第2章 3話 雪朱雀
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
二番目の契約者登場です!
レジェンド Online
ほのぼのと
第2章 3話 雪朱雀
牙は黒嶺を気づかれないようにしっかりとバックの中にしまいこんでから工房へと足を踏み入れた。黒嶺の事を説明する煩わしさと、少女二人に黒嶺がおもちゃ扱いされるのを嫌ったためだった。
鍛冶が二人の娘を紹介した後に牙も一応の自己紹介をすます。鍛冶の娘たちは鍛冶から渡された日本刀を受け取ると大はしゃぎで鍛冶屋の工房を後にしていった。
姉が凜、妹が菜奈と紹介された姉妹は年子で中学1年生と小学校6年生とは思えない程の背が高かった。鍛冶が190センチ以上あることを考えれば二人とも170センチ近くあるのは当然のように牙は思うのだった。
「その刀で、人斬ったみたいだな! ちょっと見せてみろ」つい30分程前の事だ、鍛冶にも牙がPKで相手を返り討ちにした事は承知の事だった。
燃え盛る炉の前に座る鍛冶は額から汗を噴出させている。息苦しくなる様な熱気のなか牙は言われるままに腰に下げられた「月闇」を鍛冶に渡す。
鍛冶は「月闇」を鞘からゆっくりと何かを確認するように抜いていく。黒い刀身が姿を現し鍛冶は刀身を上に向け刃こぼれが無いか視線を流すように観ていく。
「大丈夫みたいだ…で、使った感じはどうだ?」
鍛冶は刀を鞘に戻し牙に差し出す。牙は鍛冶の差し出された右腕の上腕にチラッと赤い模様の様な物が見たのだが、近くで燃える炉の赤い光が目に錯覚を見せたのだと判断した。
「怖いくらいの切れ味です」
「で、どこを斬ったんだ?」
「首、でした」
「俺の刀が斬ったのは、胴の次は首だったか」鍛冶は笑い出す。
「で! あまりにも相手が手ごたえ無かったんで、面白くもなんとも無かったって感じだろぅ」鍛冶がじっと牙の目を覗きこむようにして言うのだった。
「え…いや…」牙は答えを濁すのだが、手ごわい相手とやりあった後のような充実感が顔に表れていないのだ。
「まあ、おめぇの浮かない顔見りゃわかるわなぁ…弱い物イジメしたみたで嫌な気分になったからな……俺も」
「どうせやるなら、ぎりぎりのせめぎ合いみたいな斬り合い……俺もしてぇし……お前の気持ち少しはわかるような気がするよ…」
「まあ…そんな感じです」牙の顔に笑顔が戻る。
(この人とは、求めるモノが同じなのかもしれない)と牙が思った瞬間だった。
ぎりぎりのせめぎ合いという言葉に牙はリアルの友人である光輝の顔と光輝が鍛冶の打った日本刀が欲しいと言っていたのを思い出す。
「鍛冶さん俺の友達が鍛冶さんの刀、欲しいみたいなんですが」
「楽しませてくれそうか?」すかさず牙の予想通りの答えが返ってくる。
(10勝11敗5引き分けだったよな……たしか)と二人の決闘の結果を思い出すのだ。
「俺と同じ位の強さで、鍛冶さんが楽しめるなら大丈夫だと思います」
牙の答えに少年のような顔になった鍛冶の顔が、牙の目に眩しく映る。
「よし!」と鍛冶は両膝に両方の掌を勢いよく叩き付け、なにやら気合を入れた風に叫ぶのだった。
「ゴールデンウィーク中ならいつでもいいが、鉄鉱石を取りに行くのにわ付き合ってもらわなきゃならねぇ! この条件でよければそいつにも一振り打ってやるよ」
「わかりました。友達に伝えておきます」
「おう! 連絡よこすの待ってるからなぁ」
「では、また!」
「またな!」
挨拶を済ませ牙は工房を後にする。
いつの間にか牙の沈んでいた気分がなんとなく軽やかに、それが牙の足取りにも現れていた。
「あの方は、ずいぶんと強い方みたいですね」雅だった。
「ええ! 前に首を斬られました」
「あら……」
「胴を薙ぎに行って、首を落とされました」牙の顔に笑みがこぼれていた。
「負けたのに、ずいぶんと嬉しそうですこと」
雅がかすかに笑うのだ。
「自分より強い人が居るのは、嬉しいのです!」(キッパリ!)
