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第2章  9話 走れ走れ!

残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。


第2章  9話 走れ走れ!



 精霊の町を出て馬にまたがる美和と賢治、そんなものは知るよしも無い牙は狼になって走り出す。すでに葉の落ちた広葉樹のおかげで左右を森に囲まれている街道に覆いかぶさる枝からの圧迫感を消していた。葉の枯れ落ちた枝の先には、どこまでも抜けていきそな秋空が広がっている。


 「仁は、早すぎなのです!」PT通話に設定された音声チャットに美和が大声で叫ぶ。振り返った牙は走り出して30秒と経っていないにも関わらず50メートル以上の開きが出来ている事に少し驚いて走る速度を落とすのだった。


 「馬に乗ってるくせに…」悪態をついてみる。


 「方向音痴チートの君と一緒にしないで欲しいな!」すかさず賢治が返す。


 牙の頭の中でいつもの音がして『走る』がLv 25にレベルアップしたことを知らせ、もう一回鳴って「アクティブスキル『加速』を覚えました」とアナウンスがされ、その言葉に牙がいっきに減速し人の姿に戻る。


 「二人とも馬から下りて少し走った方がいいかも!」


 馬をあわてて減速させた二人が牙のところまで来て怪訝そうな顔を見せるのだった。


 「ええええええええええええええ! なんで~~~~!」まだ馬から降りようとしない美和が大声で叫ぶ。


 「狼族の君と一緒にされても困るのだが!」賢治は馬のゆれで下がったメガネをいつもの様にフレームをつまんで持ち上げる。


 「二人とも今の『走る』のLvは?」


 「走りながら狩をしていたので15なのです!」Vサインを作って誇らしげな美和。


 「なにいいいいいいいいいいいいいいい! 8だ!?」


 「まじっすか……」(俺はいき過ぎだよなあああああああ)と思いながらも三日目位には15超えてたよなと思い出しながら牙ががっくりと肩を落とす。


 「いや…俺、今25に成ったんだけど、『加速』って上位スキル発生したから…二人はどうなのかな~~って思ったんだけど……」


 「25! チート過ぎる…」賢治はあまりの開きに愕然と肩を落とし、スキル扱いの馬を消し去るのだった。


 牙は思考操作で先ほど発生したばかりの『加速』について詳細説明を呼び出す。


 「加速=30秒間、移動速度が走るの1,5倍(走るのスキルレベルが上がる程効果はアップする)になる。消費MP50、クーリングタイム2分。だそうだ」


 RPGにおける戦闘中の移動速度の速さは、それ自体が武器とも防具ともなる。戦闘中に足を止めているだけで、そのプレイヤーは遠距離攻撃を行うものの格好の的となり、圧倒的な力量の差が無い限り、相手の足を止める事こそが、戦闘状況を有利に導くカギと言ってよいのだ。(と作者は思っています…感想ならびに意見等受付中^^;)


 「1,5倍…騎乗しながらの戦闘は不可みたいだから、走りこみしとかないとキツイカモ!?」 


 美和の言葉に牙と賢治が無言で頷いた。


 「走ることでスタミナもつくから、スタミナ切れたら食事取る感じで、がんばって行ってみようっか!」


 「ミャミャ~~~!」と叫んで黒嶺が牙のバックの中から飛び降りる。


 「黒嶺さんも走るの?」


 「ミャ~~~!」と言って開かれた黒嶺の口に長い犬歯を確認する。やっぱりこの犬歯は痛そうだと、今更ながら牙は噛まれた時の痛みを思い出し背筋に悪寒を覚えるのだった。


 「しゃ~ね~~~~~な~~~~~~!」諦めた様な口調の賢治が意の一番に走り出し、それを追いかけるように黒嶺が着いていく。


 「ふう」美和は、ため息を一つ、馬を消して走り出す。


 「ソードダンサーが途中で息切れしてたら、かっこ悪いのです! 華麗さのかけらも無いソードダンサーは、いやなのです~~~~!」猛然とダッシュしていく美和。


 「負けるかあああああああああああああああ! ダーッシュ!」牙も負けずにダッシュする。


 ”ポーン”「アクティブスキル『ダッシュ』を覚えました」のアナウンス。


 「ダッシュもスキルだああああああああ! 今、ダーッシュ! って言って走り出したらスキル習得のアナウンス鳴ったあああああああ!」(何でもいいから、思いついたスキルの名前口に出したらスキル発生するかも!?)と思いつつ、牙はジャンプして(二段ジャンプ)と口に出さずに叫ぶ、一気に二階建ての建物の上くらいまでジャンプしてしまっている自分に気づき少し後悔。いつもの音がな鳴ってスキル習得のアナウンス……(どおやって、おりるんだよおおおおおおおおお!)自由落下し始めた恐怖の中、声にならない叫びを上げる。


 「いっけえええええええええ! ダッシュ!」と賢治。


 「ダッシュ!」と続く美和。


 「うああああああああああああああああああああ! 空中歩行!? なんてね!?」(こんなにジャンプ出来るんだから、空中歩行もある?! 無かったらしぬううううううううう!)二人をおおきく抜き去った牙が空中を走り、徐々に降下、着地する。


