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第1章  9話 ひそかな思い

残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。


レジェンド Online


ほのぼのと



第1章  9話 ひそかな思い



 牙は真っ黒な霧の中に包まれるのと同時に浮遊感を感じる。周囲からは風がものすごい勢いでまわっている音しか伝わってこないのだが、確実に浮遊しながら移動している事は感じられる。 


 黒い霧はものすごい勢いで回転しながら祠の通路を突き進すみ、祠の出口を出ると小さな竜巻ほどの大きさに膨張し、張られていた結界をも吸収するとさらに大きな渦となって満天に星だけが輝く夜空を駆け上っていく。


 牙は肌に感じる気温の変化で既に祠を出て居るのだろう事はわかっていたのだが、空をものすごいスピードで飛んでいるとは夢にも思っていなかった。


 1分と掛かっただろうか、黒い霧渦は狼族の町の上に停止する。


 ふわっとした感触がして、牙はすぐにそこが何処であるのか認識する。4~5階の校舎の屋上から下を見下ろした時と変わらぬ光景が眼前に存在している。狼族の民家だろうか、家の窓から漏れる光と所々に点在する外灯の光が町を浮かび上がらせて見えている。霧は牙の体に集束するように集まり、それと同時に牙の体が落下しはじめる。


「うっわ」と牙は思わず大きな声を上げる。


 集束した霧は筋状に変化して牙の体の中に入り込んでくる。全身に電気が走るような痛みを感じる、入り込んだ筋上の霧は植物のツルや葉のような形となり刺青の模様のように牙の肌に描かれていく。

(おちる~~)と牙が思った瞬間に一瞬ふわっと体が浮き上がり地面の2メートル程のところで停止しゆっくりと着地したのだった。


 「すいません・・・怖い思いをさせてしまったようですね・・・」と闇の精霊である月夜闇の雅の声がする。現実には直接脳に話しかけてきている様なのだが、牙にとっては実感として耳から入ってくる言葉となんら違いを感じられていないのだった。


「いえいえ・・・少しびっくりしただけです・・・これって?」と言って牙は体中に刺青のごとく入り込んだ植物のツルや葉を見るのだった。


「それが、今のわたくしです・・・あなたの中に居ることで、わたくしは陽が当たる場所に出ても存在を維持することが出来るようになりました・・・お顔以外の全身に夕顔の花と葉とツルの形をとっています。夕顔はわたくしの大好きなお花ですので・・・」


 牙は小学校の頃に朝顔と夕顔を育てた記憶を呼び覚ましていた。「夜闇に咲く花でしたね・・・あなたらしいいです」と思ったままを口に出す。(どこかでにこやかに笑った雅が居る・・・)そう感じる牙だった。


「あれ???黒嶺さんが居ない??」心の中でそう叫ぶ。


「黒嶺は転生しました、時期に現れると思います。5万年に渡って、あの山の結界を維持してくれていたのは黒嶺でしたから・・・」牙はその声にどことなく寂しさが混じっているような感じを受けていた。


「そうでしたか・・・」と牙がいい終える間もなく牙の前に金色の粒が現れ集束していく。

集束した粒は小さな猫のような形をとった。


「あ・・・受け取って・・・・」


その声に反応するように牙は空中に集束してきた猫を包み込むように手を差し出す。ふわふわとした感触の毛並みのきれいな黒い猫がすっぽりと牙の手の中に納まった。


(これだけ小さいと怖くはないな・・・)と牙は少し安心する。


 両手の中で転がる猫を見ながら癒された気分になっていく牙。(・・・・ん?猫と何かが違う気がする・・・・)と思うのだった。


「黒嶺は今回ライオンに転生したようですわ」と雅の言葉に牙はじっくりと黒いライオンを観察する。


「・・・耳が違ってすね・・・」と猫との違いを口にする。


 丸太が積み上げられたログハウスが立ち並ぶ狼族の町は妖精族の町とは違い夜中に近いはずなのだが、幾つかの店舗も営業している雰囲気だった。牙は食料品店に駆け込むと、ミルクと大き目のカップを買って小さな黒嶺に与える。


小さな舌を器用に使って黒嶺がミルクを舐める姿を牙は道端にしゃがんで観察していた。


(・・・う~ん・・・いやされるかも~~~・・・でも、すぐに大きくなるんだろうな~~~)と牙は考える。


「2年位はその大きさです・・・今、黒嶺の魂は眠ってますから・・・」


「えええ、あっ・・・・そうなんですね・・・・」と少しあせった牙が答えた。




 ”ポーン”「闇の精霊が狼族のプレイヤーにより目を覚まし、契約を果たしました。新たに闇の妖精たちが現れます。同時に闇属性の妖獣もフィールドに解き放たれます。」と言うシステムアナウンスがきこえる。