「牙さんも相当強いと思われますが、それ以上なのですね・・・だから火の精霊が契約したのかしら」
「俺なんか、まだまだです…って、えええええええええええ?」
牙はまだ見えている工房を振り返るのだが、そこに鍛冶の姿は見当たらなかった。
さっき見た鍛冶の上腕に描かれた模様が牙の気のせいでは無い事に気づくのだ。
「う~うううううううううう……やっぱり俺の気のせいじゃあ無かったんですねあの模様わ」
「今朝早く火の精霊が人族のプレイヤーと契約したというアナウンスが流れました。
朝5時頃だったと記憶しています。INされているプレイヤーはごく少数の方だったと思われます」
「まじですか! あのオッサンも結構やりやがるううううう! そんな朝早くなら攻略スレにも挙がらないわけだ……」
牙はすかさず鍛冶のプレイヤー名に変化が無いかフレンドリストを開いて調べるのだが、鍛冶の名前に変化は見られない。
(…なぜ?)と思うのだが今の牙にそれを推測させる材料があまりにも乏しすぎるのだった。雅の反応の無さに少し違和感を感じるものの現在の状況の中で考えても仕方のない事だと諦めるのだ。
ミチとの約束の時間まではまだ1時間の余裕があったが、早めに戻っておこうと考えた牙は、町の中心部にあった転送陣に向かって進むのだ……
「気を使わせてしまって…すいませんでした…」不意に牙が雅に話しかけた。
「あ、え、はい」と答えるのがやっとの雅。
牙はレオパルドを斬った後、雅がその事に触れないで居てくれた事に感謝していた。
そおいう気分のときに話しかけられても答える言葉を牙はもっていなかったのだ。
「あれ? ……ここは?」緩やかな下り坂の道がクネクネと蛇行しながら山の裾野まで続き、その奥には既に刈り終えた田園風景が広がるのだ。
見覚えの無い風景。小人村の一番南はじだった。
「やっちまったああああああああ~~!」と叫ぶ牙。
「どちらへ行くおつもりだったのでしょうか? 方向音痴のワンコさん?」
いつになく雅の声が冷ややかに聞こえる。
「え? 町の中心にあった転送陣へ」
「その脇を通り過ぎてきました。 お散歩じゃなかったんですね?」
「は……はい」
「転送陣は真後ろに200メートルほど戻った所にあります……」
肩をがっくり下げ猫背になった牙が戻って行くのだった。
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「お前らはばかかああああああ?!」
ポーリング南側の更地に女性の透き通った大声が響く。腰に両手をあて突き出たように大きな胸の女性の見つめる先には60名程の青少年が一同に正座させられ、その視線の全ては美少女から大人の女性に変わりかけた彼女に向けられていた。180センチ以上ある身長に肩から掛けられただけのスカイブルーの羽織が、彼女の長い黒髪と共に風に吹かれて揺らめいている。
あまりの大声で、あたりを通行していたプレイヤー達の視線も大声の持ち主に向けられるのだった。
「昨日団長が留守の間よろしく頼むと言われ、海外旅行に行かれたばかりなのに、
何なのだ! このざまは?!」
「申し訳ございません。 雪朱雀副団長!」と彼女のすぐ前に座らされた5人の隊長たちが声を合わせて言い、その後を復唱して他の団員たちもそれに続くのだった。この騒動の張本人である、レオパルドだけが少し列を離れた所に座らされていた。
「団長の居ない間の『あだ討ち禁止令』も守らず、斬りに行って、しかも違う相手だったなど言語道断!」
「しかも斬ったならまだしも、二人掛かりで闇討ちを掛けて返り討ちに合っただと! お笑いのネタにもならん」
