨晩夜食用に用意していた弁当を・・・・(冷蔵庫に入れ忘れ)電子レンジへ・・・・「え~~い、いっけ~~~ぇ」・・・・”チーン”(世の中には・・・・餓死して死んでいく人もいるのだ~~これくらいじゃあ死なない・・・・はずだ・・・・)


「・・・・微妙だったけど・・・・ごちそうさまでした」感謝の言葉。


 仁は早朝に見ないで寝てしまったメールのチェックを再開する・・・・・メールをひらくたびに仁の口からため息が漏れる・・・・仁の目から涙が・・・・こぼれおちる・・・・


「みんな~~~なんて・・・・容赦の無い・・・・罵詈憎怨なんだ・・・・・」

(ちっきしょ~~~~!負けるもんか~~~!)仁の心の叫びだった。


「雨にも負けず、風にも負けず、君たちの悪意に満ちた激励にも負けず・・・・俺は生きていく」と全員にメールを返信。







     仁の体に異変が起きたのは・・・・それから数時間後の事だった・・・・



 


 


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