(あれ・・・名前・・・でないんだ・・・よかった)胸をなでおろす牙だった。


 ”ポーン”「鬼族のプレイヤーイサミと人族のプレイヤー鍛冶との間で行われたPKは、人族のプレイヤー鍛冶の勝利となりました。人族のプレイヤー鍛冶には返り討ちの称号が付与されました」続いてアナウンスされた。


(鍛冶さん・・・・偉いことになってるかも・・・・でも明日早いんだった・・・・)とリアルを思い出す。


「明日早いんで、ログアウトしますね」と牙は自分の中の雅に呼びかける。


「わかりました。おつかれさまです」と雅の返事を聞いて牙はログアウトした。



><><><><><><




 医療は21世紀に起きた医療事故を教訓に、現在では看護師として3年から5年の実務経験とその間に選抜されたものだけが、医師としての資格を与えられという基準が設けられていた。逆に言えば看護師となって5年を過ぎた者は医師になれないということでもあった。

 VR・技術の進歩により教育自体を仮想現実の中で行われ、一種の記憶操作のような形で基本的な医療知識は誰もが等しく得られることが出来た。後はその知識を生かしきれるかどうかが問われていた。

 医療自体も簡単な手術は現在も存在するが、21世紀の後半から進歩し22世紀に確立された再生医療技術により、移植手術のような大規模な手術は行われなくなっていた。

 再生医療の専門家に言わせると、「脳さえ残っていれば人体の再生は可能だ」とまで言われるようになっていた。倫理的な見地から、「人体の3分の2以上の再生を行ってはいけない」と言う法律が採択されていたため、医療現場での基準は一応にその基準にそった医療行為が行われていた。


 それでも都市伝説で、「どこかの研究所では遺伝子を操作した人を超える人が作られているとか、何処かの大富豪は150歳なのに40代にしか見えない人が居る」といった噂話が本当であるかのようにささやかれていた。


 国立大学の付属病院に勤務する仁もその流れの中の一人である。普段は救急医療の現場で看護師として忙しい日々を送って居るのだが、今年の連休は病院自体が救急の当番病院から外れたため、仁は普段全く縁のない再生医療病棟にいる。 

 

 重度の再生患者以外は全病院的に外泊扱いで入院患者のほとんどがいない状態なのである。再生カプセルで何か異常が起こらない限り何もすることが無いのが現状であった。


 「僕たちは等しくこの病院における、ゴールデンウィーク負け組みだからね。同士達よ!」と再生医療の権威と言われる小島教授だった。

 周りを取り囲むように集まっていた当番医と看護師達は大笑いする。小島教授はすでに60歳を超え定年まじかではあるが、院長を含め誰もがその功績と人格に頭を下げる人物だった。


 現在看護師詰め所に於いて、ミニ講義が偶発的にはじまってしまった。仁も再生医療の話には人並みならぬ興味があった。ましてや権威と言われるほどの教授の話は同じ所で働いていたとしてもめったに聞ける物ではなかった。皆いちおうに目を輝かせて時折小島教授に出される質問に四苦八苦しながらも、楽しい雰囲気で午前中を終えようとしていた。


 「でわ、最後に2~3質問に答えて午前中の講義・・・じゃなく仕事を終えたいと思うが、どんな質問でもいいよ」小島教授はにこやかな笑みを浮かべている。


女性の看護師の一人が手を上げる。


「はい、酒井さんどうぞ」小島教授は、午前中の短い間にここに居るメンバー全ての名前と顔を覚えてしまっているらしかった。


(これだから、人が着いて来るんだろうな・・・)と仁は思った。


「どんな質問でもよいという事だったので、くだらない質問ですが・・・よろしいですか?」


「どんな質問でもいいと言ったんだから、答えれるものなら答えます」

教授の笑みは消えていない。


「都市伝説のように言われている話で、何処かの財閥の当主が150歳の老人であるはずなのに、体は40歳位にしか見えない人が居るというような話がありまして・・・技術的に可能なんでしょうか?」

仁も興味がある話だった、その場に居合わせた人々は皆一応に興味を示していた。


「技術的には可能だね」あっさりと小島教授は答えてしまった。その場にいた誰もが驚く答えだった。


「実際にやったことは無いから可能性の話になるけれど、150歳だったね?その年齢まで行くと多分脳の細胞も加齢による死滅も始まって来るだろうから、最近のVR技術を使って記憶等を新しい脳に移し変えるという様な作業が必要になるかもしれない・・・そうなるとその人自身なのか、そうでわないその人の記憶を持った別の人なのか微妙な感じになってしまうと僕は考える」

