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第2章11話 涙

残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。


第2章  11話 涙



 小人村を抜け、くねくねと曲がりながら降りる坂道からは、次の目的地である人の村が微かに見えている。その周辺に広がる田畑は、収穫を終えたのか、あぜ道だけがくっきりとして茶色のチェック模様に似た風景が眼前に広がっていた。


 「こんなに走ったのは…高校の…マラソン大会…以来だ!」

 

 賢治は今にも倒れそうに息を上げている。


 「あの時だって…10キロ…だったから…新記録…かもしれない!」


 額から流れてつたう汗が、イケ面の賢治に似つかわしくないと、その横に並走する牙は思う。

 

 走った所でステイタスが上がるはずの無い雅は、牙の中に戻っていた。


雅が光と闇の精霊に覚醒したことによる牙の体の変化は、黒い刺青の様になっていた夕顔を模したツルと葉が、緑鮮やかな模様に変化し、肩口に薄ムラサキ色の鮮やかな花を咲かせるといった変化を見せていた。


 「美和ネエ、早いって~~~! 賢治がギブアップしそうだ!」


 前を黙々と走る美和に牙が叫ぶ。振り返る美和はまだまだ余裕と言った表情を見せている。


 「賢治も男の子なのです! がんばるのです!」


 「へ~~~~い 美和親分」やる気な~い賢治の声が弱弱しく伝わる。


 「今は下りだし、もう少しがんばろうぜ、賢治!」


 少しペースダウンしてきた美和が、賢治の横に並んで走りだす。


 「まあ、前衛の盾職なら、そんなに走り込まなくてもいいと思うんだけど、バードの様な後衛職でも多少の回避が出来るように足があったほうがいいと思うんだよね! この使用だと!」


 「全てのプレうヤーが、魔法を使えるから、対人戦だと何が出てくるのかさっぱりわからないし…言える事は、足を止めた時点で、魔法の集中砲火に合うって事だけは言える!」


 三度の対人戦を経験したことにより、なんとなくではあるが「レジェンド」での戦闘行為がどおいうものなのか、解り掛けてきた気がする牙の実感だった。


 「対人やったこと無いですから! 君みたいに!」


 ペースが落ちてきたからか、口調からも賢治に少し余裕が生まれてきたことが二人に伝わる。


 「対人はともかく、MOB相手だって、足止して、出来るだけ攻撃受けないようにしないと、POT代の下敷きになるのです」


 美和の言葉に同意するように、賢治が頷く。

 

 「午前中少し狩りやったけど、全くPOT使わなかったけど…俺」


 「「は~~~~~~~~あ!?」」


 「使ってませんね、一回も!」雅も牙に同意するように言うのだった。


 「「え~~~~~~~~~ぇ!?」」


 「蛙もさくっと、いけましたよね! 雅さん!」


 「さっくっとって、まあ、一撃でした…」


 「レベルいくつの時?!」


 何か信じられない化け物を見るような目で美和が牙を見る。


 「あれ?! いくつだっけ?!」その後にすぐ千基行軍による襲撃を受け、レベルも上がってしまった為、牙にその時いくつだったかなんて覚えがないのだった。


 「30だったかと…」


 「適正Lvだ…でも俺は一撃じゃあいけなかったと思う」

賢治はレベル30だった時の事を思い出ていた。


 「やっぱり、これのおかげなのかな?」


牙は左腰に下げられた『月闇』を抜くのだが、ボロボロに欠けた刀身を見て思い出したようにうなだれる。


 「いいよな~~~! 方向音痴チートは!」


 「ううううううううううううう、わん!」牙は一瞬で狼になると、賢治に襲い掛かる振りをする。


 「ほんと、おっきい犬だな!」賢治は牙を避けようとして少しふらつきながらも、毒づく言葉を忘れない。


 「私も、鍛治さんって人に、ソードダンサー用の刀、作ってもらえないかな~?!」


 「今度あったら聞いてみる、高校の時の友達の分も頼めたし…受けてくれると思うけど…」


 「うん! お願いして欲しいのです!」


 「俺は~~~~~~~、ギターが出来たら、ギター使うからいいや!」


 「レジェンド」の初期装備(NPCが売っている物)の中には、『リュート』や『マンドリン』の他に『打楽器』が用意されていたが、それらをメインの武器として戦闘を行うプレイヤーは、楽器の種類の少なさも手伝っているのかごく少数と言ってよかった。

 賢治の発言は、いずれこの世界でもギターを作る職人が現れるだろうという、希望的観測でしかなかったが、誰の目にも楽器の種類が増えることがわかるイベントがこの後に開催される事になる。


