ヒロイン戦争
無事に解体が終わると俺は三人の下へと戻る。
素材は既に収納鞄へしまってある。
もちろんしっかりと四分割した上で。
「こちらをどうぞ」
収納鞄をそれぞれ三人に渡す。
「あ、あの、これって……」
震える手つきでまずエレンが受け取り、慌てた様子で聞いてくる。
「ドラゴンの素材を入れました。みんな仲良く四分割です」
「そ、それもおかしいですが、あのとんでもない大きさの素材がどうやってこの鞄に?」
「あれっ? エレンさん、見たことなかったですか? 空間魔法を付与した収納鞄ですよ。見た目よりずっと広いんです」
鞄の口を広げてみせる。
するとそこには丁寧に処理されたドラゴンの素材が所狭しと詰め込まれていた。
「いや、ムメイ様が規格外なのは知っておりますが、その……、この鞄は?」
「皆さんの分の素材ですよ?」
「ムメイ様が倒していたのですから、素材もムメイ様のものでは?」
「そんなことしませんよ。みんながいるときに倒したのですから、平等に分割です」
そういうと俺は収納鞄をミーナたちに押しつけていく。
「あっ、リックさんは怪我をしてますね。治しましょうか?」
「それなら私が治してもよろしいですか?」
鞄を受け取ったミーナが聞いてくる。
確かに回復魔法は中々練習の機会がない。
自分で自分を傷つけて治すなんておかしなことをするのは俺くらいだろう。
「もちろん構いませんよ。思いっきりやっちゃいましょう」
「はいっ」
リックの怪我はちょっとした切り傷や火傷といったものだったので、ミーナの回復魔法ですぐに治っていた。
ただ、折れた剣だけは戻せなかったようだ。
「ドラゴンを相手にして、これだけの被害で済んだのはマシだったな」
愛用の剣を眺めながらリックは遠い目をしていた。
「ドラゴンの素材を貰えたんだ。もっと良い剣も作れるよな」
「では、それまでの代わりに……」
俺は魔法でリックの折れた剣を元に戻す。
ただ、一度壊れた剣はくっつけたところで癖が付き、折れやすくなるとも聞いた覚えがある。
それならただくっつけるのではなく、一から作り直す形をとった。
更についでに魔法を付与し、壊れにくく切れ味も鋭く、もし折れたとしても自動で修復するようにして……。
「リックさん、どんな魔法が好きですか?」
「俺か? 俺はとにかく派手なのが好きだな」
「馬鹿の一つ覚えみたいに見た目のすごい魔法が強いと思っていますからね」
「なんだと!?」
いつも通り二人がじゃれ合っているのを横目に、更に剣に魔法を付与する。
とにかく派手にしたいとのことだったので、聖魔法を付与する。
その上で一度試しに振ってみる。
ドゴォォォォォォン!!
白く輝く剣から光が放たれるとそれは斬撃として飛んでいき、近くの山を谷へと変えていた。
「うん、これなら派手でいいよね?」
「な、なんだ、その歩く爆弾は?」
「えっ? いたって普通の剣ですよ?」
「そうか……」
「どうぞ。新しい剣を作るまでの代わりです」
リックは剣を受け取ると乾いた笑みを浮かべ、明後日の方向を見ていた。
「あ、あはははっ……。これがあったらもう別の剣を作る必要がないだろ……」
焦点の合わない目で剣を受け取るリック。
そのまま鞘へと収めようとすると、スパッと鞘が二つに切れてしまう。
「あっ……」
「そ、そうでした。切れ味を上げちゃったせいで、鞘が持たないんですね。そちらも直しますので、少し待ってくれますか?」
「もう好きにしてくれ……」
リックの鞘も好きに魔改造をする。
「鞘だからやっぱり守り系を付与するのがいいよね? 剣をしまうと周囲に結界を発動するとか? でも、そうなると魔力の消費が激しいよね。魔力効率をよくしないと……」
意識を鞘に集中すると周りがもう見えなくなってしまうのだった――。
◇ ◆ ◇
ムメイが鞘を改造し始めたのを眺めるミーナたち。
その表情はもはや諦めにも近かった。
