第2章 2話 千基行軍
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
レジェンド Online
ほのぼのと
第2章 2話 千基行軍
ポーリングには高さ4メートル程の石垣で出来た塀が町全体を取り囲むように存在し、八方向にそれぞれ門がある。牙は西門の前に立っていた。遠くには3合目から上が白い岩肌を見せる白山が見え、小人族の初期町らしき町が見えていた。白地図を見て確認すると小人村との表示がされている。
(町の名前あったんだ・・・でも・・・そのまんまの名前だし・・・)
小人村からポーリングに向かって真っ直ぐに道が伸びているのだが手前には比較的幅のある川があり遠目にも見てわかる様な橋が掛けられている。西門から川までは緩やかな坂道になっていて手前には緑鮮やかな竹林が存在し、竹林が切れる辺りまでは幅20メートルの道が続いているように見えていた。
(この街道沿いをMOB狩りしながら、行ける所までいってみよう・・・あっ・・・黒嶺さん・・・どうしよう・・・)
「バックの中に入れても問題ありませんよ」と雅の答えが返ってくる。
牙は黒嶺を左の掌に乗せ「少しの間バックの中で我慢してね・・・」と声をかけ、腰にぶら下げたバックの中にしまいこむのだが、黒嶺はバックからひょこと顔をだすのだった。「落ちるんじゃないですよ」と牙は頭をなでて言い聞かすのだ。
「さあいってみよっか~! 」と声を上げ牙はうっそうと生えた竹林に入っていく、その姿を遠目で見ている二人組みの男たちが居るのだ。
竹林入り一番始めに出会ったMOBは特有の羽音をたてて飛び回る4匹編隊の蜂だった。体長30センチはある大きな蜂・・・MOBの名前は「ブンブン」
「ブンブンって・・・そのまんまじゃね~か~~~」と言いながら牙は鍛冶に打ってもらった「月闇」を振るい次々にブンブンをなぎ倒していく。斬る時にサクッとした感触が手に伝わってくるのだが、斬った次の瞬間に光の粒となって消えていくのだった。ドロップは20Gか蜂ミツ(・・・蜂が何故金を持っている~~~! )と突っ込みたい気持ちを抑えながら、貰える物は貰っとく主義の牙。
30匹以上倒したところで例の音がして牙のLvが29に上がった事を知らせた。
「うううううううう~、弱すぎる・・・」ポツリと呟くのだった。
「格下のMOBですから・・・1匹2%程の経験値になってませんし・・・」
雅の説明に牙はガックリと肩を落とすのだった。
「ちょっと休憩します」と言って傍に在った白っぽい細長い石に腰掛けるのだが妙に柔らかい、プッチッっと何かが破裂するような音と共に光の粒になって消え牙は尻餅をつかされた。
「うあああああああああああ! なんだあああああ! 」と叫んでしまう。
「まゆ芋虫だったみたいです・・・今の・・・ 」雅の言葉通り経験値1%と絹糸を取得したことを牙に伝える表示が出る。
「いや~~~、びっくりしました~」の声に、にこやかに微笑む雅のイメージが牙に伝わって来るのだった。
「絹糸って・・・だから服が先に出来てるんだ・・・」と今朝美和ネエから聞いた情報を思い出して牙が言うのだ。
「そおなんですか? 」
「みたいです・・・俺も友達から聞いただけなんで・・・よくわ知らないですけど、革製品の防具より服が作られてるって話を聞きました」
「この絹糸、どれくらいあれば服が出来るんでしょう? 」
「いや~~、検討も付きません・・・俺の友達は戦闘バカばっかりなもんで・・・」
「戦闘バカ・・・ですか・・・」と言うと雅は笑い始めるのだ。
地面に仰向けに寝転んだ状態のままの牙は竹の葉が上のほうで揺れる音を耳で感じながら時折見え隠れする雲ひとつ無い空を見上げるのだ。
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「あいつ、止まりましたよ! レオパルドさん! 行かないんっすか? いつまで様子見するんです? 」仲間の頭を勢いあまってテーブルに打ち付けた男だった。「いや・・・だってよ・・・あいつ・・・走りながら・・・MOB狩してく・・・スピードが速いじゃんか・・・」レオパルドは2メートルを超える巨人族の大男だ。息を上げゼイゼイ言わせ体中から滝のような汗をシルク織りのスカイブルーに染められた羽織にまでにじましているのだった。
