王女ミーナ
魔法の楽しさを教えた後、暗くなってきたので少女を町まで送っていった。
俺はあまり人前に出ない方がいいと思っていたので、少女が無事に帰れる範囲までだが。
「ありがとうございます。おかげで私、魔法を使えるようになりました。これで自分の身も守れるようになります」
「大げさですね。まだ魔法の道へ入ったばかりですよ。もっと研鑽してより高みへ向かいましょう」
「はいっ!!」
嬉しそうに俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれる少女。
いつまでも手を振っていそうだったので、さっさと転移をして元の場所へと戻ることにする。
もちろん、今度は失敗しないように念入りに座標を確認して、転移をする。
彼女が俺に出来た初めての自称弟子で、ここから勝手に弟子を名乗る人間が増えていくのだが、そのことを知るのはもう少し先の出来事だった。
◇ ◇ ◇
ミーナが来てから、度々人が訪れるようになった亡国跡地には立派な屋敷が建っていた。
もちろん俺が建てたものだ。
いや、ゴーレムくんや精霊くんが協力して一晩で建ててくれたものだった。
どうしてこんな立派な建物を建てたのかというと――。
「ムメイ様、今日も魔法を……じゃなかった。遊びに来ましたよ」
なぜかあのとき魔法を教えたミーナはそのあとも度々遊びにきていたのだ。
二度目に来た時に晴れて自己紹介をして、互いの名前を知るにいたったのだ。
しかもミーナだけではなく、ここを訪れる人はどんどんと増えている。
――どこの誰が教えたのか……。
しかし、ここは何もない地。
せめて休める場所くらいは作らないとと大きくした結果が今の屋敷だった。
絶賛拡大中。特に魔法の研究室はいくら広げてもすぐに物がいっぱいになるという呪いがかけられていた。
本当に不思議だ。
失敗した魔法具を適当に研究室へ放り込んだあと、ミーナの下へと向かう。
俺の顔を見た瞬間に笑顔になるミーナ。
そのまま腕にしがみついて来る。
その際に膨らみだした女性特有の柔らかさが……。
意識をしないように平静を装う。
無邪気な彼女はまだそんなことを意識していないだろうから。
俺は視線を彼女の後ろにいる二人組の男女に向ける。
「リックさんとエレンさんもようこそ」
「あぁ、たびたびすまない」
「今日もよろしく頼みますね」
彼らは二回目以降、ミーナの護衛として来ていた。
ミーナ同様、魔法に興味があるようで、熱心に俺の話を聞いてくれる人たちだ。
聞くところによるとそれなりに高い実力をしているらしい。
――そんな人を護衛につけられるなんて、ミーナってそれなりに高貴な身分なのか?
確かに衣装はそれなりに高そうなものを着ている。
しかし、この世界の基準がよくわからない俺は、そこで考えるのをやめていた。
あまり身分のことは聞かれたくない人もいるだろうし、面倒ごとを抱えている人もいる。
そんなものに邪魔されて俺も研究を妨害されたくなかったし、そもそも俺自身も身分を聞かれたら困る人間でもあるからな。
「構いませんよ。何をやりますか?」
ミーナは考えている素振りを見せるが、答えはいつも同じだった。
「ムメイ様、今日も魔法を教えてくれますか?」
にっこり微笑むミーナ。
ただ魔法が遊びになるのかは疑問だ。
俺からしたら確かに遊びのようなものだし、俺以上にこの世界の知識があるはずのミーナが言ってるのだから、案外子供の遊びになるのかもしれない。
「もちろん構いませんよ。なにをやりますか?」
「ムメイ様が使っていた転移魔法、あれって私も使えないのですか?」
「うーん、どうでしょうね?」
転移魔法は完成させるまで中々大変だった。
特に必要な魔力量は多く、座標計算もかなり細かくやらないといけない。
まだまだ魔法式を短縮することができない魔法の一つだ。
「ダメ……でしょうか?」
「教えるのはもちろん構いませんよ。でも、すぐできるものではないですが、それでもいいですか?」
