第1章 8話 鍛冶
残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。
この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。
レジェンド Online
ほのぼのと
第1章 8話 鍛冶
薄暗い闇の中、体長1.5メートル角の長さ1メートル弱はあろうかという雄鹿と向き合う男がいた。身長1メートル90センチはあろうかという大男鍛冶だった。男は中段に刀を構え、何度かめの鹿の突進に耐え切ったところだった。木の枝の様に生えた角の一部は既に切り落とされその戦いの片鱗をうかがわせる。
鍛冶は牙の為の日本刀を打ち終えた後、道上との談笑の中で牙が野生動物と戦って鍛えたことを知り、野生動物との戦いに興味を覚えた。そのためポーリングの街への帰路をあえて徒歩で帰っていたのだった。そこへ出くわしたのが今鍛冶の対峙している雄鹿だった。
(のやろ~、なんてすばしっこい動きしてやがるんだ・・・)鍛冶は野生動物との初の戦闘にイライラをつのらしていた。鹿の角が邪魔してなかなか鹿本体に対するダメージを与えられないのがもどかしく感じられていた。鹿の角の突進に腕やわき腹を何度か負傷するが、体力回復用の丸薬で回復しダメージは回復させているものの、持ち合わせの都合上無制限に使用できるものでもないのだった。
(ワンコは、どうやってこんなのと戦ってきたんだ?普通のMOBよかはるかにしぶといじゃねぇかよ・・・)頭を抱える鍛冶だった。
(邪魔なのは、角だな)と鹿本体への攻撃をいったん止め角に対して攻撃を放っていく。鍛冶が鹿の角に斬りつけるたびに木とも違う鉄とも違う感覚が刀を伝わってくるのだが、あるところまでは硬くそれを過ぎると軟らかいという、なんとも微妙な感触を鍛冶は感じていた。
対する鹿は角を徐々に折られても、攻撃の意思を変えようとはしない。正面からの角での攻撃から回り込んでの体当たりへと攻撃のスタイルは変えても決して逃げる様子などないのだ。
(やっと、当たる様になったか・・・)鍛冶は鹿の体当たりを日本刀で防いでいく。そのたびに少しづつではあるが、鹿にダメージを与えられるようになってきていた。
(今度は足が来るかよ・・・)すれ違いざまに後ろ足の蹄による攻撃を受ける。一気に20%ほどのHPが削られ、鍛冶は背中に激痛をおぼえた。
鹿がたまに見せる頭を振るしぐさとHPバーが50%を切る減り具合からも攻撃がきいているのを鍛冶は感じとっていた。丸薬を使用して残量を確認すると10個をきっている。
(このままやってもジリ貧じゃな~か、くそったれ!)いらだつ鍛冶。
「これで最後にしようぜ・・・くそ鹿!」鍛冶は一気に間合いをつめ3段突きを放つ、首の左右そして鹿の眉間に日本刀が突き刺さる。鹿の首から大量の血しぶきが上がり残りのHPが一気に減る。(最後まで倒れやしねぇ・・・)鍛冶は突き刺さった刀をねじ込むように突き刺ししていく・・・HPが0を示した鹿は倒れる前に光の粒となって消えていった。”ポーン”といういつもの音がしてLvが32に上がった事を鍛冶に知らせた。
鍛冶は一度刀を振るい半紙で血糊を拭って日本刀を鞘に納める。空には満天の星がきらめき始めていた。「ふ~う・・・かかったな」鍛冶の口からため息が漏れる。和服の袖からタバコを取り出し火をつけた。タバコの白い煙が筋となって夜空へと立ち上る。
(この一服はやめられそうも無いな・・・やめる気もないが・・・)肺の中に煙を吸い込みそしてゆっくりと吐いていく。
バックの中に鹿の角、毛皮、肉が増え、回復用の丸薬は残り8個となっていた。
(またあんなのとやりあうには足りねぇか・・・)鍛冶は吸殻をバックへ、バックからポーリングの街への帰還札を取り出すとそれを空に放り上げる。空で光の粒となった帰還札は鍛冶を包み込み鍛冶はポーリングの転送施設へと送られて行くのだった。
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鍛冶はポーリングへ着くと無理を言って和服を作らせた露店商のもとへ足を向けた。露店広場とプレイヤー達に呼ばれる広場に露店は建ち並んでいた。さながら寺社仏閣の祭りに行われる夜店のような雰囲気で、どこかの参道を思わせるような道の両脇にずらりと露店が建てられていた。
ポーリングの街の中心部に店舗を構える者も少しずつ出てきてはいたが、まだまだこちらが大多数を占めていた。