「まあ、そおっすけど~~、そんなに息が上がるほどじゃあないですが・・・」
「猫族のコウスケと・・・違って・・・普段・・・あんまり走りまわる様な・・・狩りしないからな・・・」息を整えながらレオパルドがそお言うのだ。膝をついてしゃがみこんだ右手には直径1メートルはある木を張り合わせた盾を持ち左手に短めの片手剣を装備していた。パーティーの前衛で盾の役割を担っているプレイヤーなのだ。
「まあ、そおっすよね~~、俺みたいなアタッカーと違って、盾の人はあんまり走りまわらないっすもんね~・・・」コウスケと呼ばれた猫族の男は身長170センチ程で痩せ型の男だった。左腰に下げられた両手剣、レオパルドと同じ羽織を着用しているのだ。
「もう少し先に行けば、竹林が切れてススキの原っぱに出るからそこで待ち伏せかけるとしよう・・・俺が街道側から突っ込むから、コウスケは原っぱに隠れてて、やつの後ろから仕留めろ! 」レオパルドはやっとの思いで立ち上る。
「りょうかいっす~~レオパルド隊長! 」コウスケはレオパルドに敬礼し、ススキの原っぱに向け走り出して行くのだった。
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牙は「まゆ芋虫」を20以上と「ブンブン」も20以上狩ったところで竹林を抜けた。一面は牙の腰くらいまでの高さに成長したススキの原っぱがひらけていた。
「さっきから、猫くさい様な・・・気がするにゃぁ~~」
「黒嶺とは違いますね・・・って、にゃぁ~ですか? 」と雅。
原っぱに近づくにつれ、バックの中の黒嶺がミャ~ミャ~と声を上げるのだった。
そこに1匹の体長1メートルはある黒大蛙が現れる。牙は振り上げるのでもなくサクッと黒蛙に「月闇」を突き刺す。ニュウッというような弾力が多少牙の手に伝わって、黒蛙は黒い染料と5%の経験値を残して消えていくのだった。
「これでもにゃ~か・・・蛙の匂いとは違いますにゃぁ~・・・」
「そのようですね・・・」どこまで感覚の共用が行われているのか牙には解からないが、雅もその匂いが気になっているのだ。
「レオパルド隊長! やばいっす! やつ狼族です。猫の臭いがするって、気付かれそうです! 」コウスケはパーティー通信でレオパルドに叫んでいた。パーティー通信は周囲に聞こえることなくパーティーのメンバー間で通信を行う事が出来る仕様となっている為、どんなに大声で叫んでも周囲に声が漏れることは無い。
「わかった!今俺がやつにシールドアタックかけるから、隙を見て後ろからやつをヤレ! 」レオパルドはパーティー通信を切り少し高くなった街道の上から鍛冶と思っている牙めがけて走り出すのだった。
「千基行軍3番隊、隊長レオパルド、5番隊副長イサミの仇取らしてもらう! うおおおおおおお~~~」牙との距離は50メートルほど、坂となっているススキの原っぱを猛然とダッシュするのだった。
「は????イサミって???・・・君が囮で後ろの猫が本命ね・・・多分・・・」一瞬で判断する牙はコウスケが動き出す前にレオパルドに向かって走り出していた。それを見てあわててコウスケ飛び出し牙を追って走り出す。「速えええええ~~! 」とコウスケが叫ぶ。追いつくどころか離されるのだった。
「なんだか知らないが、そっちがその気なら行くぜ~~~! 」牙は一気にレオパルドとの間合いをつめる。(右手にシールドって言うことは、シールドアタックが得意だな! つうことは・・・)フェイントをかけるように一瞬相手の左に行くと見せかけ一気に相手の右に飛び込むのだ。
「アイスシールド! 」レオパルドが大声で叫び、相手の動きを止める為の氷属性の魔法を盾に付与し突っ込んでくる。牙はレオパルドの踏み込む右足の外へ自分の右足を踏み出して交わすと同時に踏み込んだ右足を中心に体を回転させる。ひんやりした盾が牙の背中をすり抜けるのを感じながらながら「月闇」持つ右腕を振りぬくのだった。
押し出した盾、残った体の首が飛んでいく。
