第2章 1話 不穏な影
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
第2章突入です。
レジェンド Online
ほのぼのと
第2章 1話 不穏な影
仁は夢を見ていた。
真っ暗闇の中、全身が何かの液体で満たされ浮遊しているのだ。
怖さや不安は感じないが、気持ちのいい物でもないのだ。
必死に手足を動かそうとするのだが液体の抵抗なのか全く動く気配が感じられない。
どうにか動かそうとしてもがき始めたところで目が覚めた。
普段と何も変わらない天井が当たり前のように目の前に広がる。
(さっきの夢・・・なんだったんだろう・・・)仁にとって、あまりの鮮明さとリアルな感覚すぎて、世間で言われる金縛りの類には思えなかったのだ。
仁はいつものストレッチをベットの上で済ませ、少しはなれた冷蔵庫から缶コーヒーを取りだすと一気に飲み干すのだった。
ベットの迎え側にあるテレビのスイッチを入れると天気予報が始まっていた。仁の住む賃貸マンションから見える空はグレーの雲が掛かって今にも雨が落ちてきそうな天気なのだ。
(休みだからどうでもいいが・・・)と、仁は思いながらもチャンネルはそのままに身支度をする。テレビでは、お勧めの行楽地と行楽地の天気を若い女性のアナウンサーがリポートを始めていた。
携帯端末から電話の呼び出し音が鳴り、相手が美和であると確認し着信スイッチを押す。
「おっはよ~~! 」美和の無駄に元気な声が仁の鼓膜を刺激したのだった。
(美和ネエの天気は、今日も晴れてそうだな・・・)仁は感じていた。
「おはようございます・・・美和ネエは、いつもお元気そうでなによりです・・・」
「無駄に元気とかって、思ってないわよね~~? 」
「いや・・・おもってますが・・・」
「電話でグリグリ出来ないと思って、本音言ってるんですね~~! 今度会ったらいつもの5倍位のやつくらわして上げますから、覚悟しておくように! 」
「えええ~~~ぇ、遠慮させていただきます・・・」仁の情けない声が美和に届いた。
「冗談はこれくらいにして・・・今日何時にINするの? 」
「えっ・・・もうそろそろ・・・潜ろうかと思ってたけど・・・」
「はっや~~~! 他にすることないわけ? 」
「ない! 」(きっぱり!)
仁の返事に美和が笑い始める。
「いや・・・装備とかも見たいし・・・早めにINして揃えたいなと思っただけで・・・」
「服の露店は結構有るけど、武器、防具とかはまだNPC売りを使ってる人が多いのです・・・」
「えっ? なんで? 」
「今私たちが通常相手にしてる妖獣は、皮製品の原料をドロップしないのです・・・」
「ウサギとか猪は毛皮ドロップしますが・・・・・・」
「えええええ~~~~~! うっそ~!」
「熊もドロップしましたが・・・NPC売りでも10万G以上とかで売れましたが・・・」
「10万G~~~~~~~! 」
美和の鼓膜が破れんばかりの大声に仁は思わず耳をおさえる。
「10万Gってどれだけの価値だかわかって言ってるの? 」
「わかってまてん・・・が・・・問題ありありみたいですね・・・」
「あるに決まってるじゃないですか! レベル20から25位の適正妖獣が落とすGは20G位、25から30までで50G、適正レベルが30を超えても80Gがやっとで、毎回ドロップするわけじゃないから・・・丸薬とか落としたらGは落とさないし・・・」
「30万G位持ってたような気がする・・・俺・・・」ぼそっと言う仁。
「さんじゅ~~~ま~~ん~~~~! 君、チ~ト過ぎる・・・」美和はあきれた様な声をあげるのだ。
「熊の肉とかも200キロあったから、キロ500Gでも10万Gとかになったし・・・」
「は~~~~ぁ、わたしはなんで熊とかウサギとか、狩らなかったんだろう・・・」
電話の向こうでうなだれる美和の姿が仁は容易に想像出来るのだった。
「今日、闇の妖精に会いに行く途中で野ウサギとか狩りながら行けば結構な額貯まると思うけど・・・」
