お泊まり
改造に改造を重ねて、複数の客間を用意した俺の屋敷。
ただ、改造をしていたのは何も建物だけではなかった。
もちろん、そこに置かれた家具、一つ一つが俺のお手製。
つまりは魔道具であるのだ。
それを見たミーナの反応は、というと――。
「な、なんですか、このお部屋は!?」
「何か足りなかったですか? すぐに作りますので、必要なものは言ってください」
「ち、違いますよ。ここまで整ってるとは思わなかっただけです。その……本当にここを使わせてもらってもいいのですか?」
ミーナはどこか不安げだった。
もしかして、何もない倉庫のような場所で寝るつもりだったのだろうか?
そういえばどんな部屋を用意してるか、一度も話したことなかったからかもしれない。
これはしっかりアピールしないといけないな。
俺はにっこりと微笑みながら言う。
「もちろんですよ。ベッドには疲れだけではなく怪我や病気もゆっくりと回復する魔法が付与してありますし、外の環境にかかわらず、最も過ごしやすい温度になるようにしてます。更に更にお布団は常に新品同様の清潔さを保ち、寝てる人も綺麗になる効果付きです。更に周囲から気配を悟られないようにした上で、考えうる攻撃の全てを防ぐ結界を付与してます。他にも……」
「ちょ、ちょっと待ってください。あのその……」
ミーナは顔を青ざめていた。
もしかして、効果が足りなかったのだろうか?
「すみません。実際に寝る人のことを考えていませんでした。他に付与する魔法があったら言ってくださいね」
「いえ、十分すぎるほどです」
「あっ、リックさんやエレンさんの部屋にも同じものを用意してますから、好きに使ってくださいね」
その言葉に彼らは目を大きく見開いていた。
「ま、まさか俺たちもこんな部屋に泊まれるのか?」
「もちろんですよ。ゆっくりくつろいでくださいね」
「こ、こんな国宝級のベッドを使えるなんて……」
「あっ、他のもまだ説明していませんね。順番に説明しましょうか?」
「いえ……、ベッドだけで十分です。ちょっと理解が追いつかなくて……」
「あっ、なるほど。そういうことですね」
魔法が好きなミーナらしい言葉だった。
つまり、このベッドをどうやって作ったのか、それを考えているわけか。
確かに睡眠の質は魔法を極める上で大切だ。
だからこそとことんこだわりぬいた素材を使用して、持ちうる全ての魔法から最善を尽くして作り上げた物なのだ。
今のミーナだと確かに理解の外にある代物に見えるかもしれない。
「いずれミーナさんもこれを作れるようになりますから安心してくださいね」
「そ、そんなに簡単に作れる物なのですか!?」
「流石に色んな魔法素材を組み込んだ上で、魔法の付与も多数行なってますから、簡単に……ではないかもしれませんが。あっ、でもそこまで希少な素材は使ってませんよ。全部簡単に取れるものばかりです」
「あっ、そうなのですね。それならいずれは私の部屋も……」
「ドラゴンとかフェンリルとかくらいですし、簡単に倒せますね。あっ、フェニックスだけはなかなか現れてくれないので、取れる時にたくさん取っておく必要はありますけど……」
「ムメイ様の簡単を簡単と思った私がバカでした……」
ミーナはガックリと肩を落とした。
ただリックたちは予想通りといった表情をしている。
「こんな値段もつけられないような魔法具、簡単に作れるはずないだろ」
「そうですね。この分だと他の家具もとんでもない力を秘めてますよ……」
「ほ、本当にこの部屋を使わせてもらってもいいのですよね?」
ミーナは再三にわたり確認してくる。
「トイレは一応各部屋についてますが、お風呂は残念ながら大浴場になります。一応男女別れて用意してますので、問題はないと思いますが――」
「お、お風呂まで!?」
「俺、次からここで泊まってから帰っていいか?」
「私の同じ気持ちです。もちろんミーナ様次第にはなりますが……」
リックとエレンはミーナの顔色を伺う。
ミーナはため息を吐いてから答える。
「ムメイ様のご迷惑にならないのなら、その時は泊まらせてもらいましょう」
「もちろんいつでも大歓迎ですよ」
俺がニッコリと微笑みかけるとリックたちがガッツポーズをとっていた。
すると、それを見ていたエリューシアが俺の服を掴んでくる。
「――んっ」
「もしかしてエリューシアさんも泊まっていってくれるのですか?」
「んっ」
エリューシアは何度も頷いていた。
「そっか、頑張って作った甲斐がありました。やっぱり作ったものは誰かに使ってもらいたいですもんね。あっ、私はお風呂の準備をしてきますから部屋でくつろいで待っててくださいね。居間のほうでも構いませんよ」
俺は必死に手を振ったあと、普段使っていない大浴場の具合を確かめるのだった――。
◇ ◆ ◇
ミーナはエレンとエリューシアの三人で大浴場へときていた。
いかにすごい大浴場なのかは事前に嬉しそうにムメイが語っていた。
なんでもこのお風呂も様々な回復作用があって、更に美肌や若返り効果すらあるという。
他の人が語っていたのなら眉唾と思えるが、他ならぬムメイが語っていたのだ。
本当にその効果があるのだろう。
実際に湯船に浸かると瞬く間に旅の疲れが癒えていく。
「やっぱり凄いですね、ムメイ様……」
「んっ、本当にすごい」
エリューシアが話に乗ってくる。
――そういえばここには私たちしかいないのですね。聞くなら今がチャンスですね。
ミーナはエリューシアの顔を見る。
「エリューシア様、あなたはムメイ様のことをどう思われているのですか?」
まっすぐな物言いをする。
そうでなければきっとエリューシアは上手くかわしてくると思ったからだ。
「好意を持ってる。ぜひ里に来て欲しい」
「それは旅的な意味ですか?」
エリューシアは首を横に振る。
「ムメイにはいずれ里長としてエルフを束ねて欲しい」
「それはハイエルフであるあなたの伴侶として、ですか?」
「んっ」
エリューシアは肯定を示す頷きをする。
だからこそミーナも決意のこもった目で彼女を見る。
「私もアストラシア王国の王女として負けられません! ムメイ様の気持ちを射止めるのはこの一番弟子である私です!」
「むっ、負けない」
お互いの気持ちが知れたことで、最大のライバルとして、親しくなれる気がするのだった。
「では、これまでムメイ様に教えてもらった魔法を語りあい――」
「――上がる」
言葉少なにさっさとエリューシアは上がってしまい、ミーナは置いていかれる。
「全くもう! せっかく親しくなれたと思いましたのに!」
大浴場にミーナの声が響くのだった。
◇ ◇ ◇
そして快適に一日を過ごし、翌朝となる。
心地よい目覚めとともに窓の外の景色を見ると、黒い鎧を身に纏った集団が向かってきてるのが見える。
「あ、あれってもしかして、ガストリア帝国の……!?」
帝国以外に国はなし、を掲げ周辺国に戦争を仕掛けている大国だ。
アストラシアとも度々小競り合いを起こしている国。
ひいてはミーナにとって敵である国の軍勢だった。
――こ、こんなところまで攻めてきたの!? は、早くムメイ様にお知らせしないと!
ミーナは寝巻き姿のまま、慌ててムメイには会いにいくのだった。