一方コウスケは牙がフェイントをかけた瞬間、止まった様な錯覚に陥り牙目がけて両手剣を突き刺すのだが、牙が消え変わりに大きな盾が現れたのだった。剣は凍ったシールドの上を滑り上に跳ね上がり止められない勢いがついた体は止まらず、頭からシールドに激突し鈍い音をたてた。
強力に掛けられた氷の属性魔法がそのまま気を失いかけるコウスケを冷機で包みレオパルドの体が消え去っても盾と共にその形を維持するのだった。
レオパルドが消え去った後にはレオパルドの装備品やG、バックの中身がぶちまかれた様に散乱するのだった。
「お前の魔法が解けたら、拾って帰ってやるんだな・・・聞こえて居るかどうか判らないが・・・」とだけ言い残し、その場を後にするのだった。
(人斬り仁は、人斬り月夜闇の雅乃守牙になりましたとさ・・・)なんとなく後味の悪さに牙は心の中でそう呟くのだった。
”ポーン”といういつもの音が何度も鳴る。何度かは牙のLvアップを知らせ、後は見切りLv 1と回し斬りLv 1のスキルの習得を知らせた物だった。
”ポーン”「巨人族のプレイヤー、レオパルドと狼族のプレイヤー、月夜闇の雅乃守牙との間で行われたPKは、狼族のプレイヤー、月夜闇の雅乃守牙の勝利となりました。狼族のプレイヤー、月夜闇の雅乃守牙には返り討ちの称号が付与されました」
とのアナウンスが、全プレイヤー達にアナウンスされたのだった。
「PK 行為はアナウンスされるのね・・・しなくていいのに・・・」
「ミュゥ~」と言う声がして、バックの中に隠れていた黒嶺がバックの蓋を押し上げて顔を覗かせる。牙は黒嶺をバックから取り出し高い高いするのだった。「ミュ? 」
と黒嶺が首をかしげるが何度もされるうちに楽しそうな笑顔を見せるのだ。
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ポーリングの南に復活者の塔と呼ばれる10階層となった円柱の塔が存在していた。
その最上階からは、北にポーリングを一望し、南には遠く離れた海までも望める高さとなって居るのだった。周囲を広葉樹の森に囲まれたその塔はLv20以上になった者が戦闘不能に陥ると自動的に送られて来る復活ポイントとなっていた。
今しがたその最上階に設けられた復活ポイントに金色の光と共に現れた男が一人、直径5メートル程の円形となった小さな部屋にシールドアタックを決めにいった勢いのまま復活ポイントに現れた。レオパルドは勢いで石で出来た壁にそのまま激突していく。
「いってええええ~! 」復活の時点のHPは15%これは全キャラクター共通なのだ。激突した衝撃で5%のHPが削られレオパルドの意識はモウロウとなる。いつもの聞きなれた音が耳に聞こえPKのアナウンスが流れたのだ。
「鍛冶じゃなかったのか・・・」レオパルドはモウロウとした意識の中、背中を激突した壁に押し付け落ちるようにそのままそこへ座り込む。羽織の汗が石肌の冷たさをレオパルドにつたえ、その冷たさで多少の意識は保たれる。盾の無い左に行くと見せかけて一気に右に割り込まれたところまでしか記憶が無いのだ、首の後ろに熱い物を感じた次の瞬間にはここに居たのだ。
見ている景色全体が赤のフィルターをかけられたような視界の中で「あなたは、月夜闇の雅乃守牙に返り討ちにあいました」の文字が大きく表示されているのだが、それを消すための承認と表示されたボタンを押す気力が残されていなかった。
「月夜闇の雅乃守牙・・・・・・なんて読むんだこれ? ・・・」
「何をされたか判らんうちに・・・やられてたな・・・少し悔しい気もするが」
レオパルドは突然襲われた眠気に目を閉じて眠りにつくのだ。
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(千基行軍か・・・)と牙は小人村への道を狼の姿で走りながら千基行軍の噂を思い出していた。突然の「千基行軍」の襲来により牙は、やる気に水を差された気分になり狩を早々に切り上げたのだ。
「千基行軍」は、比較的裕福な家庭の子供たちが通う私立の中学、高校、大学の一貫教育を行っている学校法人のMMORPG研究会が発祥とされ、現役の高校と大学生、OBを中心に500名規模の大きな組織と言われていた。リアルマネーがものをいう様なゲームでは、金の力でトップクラスの装備をそろえ、他のプレイヤー達から白い目で見られるような事でも平気で行うプレイヤーが多く存在している、という話が挙がるような集団であった。