「遺伝子的な固体としてはその人かもしれないが、中の魂というか、生命は違ってしまうんじゃないかと思う」

小島教授は少し思索するように上を向いた。

「だから、技術としては可能だけれど、中身的には僕は仏様じゃないから判らない。っていうのが答えになるね。こんな答えでいいかな?」


「わかりました。ありがとうございます」質問した看護師が深々と頭をさげた。


「もうお昼になるから、次の質問で午前中の最後にしよう。他にはないかな?」


「はい」仁だった。


「高山君どうぞ」


「VR空間による思考共有についてなんですが、先生はVRについてもお詳しいと聞いておりますので・・・」仁は昨日レジェンドの中で闇の精霊である雅が、こちらの思考を読んでいた事が気になっていて、技術的に可能なのかどうか疑問に感じていたのだった。


「まあ・・・専門家ではないけど・・・脳の再生についても研究の初期段階から関わって居るから、ある程度なら答えれるかな」


「われわれの医療現場では、医療チームごとに通常的にVRの中で、ある程度の思考共有と言うかデータの共有を行っていますが、相手に伝えようと思って呼びかけるようにしないと伝わらないのですが、それをもっと自然な形で共有できる可能性はあるんでしょうか?」


 VR技術の進歩により医療従事者は医療事故防止のため、常時VRに接続出来る環境にすることが義務づけられていた。医療情報の共有やデータの閲覧等を即座に行うため、医療従事者専用で首にU字の首輪のような端末を付け脳の半分をVRといつでも接続出来るようにするタイプの物が一般的に使われているのだった。


「ん~~~ん」小島教授がVRのバックアップから何かしらの資料を探すしぐさをしている。


「共有というか、今我々が日常的に接続しているこの端末は、伝えたいことを思考操作のみで伝えられる物にはなっているんですが、伝えようという意思が脳波を増幅させて端末が感知することによって可能になっているはずなんです。伝えようとしないこと、たとえば御腹がすいただとか、今日のお昼ご飯は何にしようとか、うるさい婦長だとか、そこまで伝えようとするには神経の伝達能力が今の2倍は必要になると言う論文が過去にありました」


「10年前の物なので・・・もっと感度のいい家庭用のVR機器が出来たなら可能になるのかもしれませんが、現状においては厳しいのかもしれません。VR機器の進歩もここ30年で一気に加速しているし、人間の脳についての研究はまだまだこれからですから。現状はある程度の再生は出来る、しかしそれは人の遺伝子ゲノム情報まかせであって、脳の可能性についてはまだまだ未知数の部分が多いのです」


「ですから、VRの技術は出来た。便利だから利用するが、それによって人の脳にどのような変化が起こるのかと言うことまでは判っていないのです。さらなる新しい人類が生まれるかもしれないし、記憶操作をしたことによって脳が退化を始めるかもしれない・・・これはタイムマシンに乗って未来に行ってみるしか確認出来ないし、我々にはタイムマシンを現状作る技術が無い為、未来の人類に託すしかないでしょう」

最後の教授の言葉に皆一同に笑い出した。


「ありがとうございます」仁は教授に皆がするように深々と礼をする。


「それでは、お昼ご飯にしましょう。院内の食堂は休みですから学食でお願いします。院長のおごりですから、好きな物を好きなだけ食べてください」

教授の言葉に皆が一同に食堂へ向かって歩き出した。


「学食か~なつかしいな~」などの声があちらこちらから聞こえてくる。


 朝の時点で10人程度だったはずの人数がいつの間にか20人は超えている、中には白衣ではなく私服の者までもいた。



(小島教授が講義している噂を聞きつけて、来やがったな・・・)そう仁は思った。


「こんにちわ~~ラリアット~~~!」聞き覚えのある声と同時に仁はものの見事に左後ろからのラリアットをくらっていた。


「み、美和ネエ・・・痛いですって・・・」仁がクラッタ後頭部をおさえる。


ジージャンにジーパンを着た美和の姿があった。前のボタンが閉められてないジージャンから覗く真っ赤なTシャツに黒いドクロマークのプリントが仁の目には痛く感じられた。


「休みなんじゃ・・・なかったですっけ?」


「やすみだよ~~!」


「じゃあなんで?こんな所に居るんです?」 


「君は何にも聞かされないで、ここに来てるんですか~~~?」


仁は美和ネエのこめかみグリグリ攻撃を受ける。


「いていていって~~!」仁は思わず大声を上げえる。


「まあそのお話は、ご飯でも食べながらゆっくりと話すのです。私はお腹がすいているのですよ~」美和が小走りに駆け出していった。




><><><><><><




 付属病院から学食までは渡り廊下でつながった医学部と医学部の研究施設を横断しなければならなかった。他学部の建物との境界に国立図書館が存在し図書館を含んだ施設に学食は設けられていた。腐っても国立大学である、敷地の広さは首都圏の郊外に存在する大学の中では一番だった。ゆえに付属病院から学食までは普通に歩いても5分以上掛かってしまうため、付属病院に勤める人々は、あまり利用しないのだった。


