魔法の訓練
早速転移魔法の練習を始めると、うまく成功しそうにはなったのだが……。
「わわっ、コントロールが効かない……」
見ず知らずの場所に飛ばされたと思ったら、何か硬いものにぶつかる。
幸いなことに日頃から突然襲撃されたときのことを考えて鉄よりも固くなる強化魔法を使用している。
そのおかげでダメージはなかったのだが……。
転移先にいた巨大なものは突然鉄の塊にぶつかったようなもので、その一撃で意識を奪われていた。
「あっ、また座標を間違えた……」
問題点を洗い出してみると致命的な欠点を発見する。
「うーん、いちいち座標を魔法に組み込むのも面倒だな。もっと簡略化できないか」
「あ、あの……」
「そもそも簡略化の前にまずは成功させないと。もう一度試してみるか」
「き、聞こえてますか?」
なにやら隣から声が聞こえる。
ゆっくりと視線を向けるとそこには人がいた。
この世界で初めて面と向かい合う女性。
薄金色の長い髪をした女性。
白いマントに身を包み、顔立ちも整っている。
歳は今の俺と同じか少し上といったところだろう。
どうしてこんなところにいるのか、不思議で仕方ない。
しかし、大きな問題が一つあった。それは――。
「ひ、人っ!? ど、どうしてここに!? 気配はしなかったはず……、って転移したんだから直前の気配は関係なかったんだった!!」
転移魔法の致命的な欠陥その二に気付いてしまった俺は、その場にしゃがみ込み、側に転がっていたやたら豪華な装飾の付いた棒で文字を書き始めた。
「転移先の座標固定は当然として、先にその座標の気配を探るには、遠隔に魔法を飛ばす必要がある。でも、距離が離れれば離れるほど、誤差が出てしまうし……」
「えっと、わ、私、見えてますよね?」
「悪い。ちょっとそこ邪魔だから」
「あっ、はい。すみません」
地面一杯に文字を書き尽くした結果、いっそ転移先に空間を繋いだ際に探知魔法を先に送り、気配を探るという技に気付く。
使用魔力量の心配が出てくるものの、魔力がなくなったことはないのだから、気にする必要もないだろう。
ようやく満足のいく結果ができて安心すると、側で見たこともない女性が眠っていた。
薄金色の長い髪をした……。
「って、そうだった。人がいたんだった。ど、どうしよう、か、隠れないと!?」
亡国の王子であることがバレてしまうと命を狙われるかもしれない。
慌てて逃げようとすると、少女が欠伸をかみ殺して目を醒ます。
そして、俺と目があってしまう。
「お、俺はこれで――」
「ま、待って下さい!」
少女に手を掴まれる。
簡単に振りほどけそうな細い手。
でも、逆に壊れてしまいそうでそれをするのは憚られてしまう。
「な、なんでしょうか?」
「あの、助けていただいてありがとうございます」
「そ、それはよかったですね。では俺はこれで――」
「待って下さい!」
用事も終わったことだから逃げようとしたのだが、再び掴まれてしまう。
「ま、まだなにか?」
「そ、その、これって一体何なのですか?」
少女が指差していたのは先ほど地面に書いていた魔法式だった。
別にこの世界では魔法は誰でも使えるもの。
僅かばかりに残っている記憶が教えてくれたことだ。
おそらくはこの少女も魔法に興味があるのだろう。
可愛らしい少女に褒めてもらいたい。
そんなちょっとした承認欲求から俺は地面に書いてある魔法の説明を始めるのだった。
「まずは魔法を放つ上で最も大切な威力、座標、種類。これを魔力に与えるための方法で、今回考えていたのは別座標に先行して魔法を飛ばす方法なんですよ」
「えっ? えっ? ちょ、ちょっと待って下さい」
困惑気味の少女。
ちょっと早口で捲し立ててしまったかもしれない。
ついつい好きな事は流暢になってしまうから注意しないと……。
「魔法ってそんなに色々とできることなんですか?」
「もちろんですよ。魔法には無限の可能性が秘められてますから。例えば誰でも使えるこの火の玉……」
手のひらに小さな火の玉を浮かび上がらせる。
ただ、少女は驚いた様子だった。
「だ、誰でもできませんよ!? そんなに簡単に魔法が使えるのですか?」
「えっと、使えるはずですけど?」
「そ、そんなことありませんよ!? 私はまだ魔法が使えなくて――」
「そんなことは……。ちょっと失礼しますね」
「えっ? ひゃっ」
少女の手を握ると魔力を探ってみる。
体内でしっかりと魔力は動いているようなので、間違いなく魔法は使えるはずだった。
「大丈夫ですよ。ちゃんと使えます。そうですね、今魔力を流してみますね。まずそれを感じるところから始めましょう」
「ま、待って下さ――」
早速少女にゆっくりと魔力を流す。
自由に魔力を動かすことができれば、魔法を使うのなんて簡単にできるはず。
もちろんそこから先は永遠に探求なのだが。
一人でも多くこの魔力探求の楽しさを知ってもらえたら……。
「あっ、な、なにか流れてきました」
「それが魔力ですよ。体内にも似たものがありませんか?」
「んっと、あっ、ありました!」
「では、それを体の外へと出す意識をしてください」
「体の外、外……」
ジワジワと動かせているものの体外へ出すのは苦労している様子だった。
「中々できないです……」
「例えば口から息をしてますよね? それと同じように魔力も出せて当然だと考えるんですよ。魔法式とかもありますが、基本的に魔法は想像から生み出されるものなので」
「わ、わかりました。やってみます!」
少女は必死に目を瞑って唸っていた。
すると、小さな丸い玉が少女の手から浮かび上がる。
「で、出た……」
「上手くできましたね。それが魔法の元となる魔力です」
「ほ、本当にできた……。わ、私にも魔法が……」
少女は目から一筋の涙が流れる。
「違いますよ。まだこれは魔力。魔法はこれからですよ!」
「はいっ! わ、私、頑張ります!」
少女はやる気を見せていた。
あまりにも素直に話を聞いてくれるものだから、そのあともしばらく付き合い、結果的に少女が魔法を使えるようになるまで特訓していたのだった。
彼女が誰なのか聞くことなく――。




