第2章 7話「伝説の少女マリーちゃん!」
この物語はフィクションです。実在する個人団体等一切関係はございません。
残酷な描写が含まれる部分があります。苦手な方は御遠慮下さい。
伝説の?少女マリーちゃん! 久々の登場です!
レジェンド Online
ほのぼのと
第2章 7話 「伝説の少女マリーちゃん!」
「うああああああああああああああああ! なんてこったああああああああああああ!」牙の叫ぶ声が精霊の町中心部に響き渡った。
つい先ほど鍛治からのメールがあり、後で時間をとって『月闇』をメンテしに来るようにとのメッセージが送られて着ていたのだ。
雪朱雀の滅茶苦茶な打ち込みを彼女の体力が尽きるまで全て受けきったのだ。雪朱雀が興奮状態の中、牙もそれにつられる様に平常心を失っていた。『月闇』の状態まで気がまわっていなかったのだ。鞘から抜かれた『月闇』のあまりに悲惨な状態に牙は、悲痛な大声をあげたのだ。
「えっ?」と雅が呟く。
(おいおい…)と賢治。
(そっち~~~~~ですか~~~~~?)と美和。
「ハミャ?」と黒嶺が声を上げる。
3人と一匹の声にならない突っ込みが……精霊の町の空気を重くよどんだものに変えていくのだ、が……KY野郎が一人、刀を見ながら落ち込んでいる。
美和と賢治の二人も野次馬に紛れてあの場所での出来事を見届けていた。あまりの衝撃的な出来事に二人は見なかった事にして牙と接しようと決めて待ち合わせ場所に先回りし、牙が自分たちの前に現れるのを待ったのだった。
普段からあまり自分の事を話さない牙だっただけに、同じような年頃の義理の姉が居ることに驚いた二人だったが、義理の姉と言えば他人も同然とも言えたので牙の口から今までその事について話が出なくてもなんら不思議な話ではないと二人はそれぞれに考えていた。
それ以上に今、目の前に居る牙が自分の刀がボロボロになっていた事に対して落ち込む姿が何とも情けなく、3人と一匹の目に映し出されていた。
「形あるものは、いつかは壊れるのです! 壊れるのは、しょうがないのです!」
美和の一喝に道の真ん中だというのに、しゃがみ込んで落ち込み続けた牙がやっと立ち上がる。
「はい…すいませんでした…」
ペコリと下げられた頭を、上から賢治が平手で叩くのだった。
「全く! 道具に対する思いやりも、度が過ぎれば命取りになるから!」
「そのとおりです…すいません…」突っ込まれ続ける牙を、雅が牙の頭の隅っこで笑っているのが牙に伝わってくる。
「わかればよろしい!」
腕組をした美和が少し偉そうに言うのだった。
サービス開始当初は人で溢れかえっていたこの町にプレイヤーの姿は、彼ら以外に見当たらない。三人が居る場所から、マリーのお父さんがパン屋を開いていた店舗も遠目に見ることが出来るのだが、方向音痴の牙はどっちだっけ?と、あちこち見回すのだ。
「何をしてるいのだ?」牙のとる不穏な行動に賢治が気づく。
「いや、ほら、あの、あれだ! ん~っと?」
「あれだの、それだの、わけの解らない事を言うなあああ!」
賢治のげんこつが飛んできた。
「いってえええええええええええええっし!」牙は叩かれたところに、たんこぶが出来ていないか確認するように頭をさわる。仮想現実ゆえ、そこまで現実と同じようにはなっていなかった。
「お前がちゃんと名詞を言わないからだあああああ! 何年日本語の勉強しているんだあああ! 君の脳には、しわが増えないのか?!」
「んな事言ったって人間は忘れる動物なんだから、しゃあないだろうが!」
「現実ならたんこぶ出来てるぞ! いってえええな!」少し怒った口調で牙が言う。
「現実じゃないから、そこまでやるんだあああああ!」
二人のやり取りに美和が噴き出して笑っている。
牙が何かの匂いを嗅ぎ分けるように鼻を鳴らす。小麦を焼く香ばしい香が牙の嗅覚を刺激した。
「これは! マリーちゃんのお父さんが焼くパンの匂いだ!」
「伝説のマリーちゃんなのか?!」賢治がオタク全開の声をあげる。
「マリーちゃんって、どこ探しても居なかったっていう? あのマリーちゃんの事なのですか?」
牙が大きく首を縦にふって頷く。
「マリーちゃんのお父さんの焼く胡桃パンが、むちゃくちゃうまいのです! その香ばしい香が向こうから!」
牙の指差した方向に『マリーの為のパン屋さん』と見落としてしまいそうなくらい小さな木で出来たプレートの看板が、店の戸口の上にちょこんと金具で吊り下げられていたのだった。
「あんなお店なかったはずなのです!」美和が言った時にはすでに牙は狼の姿になって走り出していた。
いきなり狼になったため、肩に乗っていた黒嶺が引きずられるように牙のシッポにしがみついて、牙と共にパン屋へ連れ去られていく。その後姿を見ながら賢治と美和も走り出していた。
