お礼のお礼のお礼
それから色々とエルフについて教えてもらった際に彼女が実はハイエルフであることを教わったのだ。
それならエルフの魔力について色々と調べさせてもらうことになった。
彼女には何度か通ってもらうことになったのだが、金銀財宝を受け取ってもらえなかったからか、今度は希少な素材である世界樹の葉や枝、雫などを持ってきたのだ。
「これ、お母様たちから――」
「い、いや、俺はもうお礼は受け取って……」
希少な素材を前にして俺の心は動いていた。
ただ、すでにお礼はもらっているのだ。
しかし、希少で魔法具にも使える素材。
でも、もうお礼はもらっている……。
散々思い悩んだ結果、妥協案を申し出る。
「そ、その、この素材のお礼に欲しいものはありますか……?」
「そ、それなら回復魔法を教えて欲しい」
少女は満面の笑みを浮かべながら言う。
対価となるものを渡せることに安心した俺はにっこり頷く。
「もちろん構いませんよ」
「――感謝する」
こうして、ハイエルフの少女に回復魔法を教えるようになったのだ。
ただ、彼女が訪れる度に素材を持ってくるので、お礼に渡すものに困り、苦し紛れで渡した全自動の農作物が意外と喜ばれたので、それ以降は農作物と交換になったのだ。
もちろんもらった素材からできた魔法具は彼女にも渡している。
収納鞄も空間を広げただけのものだったが、更に重力魔法を付与することができたのだ。
おかげで入れたものの重さが感じにくくなった。
残念ながら全くないということはなく、入れれば入れるほど重たくはなるが、だいたい十分の一から百分の一程度になっていた。
このあたりは一人より体感に差があるのだが、それはどうやら持ち主の魔力量に比例するようなのだ。
ハイエルフの少女は比較的魔力量は多いので、大量の作物を入れたとしてもそれほど重さを感じないのだろう。
こうして、対等の立場でのやり取りをしていると思っていたのだが、いつしか彼女から「ししょー」と呼ばれるようになっていたのだ。
◇◇◇
すでに何度も来ているからか、勝手知ったるもので自分で素材を研究所に入れてから、農作物を鞄にしまってくれる。
わざわざ相手にする必要もなく、その間俺は魔法の研究をしていた。
無言で黙々と作業をする。
ハイエルフの少女は農作物を入れ終わると声をかけてくれる。
「入れ終わった」
「お疲れ様です。それで今日はどうしますか?」
「んっ、やる。今日こそ覚える」
「わかりました。でも、無理しないで下さいね。回復魔法はどうしても体のつくりを知らないと効果は弱くなってしまいますし」
「……んっ、大丈夫。教わったことは全て覚えた」
「それは凄いですね――」
魔法は想像の力である。
だからこそ現象が起こる理由をしっかりと理解することで、より強力な魔法を使うことができるのだ。
転生者であるが故に人体構造についても学んでいた俺は比較的楽に回復魔法を使うことができる。
しかし、この世界の住人である彼女は違うのだ。
本来ならそこまでやらなくても魔法自体は使える。
ただ、魔法を極めることを考えるのなら、知識は切っても切れないのだ。
だからこそ、まずは彼女に人の体について教えたのだ。
「……当然。里のみんなの命が掛かってる」
「――まだ治ってないのですか?」
すでに薬のお礼をもらっている以上、心配になる。
すると、少女は首を横に振る。
「今は大丈夫。次はししょーの力を借りなくてもなんとかする」
「そうですね。俺はこの場から離れられませんからね」
「んっ、ししょーならいつでも歓迎するのに」
「あははっ、いずれ行ける日が来るといいですね」
「んっ、約束」
本来エルフは排他的種族なのだが、なぜか俺は里に入る許可をもらっていた。
一緒に来ないかという誘いも何度も受けている。
普通だと考えられない待遇だ。
確かに身を隠すなら絶好の場所かもしれない。
それでも他人を気にしながらだと思うように魔法を使えない恐れがあった。
なにせ本来人は立ち入れない場所なのだから。
それなら多少危険でも自由に魔法の研究が出来る方が良かったのだ。
それを少女に伝えると、少し拗ねられて、そっぽ向かれてしまったのだった――。
◇ ◆ ◇
ハイエルフとは、エルフよりも更に高貴な存在で、主に彼らをまとめ上げる女王の系譜と言われている。
そんなハイエルフの少女、エリューシアは次代の女王と言われている少女である。
ハイエルフらしい高い魔力と、圧倒的センスで魔法の腕に関しては誰にも負けるつもりはなかった。
しかし、それもエルフの里を襲った致命的な病によって打ち砕かれてしまう。
彼女が知りうる、つまりはエルフが今まで集めてきた知識ですらわからない原因不明の病気。それに有効手段を見いだすことができなかったのだ。
次々に倒れていくエルフたち。
その魔の手はハイエルフにも襲いかかってくる。
「エリューシア……、あなたは逃げなさい……。エルフを途絶えさせてはだめ……」
「お、お母様……。死んだらダメ……」
「早く行きなさい……。あなたは無事に……」
泣きたくなるのを我慢して、エリューシアは走った。
どこに行けばいいのかわからずにとにかく、目的もなく走り続けた。
――誰かお母様たちを助けて。
心の叫びだったが、頭では理解していた。
エルフでも治せない病気を他の誰が治せるのか、と。
それでも動かざるを得なかった。
そして、誰かの屋敷の前で倒れた。
エリューシアも病気に掛かっていたのだ。
助からないのか、と思うと自然と心穏やかになる。
自分も皆のところに、世界樹に還ることができる……と。
しかし、結果からいうとエリューシアは世界樹に還ることはできなかった。
幼き大賢者によって救われてしまったのだ。
いや、それだけではない。
里のみんなもこの少年に助けられたのだ。
その結果、全員無事に里で再会することができたのだ。
――エルフは受けた恩を忘れない。一生を掛けても返しきれない恩。私のこの命が尽きるまでこの大賢者様と共に。
エリューシアは未来の自分を想像して、顔を赤く染め必死に首を振っていた。
――とにかく今は少しでも大賢者様に近づかないと。
だからこそエリューシアは少しでも少年と一緒にいようと色んな貢ぎ物をしたのだ。
しかし、彼は誠実に金品は返してきてしまう。
そこで思いついたのは、いくらでも取れるが外では希少な素材だった。
すごく食いつかれ、魔法を教えてもらうだけではなく、定期的に訪ねる理由までくれたのだ。
しかも、伝説級の魔法具をいくつもくれていた。
エルフであるはずの里のみんなが驚くほどの魔法具に、エリューシアはどこか誇らしげだった。
彼を紹介して欲しいというエルフたちの要求を跳ね除け、今日も一人で彼の下へと向かう。
それはまるで通い妻のような――。
「これってもう恋人みたいなものだよね」
エリューシアは一人顔を染めていた。
もちろん全くの勘違いであることは気づかずに。