「う・・・・・・うん・・・・・・・手伝ってね・・・あんなすばしっこいの、無理だと思うから・・・」
美和はレジェンドが始まった初日に、薬草の採取をするクエを受け、薬草の採取先で可愛いウサギを見つけなんとか捕まえようとしたのだが全く捕まえることが出来なかったのだった。
「ま~~、始めは2匹狩るのに3時間掛かったけど・・・慣れたたら1時間で3匹は狩れると思うし・・・大丈夫だよ、俺でも狩れたんだから」
「レベル上がったから、少しはましだと思うけど・・・二匹狩るのに3時間もがんばった君の根性のほうがすばらしいのです・・・」
「餓死、死に戻りしたくないって・・・その一心だったから・・・野ウサギの生肉は、ユッケみたいでおいしかったし・・・」
「生肉・・・無理・・・ とりあえず、お昼食べて1時頃INできると思うから~、中で連絡取り合うのです・・・牙でよかったよね? キャラ名? 」
「え・・・いや・・・月夜闇の雅乃守牙です・・・」
「は~~~~~ぁ? 何でそんなに長いの? 」
「いや・・・闇の精霊と契約したんで・・・名前の前に契約精霊の名前が付きましたとさ・・・」
「まあ・・・わたしは漢字そのままの美和でキャラ名取れたから、君から連絡するのです! 賢治にはわたしから連絡しておくのです~」
「わかったよ~! じゃあまた後で」
「うん! じゃあ~ねん! 」
仁は電話を切ると早速レジェンドへ潜っていくのだった。
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北東の転送陣前にログインした牙をリアルとは違い晴天のポーリングが迎えるのだった。眼前に広がるポーリングの街並みは、夜と全く違った色鮮やかな印象を牙にあたえる。オレンジ色の瓦屋根と白い壁、目にも鮮やかな中央広場の緑に色づいた木々がレジェンドの色彩を際立たせていた。
「牙さんおはようございます・・・植物達の緑が本当にきれい! 」
雅の思いがそのまま牙の心の中に響いてくるような、そんな錯覚を起こしそうな声だった。
「本当ですね・・・おはようございます。雅さん」
「本物の世界は、もっと綺麗なのかしら・・・」牙に雅のその声は聞こえてこなかった・・・だが、そんなふうに言った様に牙には思えたのだった。
(どうしてだろう・・・)と、仁は考えるが答えは出るはずも無いのだった。
「どうかなさいましたか? 」
「あっ・・・いえ・・・たいした事じゃあないんで・・・気にしないでください」
「わかりました・・・」
牙は自分の肩にちょこんと座っている黒嶺の姿を確認すると左手を右の肩まで持ち上げる、何かを察したのか黒嶺が肩からその手に飛び移るのだ。
「黒嶺さんおはようございます。おなかは減ってないですか? 」
その問いに黒嶺は首を振って答えるのだ。
「ちゃんと理解出来てます・・・雅さん」仁の顔がいつの間にか子供を見るように目じりを下げた顔つきに変わっっていた。
「黒嶺は賢いですから、当然です」と、まるで自分の子供の事を言うように雅は言うのだ。
時間はAM 8時を過ぎたところだった。祝日の朝としてはまだまだ早いのか人通りはまばらで、昨晩とは違い街の様子が見通せる状態なのだ。
牙は黒嶺を肩に乗せると早速NPCの文具雑貨店へ歩みをすすめる。中に入ると整然と商品が陳列されているのだが、さして見る様子も無く牙は奥の店員に白地図と一番安い腕時計を注文し分厚い真っ白な地図を500G、腕時計は1000Gで買うと店を出て早速白地図の1ページ目を開くのだった。
白地図は行った事のある場所を全て自動的にマッピングしてくれる優れものなのだ。方向音痴の牙にとっては必需品であった。
「これで少しは迷わなくなるといいんだけど~・・・」思わず口から漏れるのだった。
「えっ・・・もしかして方向音痴?・・・」
「あっ、ええ、まあ・・・」
「そうでしたか・・・」微笑んだ雅の顔が牙の頭の中にイメージされる。