「ミーナ様、本当にいいのでしょうか? なんだか国宝級の武器が出来上がっていきますが……」
「ムメイ様を止めることなんて誰にもできませんよ。彼が良いと言っているのですから構わないでしょう」
「えっと、俺が使ってもいいんだよな?」
「もちろんですよ。あなたが持っていないとムメイ様が不審がるかもしれませんから」
「よっしゃー! あんな武器、一度使ってみたかったんだ」
リックは飛び跳ねそうなほど喜んでいた。
ただ、すぐに真顔に戻っていた。
「ところで、あれ、言った方が良いと思うか?」
ムメイの屋敷へ向かう気配が一つあった。
それは王国一と称されるミーナすら上回るとんでもない魔力の気配だった。
「魔族か? いや、それにしては澄んだ魔力だな」
「ムメイ様が気付かないはずないと思いますよ。何も言わないのでしょうから問題ないのでしょう」
「集中していて気付いてないだけかもしれませんよ?」
ミーナたちは三人、顔を見合わせる。
そして、念のために襲われないように戦闘の準備だけしておく。
すると、現れたのはエルフだった。
本来であれば人前に中々姿を見せないと言われている種族だ。
「んっ、あなたたちは?」
エルフの視線が収納鞄に向いている。
それと同じくしてミーナたちの視線も少女の持つ鞄へと向けられる。
それで大体のことが理解できた。
この少女はムメイの知り合いであること。
そして、彼に助けられた同志であり、彼を狙う敵であることも。
ミーナはよそ行きの笑顔を見せたまま話しかける。
「私はミーナと申します。こちらは私の護衛を務めているリックとエレンです」
「そうか。私はエリューシア」
ミーナには興味がないのか、エリューシアはそのままムメイの側へと寄っていく。
「今日ももらいに来た」
「あっ、今ムメイさんは実験に集中していて反応をしてくれませんよ」
「好きなだけ持っていって下さいね」
「んっ、わかった」
なぜかムメイはエリューシアの言葉に反応を見せる。
それを聞き、ミーナは頬を膨らませていた。
「姫……、じゃなくてミーナ様。落ち着いて下さい」
エレンもやや動揺気味に言う。
「大丈夫です。私は落ち着いています。そもそもムメイ様は素晴らしいお方ですから、エルフの知り合いがいてもおかしくないですし、私たち以外にも知り合いがいることも不思議じゃないですけど……」
「私、エルフじゃなくてハイエルフ」
「っ!?」
一人屋敷へと向かっていこうとするエリューシアが去り際に呟く。
それがミーナの気持ちを更に刺激していた。
――ハイエルフってエルフの王族ですよね? そんな人がムメイ様と親しくして……。ま、まさかお二人は既にご婚約を……。
「できた!! リックさん、見て下さい。この鞘を。どうですか? すごくないですか?」
鞘が完成したことを無邪気に喜ぶムメイ。
その姿は年相応の少年である。
しかし、彼の頭には膨大な魔法の知識がある。
いったいどこでそんな知識を手に入れたのか……。
――いえ、そんなこと考えていても仕方ないですね。
「ムメイ様、先ほどハイエルフの方が来られてましたよ? もしかしてムメイ様の婚約者ですか?」
「えっ? 違いますよ。ただの知り合いですよ。でも、もうそんな時期だったんだ。ちょうど良いドラゴン肉もあるし、料理食べていくかな?」
「あ、あの……」
普段は王女という立場上、あまり長居して相手を困らせるのは控えていた。
しかし、婚約者ではないライバルがいるのなら話は変わってくる。
グッと拳を握りしめ、固い決心で告げる。
「私も今日は泊まっていっていいですか?」
色々とすっ飛ばした言葉だった。
言ったあとでミーナは恥ずかしくなり、すぐに撤回しようとするがムメイは笑顔で言う。
「もちろん構いませんよ。せっかく客室をたくさん作ったのに誰も泊まってくれなくてガッカリしてたんです。ミーナ様たちが泊まってくれるのなら歓迎しますよ」
いつもと変わらない表情で、嬉しそうにムメイは答えてくるのだった――。