雪朱雀はレオパルドの前まで行くと彼の頭目がけて廻し蹴りを放つ。ミニのスカートがひらめいて、すらりと長い足がレオパルドの頭を捕らえる。中のピンク色の布地がチラッと見えた後、レオパルドの巨体が2メートルは横に飛ばされる。
その場に居る「千基行軍」のだれもが予想していた事とわいえ、それを見た団員からどよめきの声が上がりその場の空気が一瞬騒然とする。
「ありがとうございました! 雪朱雀副団長!」痛みをこらえながら立ち上がったレオパルドが一礼して隊長達の列にふらつきながら戻るのだった。
「団長の命令を無視するから、こおいう事になる!」
「我々の目指すものは何だ?!」
「最強の旅団です!」団員達が声を揃えて叫ぶ。
「解っているならいい! こいつらの処分は団長がお帰りになってから決める! 副隊長以上はここに残ってくれ! 以上解散!」
団員たちは思い思いの方向へ去り、隊長、副隊長のみが残る。
「楽にしてくれ」雪朱雀の言葉にレオパルド以外のその場に残った者達は正座で痺れた足を崩していく。
「間違って斬り掛かってしまった者から、当旅団に対する抗議等はまだ無いが、そのうち何らかのアクションがあると思っていいだろう。なんと言ったか? そやつの名前は?」先ほどよりは弱まった口調だが、雪朱雀の秘められた怒りが語気に表れていた。
「月夜闇の雅乃守牙です! 雪朱雀副団長!」レオパルドがすかさず答えた。
「長ったらしい名前だな……170センチ位の日本刀を持ち二十歳前後の男だったな?」
「はい! その通りであります、雪朱雀副団長!」
「牙……」と言った雪朱雀は過去に出会ったMMORPGのプレイヤー達を頭に思い浮かべていた。(牙……木羽の事か?)けっして弱くわないレオパルドを一撃で倒したとなれば、プレイヤー自身の持っているポテンシャルが高いと言う事になるのだった。雪朱雀は同郷の一人の男の顔を思い浮かべる。(木羽 仁。今は、高山だったか……決闘しすぎて人斬り仁って呼ばれていたが、やつが相手ならば納得出来る)雪朱雀は懐かしさに口の辺りを少しほころばせるのだ。
「わたしの知り合いかも知れん……そいつには、わたしから侘びを入れておく!」
「それから、鍛冶の件についてわ後に団長の命があるまで騒ぎ立てないように団員達に終始徹底するように!」
強められた語気に一同の姿勢が正され全員が崩した足を戻すのだった。
「団員たちの指揮に関わる! 今後このような事の無い様にしっかりと頼む! 以上だ!」
「はい! 雪朱雀副団長!」とそろった声がその場に響いた。
足の痺れで思うように立ち上がれないでいたレオパルドに細い手が差し出された。
見上げたレオパルドの視線の先に雪朱雀の姿が。
「蹴り飛ばしてすまなかった…」レオパルドは差し出された手を取っるのだった。
「気にしないでください…俺があなたの立場だったら、同じことをしたでしょう…悪いのは俺なんですから」
「そお言ってくれると助かる」雪朱雀の顔が副団長の顔から女性の顔へと戻っていくのだ。
「貴様が斬られた牙がわたしの知る木羽ならば、うちの団員で叶う者は居ないと思う……」
「そんなことわないんじゃ……」レオパルドの言葉に雪朱雀が「三年で2000回以上は斬りあいしたやつなんて、この隊には居ないだろう……」と遮るのだった。
「え…………化け物ですか? やつは?…………」
「いや……強いやつと闘いたいだけの……馬鹿だ!」
二人が声を上げて笑い出すのだった。
去りかけた他の隊長副隊長達が、怪訝な顔で二人を見るが二人は気にせずに笑い続ける。
次の日の早朝からこの南の更地に於いて、巨体のレオパルドが走る姿が見られるようになるのだ。
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