開いた白地図に今まで牙が迷い走った森や、精霊族の町、小人族の町、その間の街道と闇山への道、その突き当りの祠の位置、狼族の町、ポーリングの中心街が表記されていく。所々の道は抜けているが、おおまかなポーリングを中心とした地図が出来上がろうとしているのだ。
「もう少し走りこめば、この周辺の地図は完成しそうですね・・・」
「どこへでも、付いて行きます・・・迷ったら・・・わたくしが何とかします! 」
雅が笑い出す。
「う・・・お願いします・・・・・・・・」何とも情けない声が牙の口からもれるのたった。
次に牙は薬屋に入って行く。入るといっても店の前に並んだ4本の柱の間を抜けるだけなのだ。回復薬系は使える物の中で最良の物を常備しておくのが最善だと牙は考えていた。柱から少し奥まったところに長さ20メートルほどのカウンターにNPCの店員が20名位居るのだが、客の注文を聞きカウンターの後ろに置かれた商品を世話しなく取り出す姿に牙はリアルでの医局の薬剤師を思い出すのだった。
「レベル28なんですが、このレベルで使える一番いいHP丸薬とMP丸薬を50個づつ欲しいのですが」牙は薬屋の入り口から入ってすぐの店員に声をかける。
「いらっしゃいませ! お客様のレベルですとHP、MP共に初級丸薬となりますがよろしかったでしょうか? 両方とも10個入り1箱が500Gとなっています」
(昨晩貰った物と一緒なのか・・・)と少し牙は考えるのだが、(いざという時に無いよりはましだろう)とも思うのだ。
「それでいいです、お願いします! 」
「全部で5000Gとなります。 今商品を準備いたします少々お待ちください」
「5000G! まじか! 」とか「5000G分も・・・」など牙の周りでざわめきが起こる。
「5000Gなんて金、見たことも無いぞ・・・」それにつられて店の外に居る客までもが反応する。
目の前に積まれる丸薬の山を目にした牙は(買いすぎか?・・・まあいっか・・・)と思うのだ。「無いよりはいいのです」と雅。
「少し安くなりませんか? 」右手を差し出した牙が店員に言うのだった。
「あ、えっと、これだけ買っていただくんでしたら、5%引きで・・・」
「もう少し・・・お願いします・・・」牙の声に店員が下を向いてうつむいてしまう。店員の両手がカウンターの上で10本全て開かれるのだ。
「それでお願いします・・・」ニコッと笑う牙の手を店員が握り返してきた。牙のバックから4500Gが自動的に店員に移動し、丸薬に所有者「月夜闇の雅乃守牙」の名が刻まれるのだった。
バックのふたを開け中に入れば勝手に整理されるため乱雑に丸薬の箱を詰め込んでいく、と熊の手×2の存在に牙は気づくのだった。「あっ、これ忘れてました・・・」牙が思い出したようにバックの中の熊の手×2を取り出しカウンターの上に置く。
「買取お願い出来ませんか? ・・・」
「うあっ! なんだそれ? 」隣で牙と同じように買い物していた人族のプレイヤーが大声をあげたのだ。
「熊の手・・・ですが・・・」ボソッとした声で牙が答えるのだった。
「すっげ~~ぞ! これ!」の声に周りに居た客が牙たちの周りを取り囲んで大騒ぎしはじめるのだ。
「いくらで買ってくれます? ・・・」
「両方で・・・」と言った店員が両手10本を開き、次に2本、最後に4本と親指と人差指でゼロを作ってみせる。
「お願いします! 」とがっちり握手し、牙のバックに12万Gが振り込まれた。
「おい! いくらで売れたんだ? 」野次馬の声に「ないしょです! 」とだけ答えて牙は薬屋を後にするのだった。
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牙は防具屋に寄り肩、肘、脛などのプロテクター類をそろえそろそろ限界の空腹値を満たすためにオープンカフェに来ていた。店員にコーヒーとサンドイッチ、黒嶺のミルクを頼み今は黒嶺がミルクを小さな舌で舐める姿を見つめ癒されているのであった。
「本当に可愛いですね・・・黒嶺さん・・・」目じりの下がりっぱなしな牙なのだ。
「ご飯を食べた後は、どうされるんですか? 」
