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8・母さんの誘拐◆(サヴェルノ襲来)・冒険者ギルドの人◇

   ◆◆◆


母さんが攫われた。

サヴェルノとかいうおかしな人が、幼虫と引き換えに母さんを預かると言い出したらしい。

父さんは酷く困っている。

早くモンスターなど手放して母さんを返してもらうように言いたかったが、今ではもう家族の一員だ、なんて、父さんはあのモンスターをひどく気に入っているのだ。


先方が提示する条件をクリアできるなら母さんも返してやるとか、なんのだかわからない血液を餌にするように渡された父さんは、虫にそれをそのまま与えた。


与えたが、あいつがそれを飲むことはなかった。

全く見向きもしない。どころか、ちょっと避けたりしている。

なにも飲まず食わずのくせに、わがままなやつだと思った。母さんが大変なのに!

子供の俺じゃどうしようもできず、じりじりと過ぎていく時間に悔しさだけが募っていく。


どうやっても先方の希望は叶えられない。もうどうにもできないと諦めた父さんが、虫を連れて行った。

やっと手放すんだ。俺は喜んだが、連れて行く父さんの悲しそうな顔を思い出すと、感じなくてもいいはずの罪悪感がくすぶった。



それからの父さんは、ずっと、落ち込んでいる。

サヴェルノが幼虫に無体を働くだろうと言って、やはり自分で無理にでも血を飲ませていた方が良かったのじゃないかと後悔していた。

母さんはなぜか謝っていた。母さんは何も悪くないのに。


あんな奴、そもそも居なかった方が良かったんだ。

むしろ居なくなって良かった。これでもう父さんが大変になることもない。



そう思ったのに。何日も経って、俺はすっかりモンスターのことなど忘れていたのに、サヴェルノからモンスターが家に返却されてきた。


父さんは喜んだ。喜んだけど、すっかり干からびたみたいになったモンスターを見て、悲しんだ。

ごめんね、ごめんねって誤りながら泣いていた。父さんが悪いわけじゃないのに……。


父さんはあいつを優しく抱き上げて、その夜は一緒に眠るようだった。

母さんも一緒で、たまには俺も一緒に寝ようと言われたけど、虫と一緒が癪過ぎて、俺は拒否した。

悔しい。全部そいつが悪いのに。


   ◇◇◇


珍しく、この世界で私でも見た覚えのある人が私を眺めに来ていた。

ご主人が私を拾った時に一緒に居た女の人だ。

私のその後の様子を見に来たっぽい。

反応的に、あの時よりも大きく育った驚きと、安全性の確認といったところだろうか。

私は愛想よく、かわいく体をうねらせた。可愛気は私の必殺技だ。彼女は顔をしかめた。


そういえば、ご主人は何をしている人なのだろう?

これまで自分の生活にしか興味がなかったので、気にしたことがなかった。

出会った時は冒険者のようなことをしているのだと思っていたが、ご主人は温和そうで、戦いと縁がありそうには見えない。私の面倒もよく見てくれるし、そんなに長期で外出することもあまりない。

私というモンスターの飼育はしているが、他に飼育している様子なんかはない。

雰囲気だけなら研究者なんだけど。今はあまりにも良い糸が手に入るから、売って生計立ててるとか?

あ、でも時々色まみれになっていることもあったような……絵描きとか、染色系?


……一人で考えててもよくわからないな。

言葉も読めないし、人の言葉を聞いてもわからない。

基本的には住処の水槽からは出ようとしない出不精だし、何一つ、私にはわからないことだらけだ。

しかし、最近は意識して言葉を学べないか耳を澄ましていたりする。

努力を出来る私は偉い!


沢山のちっちゃい足(自分比)でぺちぺちと水槽のガラスを叩き、彼女にアピールする。

彼女は驚いて何か喋る。ふむふむ、驚いた時の言葉はそれ……と。

最近の私は向上心の塊であり、こうして積極的にボディランゲージも行っている。

理解する! 私はこの世界を、言葉を、彼らを理解するのだ!

坊っちゃんがもっと子供だったなら、もしかしたら一緒に言葉を学んだりもできたのだろうか、なんてことを夢想することもある。でも彼はもう多分十歳くらいで、言葉を一から学ぶような年齢ではない。

私は一人で頑張って言葉を学ぶしかない。ちょっと寂しい。


ご主人のお仲間の彼女は、訪問もそこそこで帰っていった。

私が無害で安全で賢く可愛いと理解してくれただろうか?


あまりにも良いアピールをしてしまったら、またご主人以外の人間に狙われてしまったりするだろうか? 不安が頭をもたげ始めた。

私はわりとこうして悪い方悪い方へと考えてしまうクセがある。これまであのヤバい男以外では別にそんなこともなかったので、杞憂だとは思うが。

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