第2章 6話 明けない夜はない!
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
レジェンド Online
ほのぼのと
第2章 6話 明けない夜はない!
光《光輝》は、また牙《仁》の一番見たくない表情を見てしまった。どこからか溢れ出る寂しさが、ミゾレ交じりの雨に当たって全身を冷やしたような冷気となって伝わり、それは人の持つ温をどこかに置き忘れてきた『物』の様に光に感じさせた。
(三年前…俺は、この表情をしたこいつから目をそらした…本州の大学付属の看護学校へ行くと言い出した仁に、もうこの表情を見なくてもすむ…と思った)光の記憶がよみがえる。
親子の感情のもつれ、光は他人が踏み込むべき問題では無いことは解かっていた。それでも何とかしてやりたいと思う気持ちがあったが、現実は傍で見守ってあげるくらいのことしか出来なかった。
雪朱雀が最後に吐いた言葉に(なぜ、そこに土足で踏み込む!)と光の中に怒りが沸き起こり、いつの間にか泣き叫ぶ雪朱雀の前に立って居たのだった。
いつも凛として、堂々とした態度で全校生徒の前で話す生徒会長の姿からは懸け離れた存在の彼女がそこに居る。仁達が通っていた高校きっての秀才、地元有力企業グループの次期社長を父に持つお嬢様で、『気が強すぎる男勝り』という事を除けば、地元でも有名な美少女だった。
どれくらい泣いていただろう。
(あの高山美雪が……)と思う気持ちが光の中に芽生えたが、それでも(仁にあの顔をさせた原因はこいつだ!)という思いが、光をこの場に留まらせていた。
千基行軍の団員の何名かが雪朱雀に近づこうとしたが、光が傍を離れない為、野次馬と共にいつの間にやら姿を消し、二人だけがポーリング南側の更地に残っていた。
泣き疲れ、目を腫らした雪朱雀が顔をあげ、目の前に立つ光がかつての級友の佐藤光輝である事を確認する。
「佐藤か、久しぶりだな」
雪朱雀は泣き崩れた後も地面に刺さったまま立ち続けた自分の剣を杖代わりに起き上がり、牙への一方的な打ち込みでボロボロとなった剣を鞘に収める。
光は何も言わないでただ頷いただけだった。
「見ていたのか?」
「ああ」光は今にも拳を雪朱雀の顔面目がけて振るいたいと思う気持ちを抑え、言うべき事を自分の中で整理する。
「美雪! お前…出しゃばり過ぎだ!」整理したはずの言葉が出ず、思わず自分の気持ちがストレートに口からでてしまっていた。
「な! ……」
目を見開いた雪朱雀が何か言おうとするが、その隙を与えず光が続ける。
「…他人の俺が口出しすることじゃないが、あいつの気持ちも考えてやれよ…多分お前んとこの家族で一番つらいのは、あいつだと思うぜ…帰る場所が無いっていうのは、精神的にきっついはずだぜ」
雪朱雀の顔色が光の言葉に赤みを帯びていく。
「なんだと! 帰る場所ならわたしの実家があるでわないか! 仁の母親だっているのだ! 何を遠慮することがある!」
(わかってね~~~~! 全然、わかってね~~~んだ『こいつは』!)先ほど振り上げようとしておさめた光の拳に思いっきり力が入る。
「そぉ思えるのは、お前達家族だけだと思うぜ! あいつにとっては、母親の再婚相手の家っていうだけだろう……お前も仁の立場になって少しは考えてもいいんじゃないか?」
「……そんな!」
美雪にとって父の再婚は喜ばしい物だった。
幼くして母を失い、父と母親代わりをしてくれる父の母と数人の家政婦が幼い美雪の世話をしたが、母と呼べる存在の欠落が、自分自身を守る為に過度の自己主張を美雪にさせた。そしていつの間にか美雪という人格を支える核となっていた。
美雪の父が再婚の話を美雪に告げたとき、美雪は一応反対の意思を示した。しかし、心の中にあった『母への憧れ』から、紹介され何度か食事を共にするうちに、反対の意思は消え、早くこの人の娘になりたいと思うようになっていた。
