ハイエルフと料理
ハイエルフの少女は相変わらず黙々と魔法の練習をしたあと、帰っていく。
いまだに名前も聞けていない。
ただ、彼女からも俺のことを聞かれていないのは助かる。
今日も真面目に回復魔法の練習をして、日が暮れる前に帰っていく。
「これからご飯を作りますけど、いかがですか?」
「んっ、帰る」
「無理をせずに一日くらい休んでいってくれて良いのですよ?」
「――やることがある」
「なら仕方ありませんね。今日はシチューでも作ろうと思ったのですけど」
ここを訪れる人たちが色んなお土産を持ってきてくれるようになり、それなりに充実した暮らしを送っていた。
もちろん、まだまだ自活できないものはたくさんあり、人の好意に甘えているのだが。
そして、先日ミーナが来た際に乳製品をいくつか持ってきてくれたのだ。
せっかくなので久々にシチューを食べたくなり、作ろうと思った次第だった。
もちろん、下拵えはすでに魔法くんが勝手にやってくれてます。
便利だね、本当に。
もちろん、かなりの失敗の上に安定して作れるようになったのだが。
あとはじっくりコトコト煮込むだけ。
ただ、一人分だけ作るということはできず、どうしても数人分はできてしまうのだ。
久々とはいえ、何日もシチューが続くとなると飽きがくるだろう。
シチューの単語を聞くとハイエルフの少女はピクッと耳を動かしていた。
「さすがに一人で食べきれる量ではありませんので、よかったら一緒に食べてくれると嬉しいのですけど」
外へ出ようとしていた少女はそそくさと椅子に座る。
恥ずかしそうに顔を染め、俯きながら。
「――余らせるわけにもいかない」
「助かります」
少女には少し多めにシチューを入れると彼女は嬉しそうに必死に食べ、更にはおかわりまでしてくれる。
それが嬉しくてついつい、どんどんと色んな料理を出していき、気がつくとすっかり日が落ちてしまっていた。
◇ ◇ ◇
食後、お皿を洗っている(全部魔法くんが)と、少女は申し訳なさそうに言ってくる。
「……希少な食料なのにあれだけ食べてしまってすまない」
「気にしなくていいですよ。そのままだと余ってしまいましたからね」
「それに、これだけのことをしてもらってるのに、何も返せなくて……」
少女はバッグをギュッと握りしめていた。
このバッグを渡した際も、熱心にバッグの希少性を語っていた。
ただ、このバッグは失敗品だ。
いつかは重さを一切感じさせず、中の時間が止まるようなアイテムバッグを作ろうと目論んでいる。
しかも、彼女に実際に使い心地を確かめてもらっているのだ。
むしろ無償で手伝ってくれているので、とても助かっていた。
「気にしないでください。俺が食べていってくださいって言ったことですよ」
ただそれだけでは中々納得してくれない。
どうしてもどこか距離があるように感じられていたのだ。
せっかくこうして知り合えて、色々と協力してもらっているのだ。
もっと仲良くなれば、他のエルフたちや違う種族の人たちも調べることができるかも。
それにエルフは長寿の種族。
俺の知らない魔法を知っているかもしれない。
魔法のことを考えるともっと仲良くなっておきたかった。
そのことを考えて、俺は口を開く。
「でも、そうですね……。お礼というなら――」
「っ!! わ、私にできることなら何でも――」
「そんな何でもなんて言ったらダメですよ」
少女の唇に指を当てる。
そして、にっこりと微笑みかける。
「たまにこうして一緒にご飯を食べてくれませんか? やっぱり一人で食べるより複数で食べた方が美味しいですからね」
「っ!? いいのか、そんなことで。お前に言われたら私はこの体でも――」
「そんなこと言ったらダメですよ」
慌てた俺は改めて少女を見る。
「あと、もう一つ聞きたいことがあったんですよ」
「な、なんだ? 何でも聞いてくれ。でも、お前に教えられることなんて何も――」
「お名前、聞いてもいいですか?」
「…………」
身構えていた少女は思わず言葉を詰まらせる。
少し考え、顔を赤くして、忙しなく手を動かして、その上で俯いていた。
「……エリューシア。エリューシア・ユグドラシル」
「ありがとうございます。エリューシアさん。俺はムメイと言います。今更ですけど、よろしくお願いしますね」
「よ、よりょしく頼む」
思いっきり噛んで、顔を真っ赤にした上で、深呼吸をする。
そして――。
「――よろしく」
何事もなかったかのように手を出してくるのだった。
◇ ◇ ◇
無事に今更ながらお互いの名前を知ることができたので、満足しているとエリューシアが不思議そうに俺の手元を見てくる。
深い鍋にいくつかの魔法を付与しているものだ。
「……ところでさっきから何を作ってるの?」
「これですか? これはちょっとしたお土産ですよ?」
「なんかすごい数の魔法術式が組み込まれてるけど」
「あははっ、中々全自動化できなくて、まだまだ無駄が多いんですよね。数を増やしすぎると下手に作用し合っておかしな効果が出たりとかもしますし」
いくつかを消した上で、改めて魔法を発動させる。
無事に中からいくつかのパンが生み出されていた。
「無事できましたね。よかった……」
「――、ま、待て。なんだ、今の魔法は? 何もないところからパンが出てきた?」
「あははっ、さすがに無から有は作れませんよ」
実際に使っている魔法を実践してみせる。
「これは倉庫から空間魔法で材料を転移させて、そこから自動で料理をする魔法具ですね」
「な、なにがどう動いているのかぜんぜんわからない」
鍋をジッと見たあと、エリューシアは顔を近づけてくる。
「――教えて!」
「回復魔法も使いますので、そちらを覚えられたらですね」
「頑張る!」
それからパンも鞄に詰めてあげると途中まで彼女を見送ることに。
「泊まっていってくれてもよかったのですよ?」
既に日が沈み、明かりがほとんどないこの地は空に浮かぶ星々の明かりだけが頼りの漆黒と化していた。
もちろん、俺の周りには光の玉が勝手に浮かび、周囲を照らしてくれているが。
「――帰る。色々とやりたいことが更にできた」
「そうですか。何かあったら呼んでくださいね」
「っ!? だ、大丈夫」
そっと光の玉がエリューシアから離れる。
そのおかげで彼女の顔が赤く染まっていることに気付かなかった。




