まよねいず
怪我や病人以外では初めての泊まってくれるミーナを嬉しく思い、俺は鼻歌交じりに調理をしていた。
「エリューシアさんも食べていきますか?」
「――用事がある」
「今日は良いお肉が手に入ったんですよ」
「ご馳走になる」
あっさりとエリューシアは陥落していた。
「えっと、ムメイ様? そのお肉ってもしかして……」
「さっきのドラゴンですよ」
「そ、そうですよね……。ドラゴン……、食べられるのですね」
「――すごく美味」
「エリューシアさん、食べたことあるのですか?」
「――前にししょーにもらった」
「……エリューシアさんって良くここに来られるのですか?」
「よく来る」
「エリューシアさんは大体月に一回か二回来られるんですよ。色々と素材を持ってきてくれて助かってるんです」
まずは豪快に骨付き肉を焼き始める。
巨大な肉なので時間がかかるのは仕方ない。
そこは最善の焼き加減を魔法くんが提供してくれるので、安心だ。
「素材……ですか」
「んっ、代わりに作物をもらってる。それと魔法も教わっている」
「へぇー、魔法を……。で、でも、魔法を教わったのは私の方が先ですよ。私が一番弟子です!」
「なら私は二番弟子でいい」
「俺は誰も弟子に取ったつもりはないですからね」
肉が焼き上がるまでにサラダを作っていく。
ドレッシングまでは作れないので、もらった卵を使ってマヨネーズだけ作っておく。
念のために魔法で除菌をした上で、ゴーレムくんが必死にかき混ぜて作った特製だ。
「これは?」
「マヨネーズです。付けて食べてみて下さい」
「まよねいず……ですか。変わったソースですね。っ!?」
ミーナは少しマヨネーズを付けると目を大きく見開き、慌ててサラダを食べ始める。
「リックとエレンも食べてみて下さい。これ、すっごくおいしいですよ」
「あははっ、大げさだな。そんな白いのをつけただけで味が変わるはずが――」
リックもミーナと同じくマヨネーズを付けると目を見開いていた。
「なんだこれ。やみつきになるな」
「ですよね。すごくおいしいです」
「はぁ……、二人とも、少々はしたないですよ」
エレンが苦言を呈しながら同じくマヨネーズを付ける。
すると、口に手を当てて言葉に詰まっていた。
表情を見るだけで、おいしかったことがよくわかる。
ただ、リックやミーナのようにわかりやすく言葉にすることはなかった。
いや、それ以上の行動に出てきた。
「ムメイ様、こちらのソース、買い取ることはできますか?」
「えっと、量は作れますけど、あまり日持ちはしませんよ?」
「そ、そんな……」
エレンががっくりと肩を落とす。
「そ、それじゃあせめて作り方を――」
「作るのは簡単なのですが、除菌に魔法を使うんです」
「――除菌魔法……、聞いたことない。教えて欲しい」
知らない魔法名を聞いて、エリューシアが興味を持ち始める。
ただ、彼女は生のサラダの方がお気に入りのようで、マヨネーズは使っていなかったが。
「うーん、目に見えない菌を除くっていうのでしょうか? ちょっと説明が難しいですね」
「……そう」
目に見えてガッカリとするエリューシア。
それに釣られるようにエレンもガッカリとしていた。
「ここでしか食べられない。ここでしか……。ふふふっ、なるほど。それなら仕方ありませんね」
ゆっくりとした動きで起き上がるエレン。
そして、俺の方へと近づいてきて、手を掴んでくる。
「ここでしか食べられないのなら仕方ありません。私はここで暮らします!!」
「えっ!? だ、ダメですよ。それは許しません!!」
なぜかミーナが否定をしていた。
「ここで住むのはぜんぜん構いませんが、見ての通り何もないところですよ?」
「まよねいずがあります!!」
「エレンには仕事がありますからなんとしても連れて帰りますよ!」
「ど、どうしてミーナ様は私とまよねいずの恋を妨げるのですか!?」
「また今度食べにきたら良いんですよ。ムメイ様もまよねいずの素材がないと作れないんですよ」
「あっ、そうでした。わかりました。この不肖エレン、まよねいずの素材をあるだけ買い占めてきます」
「あははっ……、そんなに作っても余らせるだけですよ」
「安心して下さい。全部食べますから!」
「カロリー高いですからそんなに食べると太っちゃいますよ?」
「っ!?」
おいしそうに食べていたミーナの手が止まる。
青ざめた表情でそっとマヨネーズをエレンの方へと押していた。
「えっと、私はその……」
「いっぱい食べ過ぎないと大丈夫ですよ」
ただマヨネーズ一つでここまで騒動が起きるのなら、除菌魔法をなにかの道具に付与することも考えた方が良いかもしれない。
「ミーナが丸くなっても私は困らない」
黙々とサラダを食べ続けるエリューシアが口を止めて言う。
「ま、丸くなんてなりませんから!」
◇ ◇ ◇
すっかり日も暮れてしまった頃にようやくドラゴンの肉が焼き上がる。
味付けは塩のみ。
むしろ塩の在庫があって助かった。
近くに海があるなら魔法で作るのだけど、残念ながら海へ行くまでそれなりに距離がある。
いや、転移させたらいいのか?
広大な海なのだから多少座標がズレても問題ないだろうし、転移した海水をそのまま沸騰させ、塩をとる。細かい部分はその都度魔法で調整。
うん、できそうだ。
おそらくは効率は悪いだろうけど、魔力量でどうにでもなるだろうし……。
今度試してみよう。
ドラゴンの肉を片手に物思いに耽っていた。
「むぅ、肉……」
「あっ、ごめんなさい。つい、考え事をしてしまいました。こちらをどうぞ」
お皿を持って待っていたエリューシアに肉を渡す。
そのあとミーナたちにも渡して、最後に自分の皿にも載せる。
「本当にこんな贅沢をしてしまってもいいのでしょうか? ドラゴンのお肉を食べるだなんて……」
「えっと、ここに住んでるとたまに飛んできてくれるからよく食べられますよ? 今日は運がよかったです」
「普通ドラゴンに会ったってなると己の運に悪さに嘆くんですけどね」
マヨネーズがなくなり、ようやく我に返ったエレンが呆れ顔で言う。
「えっ、でも普通においしいですよ? こんなご馳走を簡単に食べられるなら運がいいと思いませんか?」
「簡単じゃないんですよ……」
「ムメイ様にとっては今更なんですよ。それよりも私たちも頂きましょう」
ミーナがにっこりと微笑みかけるとドラゴン肉を食べる。
その瞬間にあまりの美味さに意識が飛んでしまう。
まるで幸せな夢を見ているような気持ちになり、しばらくしてこの場に戻ってくる。
「な、なんですか、このお肉は!?」
「ドラゴンのお肉ですよ?」
「それはわかっていますが、なんでこんなにおいしいのですか!?」
「本当においしいですよね。ミーナさんが泊まってくれるって日にこんなご馳走を用意できて良かったです」
「あっ……」
今更ながら自分の言ったことを思い出して、ミーナは顔を赤らめていたのだった――。