最後まで一人反対していた仁は、その1年前に仕事上の事故で死亡した父親の実家で、祖母が預かると言うことで了承された。
再婚後は家を守る母が居るとの安心感から、学校の中でも雰囲気が優しいく変わったと、誰もが口に出し美雪を称えた。その母となった人が時折見せる寂しい表情は、息子が最後まで反対し美雪達家族との同居を了承しなかった事が原因であるだろう事は、美雪にも容易に想像出来る事だった。
「わたしはただ……母と呼べる存在が居るというだけで、それだけで嬉しかった。……優しいあの人が、時々寂しそうな顔をするのが、たまらなく……嫌なのだ…」
泣き過ぎて、枯れているだろうはずの涙がまた雪朱雀の目に浮かぶ。
「それは、お前の気持ちだろう!」思わず大声を上げた自分自身に光が驚く。
「お前の言ってることも解かるさ! 自分の家族が一人寂しそうな顔をする…たまらない気持ちになるさ! 俺だって!」
「その原因を作ったのが、仁のお袋さんとお前の親父なんだから、しょうがないと思うけどな……親父さんが死んで1年もしないうちに再婚話が持ち上がって! あいつの気持ちを少しでも考えられたら、あいつを責める気になんかならないはずだ!」
雪朱雀にとって、光の言う言葉はいちいち胸に突き刺さる言葉だった。
反論のしようの無いその言葉に、ただうつむいて溢れ出る涙が頬を流れ続けていた。
「こう言ちゃあ何だが、お前も部外者なんだよ…仁にとっては! 仁と母親が二人で解決すべき問題なんだよ」
雪朱雀は光の『部外者』という言葉に更に胸の底をえぐられる思いだった。籍が入れば家族なのかと言われれば、そうでは無い事くらい解かっていた。それでも家族でありたいという気持ちと、家族みんなが優しい顔をして暮らせる時が早く来てほしいと心のからの叫びが雪朱雀を動かしてしまっていた。
「家族とは何なのだ? みんなが幸せになろうと努力するものではないのか?」
自分に問いかけるように言われたその言葉は、光に対してのものではなかった。
「仁の気持ちはずうっと置き去られてる。あの時のまま、何にも変わってない! さっき美雪に何か言った時の顔は前と何も変わってなかった…」
「2年だぞ…もう……」吐き出すように言われた雪朱雀の言葉が、自分たち以上に長くこの2年間を苦しみ続けたのだろうと思わせる重みを感じるのだった。
「時間なんて関係ないだろ…」(仁の過ごした2年間はもっと長かったはずだ…)と仁の気持ちを考えて出した結論だった。
「わたしには……何も出来ないのか?」
「今は、そっとしといてやれよ…許せるときは必ず来るさ! 家族なんだから!」
光の希望的観測を含んだその言葉にだまって雪朱雀は空を見上げる。作り物の秋空の高いところを雲が流れていく。
「必ず!」と決意のこもった声を雪朱雀があげた。
「必ず!」光もそうなって欲しいという願望を声に込める。
「あいつにとって夜が少し長いだけだ…必ず朝はくるさ…」
「そうだといいが…」光の言葉に、出口の見えなかった真っ暗なただただ広い部屋にかすかに出口の光が見えた様な気がする雪朱雀だった。
「まっ、つうことで、俺もお前も当分あのバカに付き合わんきゃならないわけだ! フレンド登録よろしく!」すがすがしい顔をした光が雪朱雀に手を差し出す。
「手のかかるバカな弟共々! よろしく頼む!」差し出した手を握り返した雪朱雀の顔は、何か吹っ切た明るい顔をみせる。
「ああ! 手間のかかるバカ姉弟だけど、しゃあないな!」
「わたしをあいつと一緒にするなあああああああああああ!」
光の顔面に雪朱雀のグーパンチが炸裂していた。
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2012・07・07 千基行軍が、百期行軍になっていたたため、訂正いたしました。
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