「よー、繁盛してるか?」天井から吊り下げられた服を暖簾のようにかきわけ鍛冶は店の中へと入っていく。4畳半ほどの店舗にびっしりと商品が並べられていた。
「は~い。まあまあですね~」と奥から店の主人らしき女性の声がする。
「でも、こんなに商品あるじゃねぇか~?」と鍛冶。
「売れてないんですね~~売れてたら商品なくなってるんですね~~」と女性主人が姿を現した。歳は30手前くらい身長160センチほどの少しポチャリとした、気の優しそうな丸顔の女性だった。
「鍛冶さんじゃないですか~・・・人斬りの!」二人は大笑いしだした。
「まあ~、あんまりいじめんでくれ~京香さん」鍛冶は頭をかいて照れ笑いする。
「で、今日は?」
「いや、ちょっと前に鹿とやりあったんだが・・・やぶれちまって~・・・せっかく作って貰ったのに面目ない」鍛冶は和服の両袖をつかんで京香が見やすいように広げて見せた。
「ん~~、服は再生するはずなんですけど~~~?」と京香も鍛冶の服を確認していく。「なんともないみたいですね~~~」確認し終えた京香が言う。
「は~~あ?」と鍛冶。
「鍛冶さ~ん知らなかったんですか~?服はお洒落アイテムで、破れても元に戻るのよ~!」
「装備じゃないからですからね~~! 装備なら耐久力が無くなれば壊れるけど~、服は装備扱いじゃないから、汚れても破れても元に戻るの・・・鍛冶さん知らなかったんだ~」
「ってことは・・・装備なしで戦ってたって事か?」鍛冶が唖然とした顔をする。
「そおいうことですね~~~」京香が笑い出した。
鍛冶の肩ががっくりと下がっていく。
「そ~だ」鍛冶は鹿の毛皮を手に入れていたことを思い出しす。
「これなんだが~~?」冒険者のバックから鹿の毛皮を取り出し京香の前に差し出した。
「なんですか~~これは~~~」京香はこのゲームで始めて目にした毛皮に目を丸くしていた。
「鹿の毛皮・・・さっきやりあったって言ったじゃねぇか~・・・」
「本物の動物の毛皮みたいじゃないですか~~~感動です~~」京香は毛皮に頬ずりしてしまっていた。
「それで、防具つくれねぇか?」
「いいんですか?こんな貴重なの任せていただいて~~?」言葉とは裏腹にやってみたい作ってみたいオーラが全開の京香だった。
同じ職人として、その雰囲気を敏感に感じ取った鍛冶は(こいつなら任せて大丈夫だろう)と思うのだった。
「いいもの、作ってくれよ!」
「はい!がんばって作ります!服は趣味で本業はこっちですから!」
京香の顔に笑みが満ち溢れていた。
「一週間ほどください、必ずいいもの作って見せますから!」
「わかった、よろしく頼む」
鍛冶は手を上げて挨拶すると京香の露天を後にする。
(しっかしなんてぇ人の山だ~こりゃ~首都圏の通勤ラッシュなみだ・・・)と鍛冶は10代の頃、道上達と通った大学までの通学を思い出していた。
露店と露店の間は7~8メートルほど、露店の前で立ち止まり商談をする人々の間を縫うようにして歩いていかなければならなかった。10分ほどかかって鍛冶はやっとの思いで露店広場をぬけた。
「すいません鍛冶さんじゃありませんか?」どすの効いただみ声だった。鍛冶は聞き覚えの無い声に振り向いた。6人ほどの若者たちの中の一人が鍛冶に声をかけたのだった。その中で一番背が低い身長170センチあるかないか、鬼族の男が鍛冶の前に歩みよって来た。二十歳になるかならないかの少年で、ユニコーンのような角に少ししゃくれた顎とよった目が特徴的な男だった。
鍛冶は見覚えの無いその若者たちを前にして和服の袖に腕を隠したまま腕組みをする。
(なんだかわからないが・・・あまりよさそうな連中じゃあ~ねぇな・・・)と鍛冶は思う。
「だとしたら?」
鍛冶の答えに若者たちの一人がどこかと連絡を取るのか個別通話をはじめた。
「俺たちはこの世界じゃあちった~名の知れた旅団、千基行軍の井本組5番隊のものっす。俺は5番隊の副長やらして貰ってるイサミって言います」
(なんだ~~~?こいつ・・・関わらない方が身のため・・・だな)と鍛冶は早々に決断する。
「ん?千両役者、井戸端会議~~~5番隊?イサムだあ~~~?」
「いや・・千と、井と、イサしか合ってねぇっす!千基行軍っす、知らないわけないっす・・・この世界じゃ有名っす!」
「せんこうぐん?・・・しらねぇよ、そんなとこ!」鍛冶はわざと間違えて言う。
(ど~でもいいわ・・・・こいつら・・・)と思うのだった。
後ろの連中が連絡を取り終えたようで、イサミと名乗った若者に耳打ちし始めた。
