帝国騎士
「ちゃんと寝具の魔法は発動してるね。でも、健康な時にはこれでいいけど、ケガ人とか治療するにはもう少し威力を強くした方がいいね。その分、寝心地を少し犠牲に……。いや、寝心地は素材でカバーできるか?」
翌朝、俺は考え事をしながら朝食の準備をしているゴーレムを眺めていた。
流石に朝から手作りの料理までは作っていない。
ただ、それでもしっかりとした朝食は用意されていたのだ。
すると、この屋敷を目指してくる複数の気配を察知する。
「……誰だろう?」
この屋敷付近まで来れるということは敵意はないはず。
しかし、気配は感じるものの、それが限りなく小さい。
おそらくは意図的に消しているのだろう。
そんなことをする相手……と考えて、ふと心当たりを思い出す。
「あの人ならそれなりの準備をして出迎えないとね」
俺はにっこりと微笑むと自分の部屋に戻り、普段使っていないローブへと着替えるのだった。
◇ ◇ ◇
屋敷を出ると黒い鎧に身を包んだ集団が現れる。
顔すらも鉄仮面で隠している徹底ぶりだ。
ともあれ、やることは変わらない。
俺は先頭にいる人に声を掛ける。
「今日もやるのですか?」
俺の言葉に一番前の人物は頷く。
そして、体ほどある大剣をどこからともなく取り出すと、全身に強化魔法を掛けていく。
そのあと、腕や足、体や頭にそれぞれ個別に強化魔法を付与した後、剣に闇の魔法を付与する。
敵を前にしてやるには、準備にかなりの隙ができている。
しかし、俺はその様子をじっくり観察していた。
あの人から装備にも魔法を付与すればいいことを知ったんだよな。
俺の場合は自己強化は重ねがけでどこまでも強化できるが、単独でかける場合は道具ごとに掛けていって相乗効果を狙うらしい。
しかもあの人は強化魔法もかなり綺麗で、損失は少ししかない。
まさにリックの完成形ともいえる強化魔法だった。
「準備はいいですか?」
俺の問いかけに黒い鎧の騎士は頷く。
それと同時に思いっきり剣を振りかぶってくる。
その瞬間に黒い衝撃波が地面を抉りながら飛んでくる。
「中々の魔力の圧ですね。でも――」
俺は同威力の光の魔力を手に集めると軽く払う。
正反対の同威力魔法は互いを打ち消しあって、そのまま消失してしまう。
ただ黒騎士はそれを予測していたのだろう。
そのまま剣を振り下ろしてくるが、それは転移魔法であっさりと避ける。
それと同時に空中に仕込んでいた魔法を発動する。
まずは様子見で数百程度の初級魔法を使う。
それを大剣を盾にしてあっさりと防ぐ。
いや、いくつか防ぎきれずに鎧に傷が付いているが、その程度の傷だった。
「あははっ、いいですね。前はここで終わりでしたもんね。でも――」
初級魔法の次は同数の中級魔法だ。
俺は黒騎士に微笑み掛ける。
「これならどうですか? 防ぎきれますか?」
黒騎士は頷くともう一本大剣を取り出していた。
防御を捨てた完全な攻撃スタイルの二刀流。
そもそもあんな重そうなもの、二本も振り回せるの!?
相手の行動に驚き、どんな行動を取るのか気になり、少しだけ威力を落とす。
すると、黒騎士は大剣を振り回して中級魔法を切り払っていた。
しかし、数の暴力を前に全てを防ぎきることはできない。
ちょうど大剣の間に魔法が入り込む。
ここまでかな。
そう思った瞬間に、顔が見えないはずの黒騎士がほくそ笑んだように見えた。
魔法が直撃したと思ったその部分にだけ、小さな盾の魔法が発動していた。
元々狙われると読んでいたのだろう。
前は強化魔法以外使えなかったよね? 特訓したのかな?