 「死ぬかと思った!」少し涙目になった牙が、二人に振リ向いて苦笑いする。

 

 「はひ!?」目を大きく見開いた美和が口をぽか~~んと開け走ることを忘れる。


 「なんなんだあああああああああああ! そのチートはああああああああああ! そこは落ちとけ! いや、牙! 君は落ちるべきだった!」 


 「いあ…ジャンプして、二段ジャンプ!って思ったら、マジ飛んでしまって…マジ怖かったっしいいいいいいいい!」


 「落ちなくて、よかったですね…」と雅もほっとしたような声で牙に声をかける。


 「いやあああああああ、ですです! 落ちなくて本当によかった!」


 賢治と美和の首が同時に右へ傾く。


 そんなに高くなく、やさしげな雰囲気をもった雅の声がPTチャットを通じて始めて二人の耳に届いていた。


 「えっ! だれ?!」


 「はひ?!」


 「はじめまして、わたくし、牙さんの契約精霊の『月夜闇の雅』と申します。牙さん共々宜しくお願いいたします。 m(^▽^)m」顔文字の部分だけが画像表示される。


 「あ、え、え、は、はい~~~~~~?!」


 「よ、宜しくお願いします?! って……はっひ?! なのです!」


 二人とも何が起こっているのか微妙に理解していない様子が牙に伝わる。


 「いあ…俺と契約してくれた契約精霊の雅さんは、俺の中のここに居ていつも一緒なんです…」


 牙が自分の腕に入った刺青の様な模様を指差して説明する。


 「この白いコートも雅さんが作ってくれた物だし…」


 少し照れたような顔をして牙が言ったのを美和は見逃さない。ピックッと一瞬美和の眉間にしわがより、腰に下げられた二本の片手剣の右側を鞘ごとベルトから外すと両手で持ち、大きく振りかぶる。


 「とんでいけえええええええええええええええええ!」牙の背中を渾身の力で打ち付けるのだった。


 5メートルは転がりながら飛ばされる牙、片手剣の鞘もついでに飛んでいく「いって! いって! いってえええええええええええええええええええ!」


 三割程のHPを持ってかれていた。


 「うん! 今のは、いい当たりだったのです!」ホームラン予告をするバッターの様に美和の左手に掲げられた片手剣が空の一点を指している。


 「会心の一撃と言っていい当たりだった!」何を納得したのかよく判らないが、賢治が腰に両手をあてて、うんうんと言うように首を二回ゆっくりと縦に振る。


 「俺は何か悪い事をしたのか?」飛ばされた場所にあぐらをかいたまま、つぶやく様に言葉を吐き出す。バックから2つほどHP回復丸薬を取り出した牙がそれを割り、オレンジの香に包まれ、HPと打撲、地面を転がった際についた擦り傷が回復していく。


 「女の子に服をプレゼントされて喜ぶとは、日本男児としてあってはならない事なのです! 今回はこれ位で勘弁しとくのです!」


 (何の話だああああああ? そんな日本男児の心得聞いたことねええええええ!)大声で叫びたい気持ちを抑えた牙が心の叫びをあげる。


 (牙さんが、女心をわかっていない…ということです…)と雅が少し冷たい声で、二人に聞こえないように牙に語りかけた。


 「はあ」とため息が一つ牙の口をついてでる。


 「ジャンプ! 空中歩行!」と言いながら二人が牙の頭上を走リ抜けていき、着地したところでへったったように座り込んだ。


 「あっれ!」と賢治、「はひいいいい!」と美和が叫ぶ。


 「スタミナ切れみたいですね…」と雅の声がする。「空中歩行で一歩移動するたびに、スタミナが20減ってしまうようです」


 「スタミナ依存のスキルなのですね…」


 美和と賢治がバックからパンを取り出して食べ始めている。


 「使いどころを選ばないと、それと、スタミナを伸ばすようなトレーニングしないと、使えない死にスキルになる可能性がおおきいと言っても過言ではない!」


 「まあ、言いたい事は、伝わってきた気がするが、少し無理があっただろう! 今のは」


 牙の主張に美和が同意するように一回だけ首を縦に振る。


 「何を言いたいかは伝わって来ました」という雅の声に、賢治はがっくりと肩を落とす。


 「雅さんって、結構言うのね~~~!」


 「俺が道間違えると、結構な冷たさで怒られますが……」


 「それはお前が悪い!!」 「それは君が悪い!!」 「それはあなたが悪い!!」

 三人が発したそれぞれの言葉が同時に重なって、牙を攻撃する。


 「そんな三人そろって同時に言わなくても……」


 「とうぜんです!」またも三人の言葉が重なって言われ、三人が笑い出す。


 牙のあぐらをかいたふくらはぎに乗ってきた黒嶺だけが、首をかしげてわかんないというようなしぐさをするのだった。


 


 「僕の見方は黒嶺さんだけです~~~~!」街道に牙の叫んだ声がこだましていった。 








最後までお付き合いいただき大変ありがとうございます。

また、お気に入り登録ありがとうございます。筆者の励みになっております。

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