「知ってても知らなくても一緒に来て欲しいっす・・・来てもらわないとこまるっす」
「なんなんだ?お前ら?人を呼び止めて、俺たちは有名だから着いて来いってか?人を馬鹿にするのもいい加減にするんだな!」思わず怒鳴り散らす鍛冶だった。
いつの間にか鍛冶たちの周りに野次馬の人だかりが出来ていた。鍛冶の大声に怯える野次馬もその中に少なからず存在していた。
「団長の命令っす、団長の命令は絶対っすから、力ずくでもつれていくっす」イサミは背中に背負った刃渡り130センチ程の両手剣を抜く。後ろに控えた数人が「おいやめろって~」とか「団長に知れたらただじゃすまないぞ・・・」とか言い始めるがイサミは聞く耳を持たない様子だった。
「抜いたって事は、斬られても文句はいわねぇ~んだな?」鍛冶も日本刀を鞘から抜いていく。
野次馬たちの感嘆の声がそこらじゅうで聞こえ始める、と同時に取り巻きが後ろに下がって行く。
(俺もおとなげねぇ~な・・・)と鍛冶は一瞬考えたが(こうしたほうが、今後こいつらみたいのから声を掛けられなくなるだろう)という考えもしていた。
「なめんなよ~~~~~」イサミは大上段に大剣を振りかざし鍛冶に突進する。鍛冶は難なくそれをかわしイサミの胴を薙ぐのだった。イサミの下半身を残して上半身が崩れ落ち、HPが0になる。決闘はないただの斬り合いである、一瞬にしてイサミは光の粒となって装備とバックの中身をその場にぶちまけて消えていった。
一瞬の静けさの後、悲鳴交じりの喧騒が辺りを包んでいった。残された少年たちはイサミの落とした装備やバックの中身を一通り集めるはじめていた。
(なんか・・・後味のわりぃ感じになっちまったな・・・・)と鍛冶は思う。
「お前らの団長さんとやらに言っとけ、礼儀を湧きまえねぇからから斬ったってな、それから、今後二度と俺の前に顔出すな!いいな!」
「は・・・・はい・・・すいませんでした」残された少年の中の一人が答えた。
”ポーン”「闇の精霊が狼族のプレイヤーにより目を覚まし、契約を果たしました。新たに闇の妖精たちが現れます。同時に闇属性の妖獣もフィールドに解き放たれます。」と言うシステムアナウンスが全てのプレイヤーにアナウンスされた。
”ポーン”「鬼族のプレイヤーイサミと人族のプレイヤー鍛冶との間で行われたPKは、人族のプレイヤー鍛冶の勝利となりました。人族のプレイヤー鍛冶には返り討ちの称号が付与されました」続いてこちらも全プレイヤー達にアナウンスされる。
鍛冶の周りで野次馬をしていた連中にざわめきが起こった。
(闇の精霊に妖精だ~~あ?って・・・狼族??・・・)光があるなら闇もあるだろうと、誰もが予想していたのだが、精霊が目覚めて妖精が現れるということ自体が、全てのプレイヤーに知られていない事実だった。
(ってことは・・・知らないだけで闇の他にも精霊が居るって事か?・・・ミチに聞いてもそこらへんは・・・こたえんだろうしなぁ~)とも鍛冶は考えるのだった。
(ワンコにでも話聞いてみるか・・・)鍛冶はその場を少し離れたオープンスペースの喫茶店に席を確保し店員にコーヒーのオーダーをする。
(ワンコワンコ・・・・って・・・牙だったか・・・・)アドレス帳を開いて牙を捜す。
(あれ・・・・どこいった・・・・たしか、お礼のメールは着てたよなぁ~~)何も無いはずの空間に表示されているアドレス帳のページを一枚一枚確認するように鍛冶は調べていく見たことも無い長い名前を見つける。
(月夜闇の雅乃守牙????これ???なんだぁ~~?ワンコ牙か?・・・)鍛冶はテーブルの上に取り出しておいたタバコを手に取り火を点ける。
(闇の精霊と契約したのって・・・ワンコか?・・・)とも考える。
鍛冶は既にログアウトになっている 月夜闇の雅乃守牙にメールを送ることにした。
To:牙・・・でいいのかな? From:鍛冶
こちらのアドレス帳に載ってる名前が 月夜闇の雅乃守牙になっているようですが・・牙君でよかったのでしょうか?
牙君でよければ返信お願いします。
鍛冶は色々ありすぎた今日の出来事を思い出しながらコーヒー飲み干していく。
(娘たちが絶対に楽しいからと押し切られる形で始めたゲームだったのに・・・・少しだけのつもりがどっぷりつかっちまったなぁ~・・・・たまにはいいか・・・)と思う二児の娘の親父だった。鍛冶は店を出たところでログアウトした。
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露店が露天であったため、修正しました。2012/05/31