俺も段々と楽しくなってくる。
「なるほど。さっきの魔法は読んでいたわけですね。では、これも読んでいますよね?」
芸がないと思われるかもしれないが、中級が防がれたことで次は上級魔法を使う。
数だけは異常だが、そのどれもが黒騎士も見たことがある魔法だ。
ただ、さすがに上級ともなると大剣を振り回しての対応は厳しいと思ったのか、大剣を地面に刺すと周囲を可能な限りの防御壁で覆っていた。
魔法に備えつつ、さり気なく俺に向かって短剣を投げつけたりもしてくる。
もちろん、その程度の攻撃だと防ぐ間もなく、自動で俺の回りに張っている結界が弾いてしまう。
防御結界を張った黒騎士だがそれだけでは不十分だと感じたのか、更に色々な道具を取り出して、更に結界を強化していく。
それが黒騎士に降り注いだその瞬間、屋敷から寝間着姿のミーナが飛び出してくる。
「ムメイ様、大変です! 帝国の人たちが、って黒騎士!? 帝国最強の!?」
「ミーナさん!? さ、さすがにその格好は――」
「えっ!?」
ミーナは改めて自分の体に視線を落とす。
その瞬間に顔を赤く染めていた。
ただ、それでもすぐに隠れるということはなかった。
「わ、私のことよりも今は黒騎士です! 本当に危険で……」
ミーナが必死に話していると降り注ぐ上級魔法の山が止んでいた。
ただ、それでも倒しきれなかったようで、満身創痍の黒騎士がそれでもなお俺に向かって突っ込んでくる。
「む、ムメイ様は私が守ります!!」
俺の前に立ち塞がるミーナ。
ただ、俺はそんな彼女をそっと押しのけると笑顔で言う。
「大丈夫ですよ。ただの訓練ですから」
「えっ?」
ミーナの呆けた声と共に俺の目の前に一本の杖が現れる。
それを手にして、軽く振るうとその瞬間に黒騎士はあっさりと吹き飛ばされてしまっていた。
「さすがに次の魔法を使うわけにはいかないですしね。これで我慢して下さい」
吹き飛ばされた黒騎士はゆっくりとした動作で立ち上がる。
そして、大剣をしまうと俺の前までやってきて、膝を突いていた。
「訓練、ありがとうございます」
鉄仮面を外すと長い黒髪の女性が顔を見せる。
黒騎士、リリシア・レティアス。
やや汗ばんだ髪は黒く綺麗で、顔も整っている。
ミーナたちにはない大人の女性といった感じの人だった。
そして、なによりも彼女が付けている鎧が素晴らしい。
古代遺物らしいのだが、俺の知らない魔法の付与がいくつも為されている上に、まだまだ改良の余地があるという素晴らしいものだ。
さすがに彼女の国の宝らしく見せてもらうことしかできないが、色々と魔法のインスピレーションがかき立てられていく。
更に彼女の腕も一級品だ。
騎士らしく基本剣で戦うことを想定しているのだが、それだけではなく、魔法を補佐的につかうことで彼女一人で何十、何百もの兵とも戦えるとか。
初めて来たときは問答無用に襲ってきて返り討ちにしたのだが、それ以降、なぜか度々訓練と称して戦いに来るのだ。
「まさか上級魔法まで突破されるとは思わなかったですよ。回復、掛けますね」
「まだまだでございます。手加減をされた上に傷一つ付けられないのですから」
「そう卑下することはないですよ。この場所は俺が魔法を使うのに最適化されてますから」
「いえ、どんなところでも戦えるようになってこその騎士です」
本当に忠誠が全くブレない人だ。
しかも自分の実力も客観視できる逸材。
いつかは俺とも全力で遊べるようになるかもしれないな。
「それで、今日もここで訓練していくのですか?」
「はいっ。ここまでの道中は強力な魔物がいるため、良い訓練になりますので、今日は部下も連れて来ました」
「わかりました。俺に教えられることがあったら言ってくださいね」
「いえ、師匠の教えはまだ彼らには早いです。ところで――」
彼女は鋭い視線をミーナへと向ける。
「どうして、ここにアストラシアの者がいるのですか?」