「はいっ! ありがとうございます」
ミーナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
それにつられて俺も思わず笑顔になっていた。
「それって我々も見せてもらってもいいのでしょうか? そんな伝説上の魔法を……」
エレンさんが心配そうに聞いてくる。
おそらくは俺やミーナより一回りは年上の彼女は、どちらかといえば真面目だった。
最初にあったときは俺がミーナに魔法を教えていることを不思議に思い、何か裏があるのでは、と詰めてきたのも彼女だった。
うっかり魔法で撃退してしまい、更には誤解を解いた後は彼女も暇があればミーナと共に魔法で遊んでいる。
ただ、転移魔法はやはりそれなりにすごい魔法らしい。
中々扱えないという点では納得できる。
でも、別に隠すようなことでもない。
なにしろ魔法を使用した際に浮かび上がる魔法式を読み解けば、誰でも魔法の詳細を知ることができるのだ。
人前で使わないのであれば機密にもなるのだろうけど、便利な魔法なので俺はよく使っている。
今更機密もなにもなかった。
「もちろん構いませんよ。リックさんはどうしますか?」
「俺はまだ身体強化をマスターできてないからな」
「なにか難しいところがありましたか?」
実際にリックが強化魔法を使ってくれる。
「なんか思ったように強化出来ていないんだが――」
「あーっ、確かにそうですね。ちょっと、余計な力が掛かっているのかな。魔力、もう少し押さえてくれますか?」
「魔力を押さえる?」
リックは不思議そうに聞き返してくる。
「はいっ。強化魔法も上げられる限度があるんですよ。大体身体能力を1.1倍するくらいかな? それを超えると逆に余剰魔力になってしまって、強化具合が悪くなるんですよね。だから――」
俺はリックに触れると余剰となっている魔力を吸い取る。
すると、最大倍率の身体強化が可能となっていた。
「その魔力量を体で覚えて下さい。自然とできるようになれば次へ進めますから」
「強化魔法にも次があるのか?」
「もちろんですよ。魔法は無限ですから。一回の魔法で強化の限界があるなら複数の魔法でそれを突破することも出来るんです」
「そ、それって今の俺には――」
「――まずは身体強化をマスターしないと危険ですね」
「……わかった」
「ムメイ様、私にも教えて下さい」
「わかりました。ではリックさん、頑張って下さいね」
にっこり微笑むとミーナに魔法の解説をする。
亡国の王子という下手に人前に出られない立場に転生してしまったが、こうして親しい友達と魔法の研究を出来るのが嬉しくて、俺は毎日を楽しんでいたのだった――。
◇ ◆ ◇
残念ながら一度教わっただけでは転移魔法を覚えられなかったミーナたちは今日も歩いて帰っていた。
「本当にムメイ様は凄いですね。何でも知っていますし」
「ミーナ様、まだムメイ様に頼まないのですか? 王国専任の筆頭魔法師になってほしいと」
「――もし断られたら、と思うと中々言えないのですよ」
「確かにあの魔法の知識は捨てがたいな。他国に渡られたら驚異だ」
「そのときは王女付き親衛隊長であるあなたが頑張って下さいよ」
「それを言うなら、神聖騎士長と言われているお前だろ?」
「ミーナ様にも及ばないのに恥ずかしいだけですよ」
「わ、私はムメイ様に教わるのが早かっただけですよ。お二人とあっという間に私を追い越しますよ……」
ミーナは恥ずかしそうに手を弄んでいた。
「つまり一番弟子ということですね」
「そ、そうですね。わ、私が一番……です」
「あははっ、それにしてもあの方に色々と教えてもらえているだけでもありがたい環境だよな。全ては姫様のおかげだ」
「もう、ムメイ様の前でその呼び方はなしですよ。あまり権力に興味を持たれている方ではないのですから――」
「あははっ、わかってるよ。それにしても姫様、顔が真っ赤だぞ」
ミーナはからかわれながら、次はいつ会えるのかと想像を膨らませるのだった――。