「ええーっと、13時頃にINしてくる友達と闇の妖精探しに闇山へ向かおうと思っています。その前はミチさんと言うこの前知り合ったおじさんと会って話があるだけで、後は少し狩がしたいと思って・・・」
「おとつい出てきたばかりのあの場所に、また戻るんですね・・・」と言って雅は笑うのだ。
「いや、闇の妖精さんが他の場所にも居ればそこでもいいんですけど・・・知らなくて」
「闇の妖精は、あの場所に行かない限り会うことはが出来ないのです・・・」
「やはり・・・そうでしたか・・・」牙は自分自身が闇の精霊と契約した以降も闇の妖精と契約したプレイヤーが居るという話が攻略スレ等に挙がっていないのに気づいていた。
(もしあそこ以外の場所で闇の妖精達と出会うことが出来るのであれば、既に闇の妖精と契約する者が出てきていてもおかしくわない)と思っていたのだ。
だからと言って、その情報を攻略スレ等に書き込もうとも牙は思わないのだった。どこからか情報が漏れて闇の精霊と契約したプレイヤーが自分だと他のプレイヤー達に知られてしまうのを嫌ってのことであった。
ミルクが入った皿を全て舐めつくし満足げな黒嶺が、前足で自分の口の辺りを撫で始める、口の周りに跳ねたミルクを拭こうとしているのだ。テーブルに肘を着いて両手で自分の顎を支えながら、牙は黙ってその愛らしい姿をみつめているのだ。
”ポーン”といういつもの音と共に牙に個別通話の着信がきているのを知らせる呼び出し音が鳴る。見ている景色の下の方に「プレイヤーミチより着信あり」の表示がされていた。牙は着信のアイコンを押して通話を開始するのだった。
「おはようございます! 」(なんとなく、元気よく出てみよう・・)と牙は思ってそうしたのだった。
「おはよ~! 朝から元気いいんだな~! 」
「えっ、いや、から元気です! 」
「まあ、どっちでもいいが、元気な事はいいことだ! 」と言ってミチは笑うのだ。
「昨日のメールの件なんだが・・・正午過ぎから30分位でお願いしたいんだが? 」
「13時までなら大丈夫です」
「そっか~、わかった、出来る限り手短に終わらせようとは思ってるから、よろしくな~! 」
「じゃあまた後で~」と牙が言い終わるか終わらないかのうちに通話は切れているのだった。(ミチさん・・・忙しいのね・・・)と牙は思う
。
そんな会話をする牙の少し離れた後ろに4人組の男達が丸テーブルに座っていた。
「おい!あれって、日本刀だよな? 」その中のリーダー格の男が牙の座るテーブルに立て掛けられている日本刀を見てそう呟いた。牙を真後ろから見る位置に座って居る。
「えっ、どこ? 」その正面に座る男が周りをキョロキョロト見回す。
「ばか! 振り向くな! 気づかれたらどうするんだよ! 」その右横に座る男が強引にその男の頭をテーブルに押さえつけるのだ。「痛いって! 」力が入りすぎたのか男はテーブルに頭を打ち付けられていた。
「あれが鍛冶なのか? 」
「いや、知らない・・・・」そのテーブルに座る誰もが鍛冶の顔や背格好を知らないのだ。
「日本刀持ってるやつなんて、鍛冶しかいないんじゃね? 」と頭をテーブルとお友達にされた男が言うのだ。「だったらどうするんだよ! 」リーダー格の左に座る男が口を開く。「なもん、決まってるじゃん! 」とリーダー格の男が言い放った。
「俺はいやだからな・・・」と頭をテーブルに打ち付けられ額を赤くした男が言うのだ。
「俺はやるぜ! 」と打ち付けた男が言う。「1対1は無理でも何人かでかかれば大丈夫だ! 」とリーダー格の男が左に座る男に言うのだ。「いや、俺もいい・・・」と左に座る男が答える。
「二人になろうがやってやるさ! 」と打ち付けた男「ここじゃあまずい、街の外に出て狩りを始めたら二人で掛かるぞ! 」とリーダー格の男が言うのと時を同じくして鍛冶と間違えられた牙が席を立ったのだった。
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