「まりーちゃあああああああん! いまいくよおおおおお!」
「このオタク馬鹿があああ!」と罵りながらも美和は、鼻に感じるパンの香に我を忘れて全力疾走していく。その距離100メートル程牙があっという間に到着し、木の枠に真ん中が厚手のガラスになった店のドアに前足を掛ける。
マリーとその父、もう一人初老の老人が一瞬だけ姿が見えた。その初老の老人は、店の奥へと身を隠すように引っ込んでいった。どこかで見た記憶のある後姿のように牙は感じるのだが、それよりもパンのうまそうな匂いに気をとられれる。
牙は前足で木の部分を爪とぎの要領で何度か擦り付けていく、中で気がついたマリーが飛んで来る。
「しろちゃんだ~!」金色の髪に青い瞳、全体的に幼児体形が抜けていないため、ふっくらした印象が伝わる。ちょっとふっくらめの頬がうっすら赤く、ツネツネしたくなるくらいカワユイのである。
勢いよく外に向けて開けられる扉に、避けるのを忘れた牙があごをガラスに打ち付けて飛ばされていく。
「ギャイン!」という鳴き声をあげ白い狼が2回転もしながら空を舞い、鈍い音と共に落下した。
全開になった扉の前にちょこんと座る無傷の黒嶺が飛ばされた牙を振り返り「ミャ~~ァ」と鳴くのだ。
店の入り口でたたずむマリーはその黒いライオンの赤ん坊を凝視する。「くろたん?」の問いに「ミャ~~ン」と鳴いて黒嶺が答える。
ようやく起き上がった牙を指差して「しろちゃんと、くろたん!」
大喜びで声をあげるマリーだった。黒嶺は差し出されたマリーの手を小さな舌で舐めはじめ、そこに追いついた二人が合流する。
「やはり、期待以上のボケをかましてくれるのだね! 牙!」と笑いが収まらない賢治がいつもどうりの芝居じみた口調で言う。
「君は仕事以外だと、どこか抜けているのです!」と言う美和も吹っ飛ばされた牙の姿がツボにはまったようで、笑い続けるのだった。
頭も打ったのかフラフラした白い狼はぺたんと店の前の石畳に座り込み、いつかのように眠りにつくなか、店の中に入った賢治と美和の二人は、マリーの父に出されたパンのおいしさに舌を唸らせるのだった。
「えええ~~~! 独学でこんなに美味しいパンが、つくれるのですか!」マリーの父と楽しそうに会話を続ける美和とは対照的に、にんまりとした顔で、十畳以上はありそうな広い店の中をおぼつかない足取りで走り回るマリーの姿を見つめる賢治は、オタク全開のオーラを放つ。
(マリーちゃんプリ~~~~ズ! ってスレ上げたの絶対こいつだ!)とその姿を横目で見る美和が確信する。
マリーと黒嶺は、お店の中で小さな黒嶺が隠れ、マリーが探すという、一方的なかくれんぼを始めているようだった。
美和は目の前でパンについて話すマリーの父が何処かであっている様な不思議な感覚を覚えながら、その理路整然とした話し方に研究者のような雰囲気を感じ取っていた。
「ぶしつけなお話なのですが、どちらかの大学で研究か何かをしてらっしゃいますか?」
美和の問いにマリーの父は、少し驚くのだった。
「よく判りますね! パッケージにも名前が載ってるので隠す必要も無いですが、環太平洋医療大学で脳神経を研究してるんです。このゲームのV・R 開発の責任者とは同じ大学で研究していた友人なので、今回このゲームを開発するお手伝いをさせていただきました」
美和が納得したと言うような顔をする。
「環大の東条教授?!」やっと頭の中から目の前の人物の名前を搾り出す。
「他のプレイヤーさんには、内緒にしといてくださいね」と内緒の意味を込めて東条は「しー」と言いながら右手の人差し指を立てて口元に持ってくる。それを観た美和がはいと言うように黙ってうなずくのだ。
「リアルの家でやろうとすると、妻が片付けるのが大変だっていい顔しないもんだから…それで特別にここのスペースを借りて娘の為にパンを焼いているんです。ここならいくら汚しても3分もすれば飛び散った粉やなんか消えてくれますから」照れくさそうに笑うその笑顔は、美和の知る父親の笑顔そのままというものだった。
「娘さん可愛いですもんね…」美和の視線の先にマリーに見つかって抱き上げられた黒嶺がマリーの頬を小さな舌で舐める様子がうかがえた。マリーはくすぐったいらしく、舐められている右の方の目をつぶって、それに耐えている。
「本当に目の中に入れてしまいたいくらい! 真理が可愛くって!」
完璧な親馬鹿の表情をする東条に美和は、幼い時に自分とよく遊んでくれた父の面影を重ねあわせるのだった。
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