「なんかなつかしいね~~~、このカレ~」と目の前に置かれているトレーのカツカレーとコーンスープ、手のひらサイズのボウルにサラダを山盛りに盛った美和だった。


「カツカレーです。しかも大盛り、サラダも大盛り・・・・」


(この細い体のどこに入るんだ・・・)と美和をみつめる仁。


「いいじゃない、院長のおごりだから朝ごはん抜いてきました」


「何で知ってたんです??院長のおごりだって・・・?」怪訝な顔の仁だった。


「毎年恒例らしいよ・・・ゴールデンウィーク中の小島先生の講義・・・昼食も毎年院長のおごりっていうのも」


「何も聞いてませんが・・・」


「それは、君の部署の看護師長さんがわるいんですね~~~、いた~だきます」

美和は両手を合わせ目をつぶって一礼するとスプーンでカレーを一口口にする。満面の笑顔をつくってみせるのだった。

「うん~まいっす、君も早く食べないと・・・休み時間おわっちゃいますよ~~」

美和に催促され、仁は普通サイズのカツカレーに手をつけるのだった。


「でもおたがいよかったね~~、小島先生の講義にお呼びが掛かって」

一通り食べ終えたのか、美和が話し出した。トレーの上にはきれいさっぱり空になった皿のみが置かれていた。


(ほんとうに・・・食べたのね・・・・)空いた皿を見て感心する仁だった。


「ん???どおいう??事でひょう」

まだ口の中に少しカレーを残したまま仁は言葉を発してしまっていた。

(し・・しまった・・・)と仁が思って時には既に遅しで美和のグリグリが発動していた。


「君は、口の中に物を入れたまま話さないのです!」


「いたいたいた・・・いたいげふぅ~~」と言葉にならない奇声を上げる仁・・・口の物をあわてて飲み込む。


「食べてるの知ってて、話しかけてきたのは美和ネエじゃないですか!」反撃を試みる。


「お口の中のものを飲み込んでからでも会話になるんです~~」


(まあその通りなのだが・・・・)悔しい仁だった。「ごめんなさい」弱い仁でもあった。


「は~い。わかればよろしい。ちと、コーヒー買ってくるですよ~」

自動販売機に小走りに走り出す美和。その後姿を見て「う~ん、せわしない人なのです」と仁は思わず言ってしまう。


「ほい」自動販売機で缶コーヒーを買ってきた美和が仁の前にもコーヒーを差し出した。


「サンキュー」素直に受け取って早速缶コーヒーを開ける。


「さっきの件だけどね~~ぇ、呼ばれると可能性あり、呼ばれないと可能性なし・・・みたいなこと、聞いてるのです」


「医師になる可能性ってこと??」(どこから仕入れた情報だ?)と仁は半信半疑だった。


「そうみたいなのですよ。」


「なれるに越したことはないですが・・・あまり執着はないんだよね~」仁の本音だった。


「君は、相変わらずマイペースですからね~~。まあ、そこが良いところで好きなところでもあるんですが・・・」(なんか・・・言ってしまった・・・)と思って自分の顔が赤くなっているのを感じる美和だったが、目の前の仁は全く気づく様子はなかった。仁の鈍感さに腹立たしいと思う気持ちと、さらっと流れてしまった事に対する安堵とが入り混じって複雑な気持ちの美和だった。

「そろそろ時間なのです。ご馳走様でした」頂きますの時と同じように両手を合わせ一礼する美和、合わせるように仁も同じようにするのだった。


「久しぶりの学食はおいしかったね~」(おとといも・・食べたし・・)自分で突っ込む仁。


「ね~~」美和の顔に笑顔が戻る。




    二人の時間はゆるやかな雲の流れのように流れていくのでしょう・・・・・・







最後までお付き合いいただき大変ありがとうございます。

また、お気に入り登録ありがとうございます。筆者の励みになっております。

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誤字脱字等のご指摘、作者ページにて随時受け付けております。

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