レジェンドはサービスが始まって間もない為、その存在が知られていないだけだったのだ。
(嫌な所と係わってしまった・・・・)と斬り捨ててしまった事を牙は少し後悔するのだ。
小人村への途中で渡った橋は200メートルもあり川幅は半分の100メートルほどであった。牙は橋の上から何度か橋の下を流れる川を見下ろしたが、足がすくんでしまうほどの高さに恐怖を感じるほどだった。
橋を渡りきると今度は緩やかな登り坂となり、町に近づく程勾配がきつく感じられるようになった。20分ほど走ったところで、町の中心部に到着したのだった。
白い石で出来た建物が並ぶ町である。牙にギリシャかどこかの地中海の町並みを思い出させる。もちろん行った事は無いのだがテレビやネットで映し出される雰囲気そのまんまだと牙は思う。牙は人の姿に戻ると大きく伸びをして、バックの中から窮屈そうに顔おお出した黒嶺を抱き上げ、「窮屈な思いをさせてごめんね」と言いながらいつもの定位置である肩に乗せる。
「ここは何か古い遺跡の町の様な、でも白い色が眩しいです」
しばらく何も言わなかった雅がふいに牙に話しかけた。雅なりに牙の雰囲気が変わったことに気づいていたのだろう。先ほどのPKの話をしようとはしないのだ。
「地中海の古い町並みに似ている様な気がします・・・本当の町はこんなに寂れた雰囲気じゃあないと思いますけど・・・実際に人は住み続けてますし・・・」
「こおいう雰囲気の場所も現実の世界には存在するのですね? ・・・」
「俺も現実にはその場所に行った事は無いんで・・・テレビとかネットの配信映像でしか見たことは無いんですが・・・こんな感じだったと思います」
「なるほど、牙さんも行った事は無いんですか・・・いつか行けるといいですね」
「いついけるかな~?・・・年老いて仕事を引退しなきゃ行けないかも」と言いながら牙は笑い出す。
化石燃料の枯渇によるジェット燃料の高騰により、20世紀から21世紀に発達したジェット飛行機での移動は、非常に高価な物となった。この時代一般庶民が海外旅行に行く事が現実味の無い話に変わってしまっているのだった。
牙はつい先日訪れたこの町に妙な懐かしさを感じ、なんとなくミチと鍛冶に始めて会ったあの鍛冶屋に向けて歩みを進めていた。誰も歩く人の居ない静かな町にNPC達が打っているのだろうか? 金属同士を打ち付ける音だけが風に乗ってひびくのだった。
牙は鍛冶屋の前まで来るとその横の狭い路地に入っていく。路地を抜け裏手の工房にまわりこむと小人族のNPCにまじって見たことのある男の背中があるのだった。
その男の作業を見守る二人の女の子が見えた。
「お知り合い? 」
「あ、ええ、この月闇を打ってくれた方です」
「鍛冶さん・・・ですか・・・」
「ええ、あの大きな人が鍛冶さんです」牙は10メートルほど離れた工房の入り口で鍛冶とその子供らしい三人を見て居るのだ。
「家族の方でしょうね・・・」との雅の声に牙は黙ってその場を去ろうとする。(親子みずいらづのところを、お邪魔しては・・・)と思ったのだ。
「あっ! 」鍛冶の長女の凜が牙たちが工房の外でこちらの様子を伺って居るのに気づいたのだ。凜が鍛冶のハンマーを使っていない左の肩を叩いて鍛冶に人が来ている事を知らせるのだ。ポーリングは人が多すぎるうえに鍛冶をなんとかお抱えの鍛冶師にしようとする旅団の誘いを断る煩わしさが嫌で、この町で刀を打って居るのだった。人が来たら教えるようにと娘たちに言って作業に取り掛かっていたのだ。
何も言わず去ろうとする後姿は見覚えのある白いシッポに朱色の鞘。鞘に収る刀は「月闇」なのだ。家族で居る姿を見て黙って行こうとしたのだろうと鍛冶はすぐに判断したのだった。
「ワンコ! 気にしなくていい! こっちに入って来い! 」大声で叫ばれた声に振り向く牙。
「ワンコって?・・・牙さんの事ですか?・・・」と雅が笑い出すのだった。
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