襲撃、ドラゴン戦
とある亡国跡地。
一夜にして滅ぼされた人々の恨みが土地を穢したと言われているが、実際は人の血が土地を汚染して作物を育たなくさせていた不浄の地。
これまで何度かこの地を支配しようといくつもの国が攻めてきたりもしていたが、人材や資金を掛けてまでこの地を治める価値がなかったのだ。
作物は育たず、魔物は強い。
更に謎の魔法現象すら起こる。
その結果、だんだんとここを支配しようという国はいなくなり、支配者のいない空白地となっていた。
しかし、亡国を襲った何者かは健在である。
他国も再び侵攻をしてくるかもしれない。
そんな彼らから身を守るために俺は力を付けなくてはいけなかった。
「うんうん、これは仕方ないこと。故郷を守るためには強さは必要だからな」
そう自分に言い聞かせて今日もひたすら魔法を極めていた。
もちろん全て建前でただ魔法の研究をしているのが楽しいからというのが一番の理由なのだが。
そもそも故郷といったところで、そんな記憶はほとんど残っていない。
「さて、今日は多重合成魔法を鍛えるかな」
意識を集中させると今発動している魔法を確認する。
屋敷を中心とした結界魔法と探知魔法。
いざという時に控えさせている防衛魔法。
その防衛魔法が尽きた時用の相手を叩き潰す殲滅魔法。
それらの数は辛うじて二桁に収まる程度の数だった。
おそらくミーナやエリューシアが見ると目を点にしてくるだろう。
常時それだけを控えさせながら、普通に魔法を使えているのが異常なのだ。
しかし、対象基準がいないことで、どれだけおかしいことなのかは俺自身気づいていなかった。
「百までは重ねることが出来たんだよな。でも、それ以上になるとどうしても魔力の損失が出てきて、思ったよりも威力が出ないんだよな」
「威力がでないってどのくらいなのですか?」
「せいぜい山がなくなる程度かな。込めた魔力的には山を池にするくらいはできると思ったんだけど……」
「気軽に地形を変えないで下さいよ……」
「そのくらい魔法は自由ってことだからね。さて、どこを弄るか……」
「ぜんぜん何をしているのかわからないですね」
「多重合成魔法はパズルみたいなものだからな。うまく隙間を見つけて、そこを強化していく作業になります」
「私にもできるでしょうか?」
「難しい技術じゃないからな。誰でもでき――」
さっきから俺は誰と話しているのだろう?
てっきり脳内の自分たちが魔法の検証に色んな意見を言ってくれているのかと思った。
集中していたらそういうことはよくあったから。
しかし、自分と言うには随分と可愛らしい声だった。
まるで少女のような……。
というか、聞き覚えのある声でもあった。
顔を上げるとそこには頬を膨らませたミーナがいた。
「やっと見てくれました」
「ミーナさん!? いつ来たんですか?」
「ムメイ様が山をぶっ飛ばそうとしていたところですよ」
「あ、あははっ……、ちゃんとあとから土で埋めますから元通りですよ……」
「元には戻っていませんよね……?」
「と、とにかく、今日はどうされたのですか?」
「そ、そうでした。ムメイ様、今日も遊んでいただけますか?」
ミーナがにっこりと微笑む。
その笑顔につられて俺は苦笑を浮かべる。
「構いませんよ。何をしますか?」
「私もその多重合成魔法っていうのをやってみたいです!」
「そうですね……」
いくつも魔法を同時に使うということは、それだけ魔力を必要とする。
更には魔法を並列で使うため、脳にも負担が掛かる。
だからこそ通常の人だとよくて二重魔法が限度である。
もちろん俺は脳内に複数の俺を作ることで、その問題を解決し、限界を超えた多重合成を可能としていたのだが。
「もちろん構いま――」
頷こうとしたその瞬間に、エレンが慌てて入ってくる。
「ムメイ様、ミーナ様。大変です」
「エレン、ムメイ様の前ですよ?」
「申し訳ありません。ですが、すぐにお伝えしなければと」
「……わかりました。ムメイ様、騒がしくして申し訳ありません。彼女のお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
何を慌てているのかはわからないが、ただ事でないということだけはわかる。
しかもその顔は青ざめている。
かなりの問題が起こっていることは容易に想像が付くのだ。
真剣な表情を見せるエレン。
そういえばいつも彼女と一緒に居るリックの姿が見えない。
「もちろん構いませんよ。どうされたのですか?」
「それが……、ドラゴンが現れました」
「ほ、本当ですか!?」
気配探知の距離を広げると確かにリックともう一つ、強大な魔力を感じることができる。
「それは一大事ですね」
「はいっ。ですからムメイ様にもお伝えしないとと思い……。今リックが足止めをしてくれていますが、それもいつまで持つか……」
エレンの言葉にミーナは青ざめて俺の腕を掴んでくる。
言いたいことはよくわかる。
俺も思わず震えてしまいそうだった。
「ムメイ様、急いで逃げないと」
「急いで倒しに行きましょう!」
「……えっ? 倒す?」
「はいっ、倒します」
「ま、ま、待って下さい。倒すってドラゴンですよ?」
「えぇ、ドラゴン。良いですよね。美味しくて、その上体の至る所が魔法具の素材になるんですよ。最近あまり出てくれなくて困っていたんです。そっか、やっと出てきてくれたんですね」
「えっ? えっ? あ、あの……」
「何してるんですか。早く行きますよ! ドラゴンって逃げ足が速いからすぐに捕まえないといなくなるんです」
「そ、そうじゃないんです。ムメイ様に危険が――」
「危険? あぁ、大丈夫ですよ」
俺はにっこりと微笑む。
「地形は変えなくても倒せるようになりましたから」
「えっと、そうじゃなくて、そうじゃなくて……」
「あぁ、時間がないですね。転移しますよ」
久々の高級素材を前に止まらなくなった俺は、まだ多数に掛けたことのない転移魔法で、ドラゴンのいる場所へと転移する。
ちょうど口を開けているドラゴンのその真上に。
「きゃぁぁぁ。た、食べられますぅぅぅ」
「姫様。私が身代わりに――」
「あんまり傷つけたくないし、これでいいかな」
青ざめながら落ちていく二人をよそに俺は水を凍らせた巨大な槍をドラゴンの口へと叩き込む。
あまりにも一瞬の出来事で、ドラゴンからしたら何が起こったのかわからなかっただろう。
槍で貫かれたドラゴン。
しかし、魔物の中でも最上位に位置しており、知能もあるドラゴン。
そんな相手がたかが氷の槍で倒せるはずもない。
ならばどうするか。
「倒れるまで出続けろ!!」
ひたすら口を目掛けて氷の槍を発射するのだった。
その結果、ドラゴンは倒れ、地に伏す。
空から落ちていた俺たちは風の魔法で空中に留まると、ゆっくりと降りていく。
「大丈夫ですか、リックさん」
「……ムメイのおかげで助かった。もし強化魔法を教わっていたなかったら、と思うと――」
「それはよかったです。希少な素材と食材を取り逃すところでしたもんね」
「そうそう。……へっ?」
「では、俺はあれを解体してきますので、少しだけ待っていて下さい」
困惑するリックをよそに、慣れた手つきでドラゴンを解体していく。
「えっと、ドラゴンが来て喜ぶ人、初めて見ました……」
そんな俺の姿を呆れ顔の三人が見守っていた。