 序盤プレイヤーが主に戦う『妖獣』と呼ばれるMOBの強さやデザインの設定が、VR・MMORPGの初心者にも対応する為に、現実の世界の昆虫や両生類のグロテスクさを消したデザインを採用していた。これが近接戦用の武器の使用者を増やす要因となっていた。

 序版の攻略に於いては、パーティーによるプレイよりも単独でヴァーチャルリアルティーの戦闘に慣れて欲しいという運営サイドの考え方が反映された結果といってよかった。


 三人は話しながらも、やっと、くねくねとまわる様な峠道を下りきったところで休憩を始める。人の村の建物がその輪郭をはっきりと確認出来る程に近づいている。後は田畑の中を微妙に歪曲しながらもゆるやかな坂道となっている幅11メートル程の道を下るだけで人の村に到着するのだ。


 「この峠、舗装されてたら、絶対バイクで走りたい!」今降りてきたばかりの峠を見上げながら美和はバイクのスロットルを開ける仕草をする。


 牙はその姿を見ながら(美和ネエらしいわ!)と思うのだ。一度だけ後ろに乗せてもらってツーリングに出かけたが、二度とタンデムは嫌だと牙が思うほどのライディングを美和は披露した。


 「俺は遠慮する!」すかさず牙が拒絶する。


 「私一人で走ります~~~~~!」


 美和は少し唇を尖らすが、でも頭の中では舗装されたこの道をバイクで駆け抜けるイメージを膨らませているのが牙と賢治にわかるほど、楽しそうな顔をするのだ。




><><><><><><



 牙達とは逆の方向から、小人村を目指す3人連れのプレイヤーがいた。


 「あれ! 人がいる!」藍色の着流しを着た鬼族の青年が言う。


 「珍しい! こんな所に来るプレイヤーがいるんだな!」白いチャイナドレスに空色の羽織を肩からはおった精霊族の女性だった。ピッちっとしたチャイナドレスに胸の大きさが、強調されている。


 「方向音痴ワンコみたいなのは、希少種だと思うが…」平均180センチ近い三人の中でひときわ大きい人族の大男だ。


 「ワンコ! 牙っすよね! それ!」そお言うと鬼族の青年が大笑いし始める。光だった。


 「まあ、ワンコと言われても、しょうがないような可愛さはあるような…」雪朱雀は、牙の顔を思い浮かべながら、その美しい顔を微妙に顔を引きつらせていた。


 「なかなか愛嬌のある顔してるじゃねぇか、ワンコは! 嫌いじゃあねぇ」


 「えええええええええ! 鍛治さんそっちの気がああああああああ!」光は鍛治がすぐに冗談とわかるような言い方をする。社会人一年生といっても、自分の上司と上手くやるすべは身につけざるおえないのが社会人である。目上の人間に冗談を言うのに冗談を言っていると相手が判るような言い方をしないで、こっぴどい目に合わされた経験がそうさせる。


 「二人の娘の親父に、それはねぇ!」鍛治が言い切る。


 「ですよねえええええええええ!」


 頭をかきながら、おどけたような言い方をしていく光を横目で見ながら、変われば変われるものなのだと雪朱雀は同級生の成長?を頼もしく見つめていた。



 鍛治は牙と雪朱雀がポーリング南側の敷地で行った姉弟喧嘩で、口を挟んだことに対し、(余計な口出しをした)という気持ちになり、雪朱雀に対する謝罪をしようと残された雪朱雀が泣き止むまで待って、謝罪しようと考えたのだった。


 光と雪朱雀の話し合いが終わるのを待って声を掛け、雪朱雀に謝罪し、雪朱雀も魔法攻撃を使った事に対する謝罪をし、千基行軍の副隊長に対するPKに及んだ経緯等も話合い、雪朱雀が部下の至らない行為を謝罪することによって関係の修復をはかった。


 雪朱雀は光の提案により、鍛治の鉄鉱石採取に付き合わされるはめとなり、現在はその帰り道なのである。


 鍛治に対しても、光に対しても、出すぎた事をしてくれるという思いは今は持ち合わせていない。


 「本当の思いのノッタ剣には、本気の剣で返すのが礼儀だ!」と語られた鍛治の言葉に、雪朱雀が牙との剣の打ち合いで感じた寂しさが正にそれであると実感したのだった。


 語らない剣、伝わらない思い、それが雪朱雀の寂しさを深い闇へと誘い込む。



 またあの頃のように、戻りたい!



 同じ趣味を持つもの同士で語り合えたあの頃に…



 姉弟の前に友達であったあの頃に…





 

 「あれ?! あいつ仁だ!」





 光の叫ぶその声に、いつの間にか頬をつたう涙をふき取る雪朱雀がいた。


 





最後までお付き合いいただき大変ありがとうございます。

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