40・告白◇
坊ちゃんは、私の作るお人形や糸でお店を開けないかと画策しているようだった。
お店か~。お店だったら、私も時々は坊ちゃんを手伝えるだろうか? それでやっていけるのかはわからないが、楽しそうなプランではある。
坊ちゃんは毎日色々と忙しそうにしている。忙しそうにしていても、なるべく一緒にお出かけ散歩するのが習慣になっている。おかげで街の人ともだいぶ仲良くなった。街の人も私の作ったものを喜んでくれて、反応はいい。
それ以外は私は変わらず黙々と、気ままに糸遊びをしてばかりである。
最近はギルドからさらに坊ちゃんを経由して販売先からのリクエストで、どうこういう糸が欲しいという注文が入ることもあった。
順調である。私のモンスター生超順調。
私はこの家に帰ってきてから、結局水槽のあった一角に、自分のふわふわ糸と繭に使ったような硬い糸とをかけ合わせた卵型ベッドに丸まって寝ていた。
そろそろ私のお部屋作ろうか~? みたいな空気が漂っていたある日、坊ちゃんが居住まいを正して、お話しをしに来た。
坊ちゃん、家を出たいらしい。
お店と合体したタイプの家で、良い感じの所を見つけたと言っていた。
坊ちゃんもとうとう独り立ちか~。寂しくなるな。
「……ココに、一緒に着いてきて欲しいんだけど。」
坊ちゃんが私を連れて行きたいとか言ってる。……なんで?
私を拾った飼い主は、一応パパンなんですけども。
「なんでって、心配だから。
長く世話をしてたのは俺だし、俺は冒険者ギルドとつながりがあるから、俺の所に居る方が、ココも安心だと思うし……。」
それは誘拐されないか的なことすか。
う~~~~ん……兄弟みたいに育ったから、離れがたいという気持ちはわかるのだけども、それはまたかなり人間の女の子が遠のくぞ坊ちゃん。
「お前さ、変わったよな。」
それは坊ちゃんもでは~? 前と一緒のようでいて、時々普通の女の子みたいに扱ってくる時があるから、どきどきするんですよ、すごく。今はほぼ人の形してますし、人扱いされてるのは嬉しいんだけど……。
「昔はあんなに遠慮なくぐいぐい来てたのに、我慢するようになっただろう。
俺のこと、嫌になった?」
悲しそうな顔をしている。
「……あたしぁ、モースはぁ……女の子ぉ、探すするの、する欲しぃ……。
ぁたし居るの、女の子、逃げちゃう……ょ。」
「俺、女の子は要らない。ココがいれば良いんだ。」
坊ちゃんが!!!! 人生諦めちゃった!!!!!
私は衝撃を受けた。
色々あって最初の彼女と上手く行かなかった坊ちゃんが、一回の失敗で自暴自棄になっている!
私は慌てた。
「ぁ諦め! 良くないない…! モース、これから、いぱぁい! 人生……。
えぇぇと……、一回、失敗、」
「いや、そういうのじゃなくてさ、……なんて言ったら伝わるかな……。」
なんか困っている。なんだまたどっかで会話の齟齬が発生しているか? 私の言語能力はもはや歴戦の猛者から勇者レベルになっていると思うのだが。
「他の女の子じゃなくて、ココじゃなきゃ嫌なんだよ。
お前とずっと一緒に居たいの。」
…………あん?
私は急速に思考を冷却し、冷静になって両手を組んで顔の下半分を隠すように持ってくる。勿論肘は机の上だ。
「俺、お前が好きだよ。誰よりも好きだ。一生一緒にいたい。
俺がココを守りたい。
他の誰かよりも、ずっと俺の側に居て欲しいし、大事にしたい。」
も、モースが!! モンスター趣味になってしまった!!! どうしよう!
…………え? 今なんて言った? 好きって言った? ……わたしのことを?
「あ……だ……ぁめ、ひと、ひとはぁ……ひととで、ないぃ……と……。」
「どうして?」
間髪入れずに聞いてくる。
どうして? どうしてって、そりゃあ……そりゃあ…………?
「…………こどもぉ……とぉか?」
「大丈夫。人同士でも子供ができるとは限らないんだから。父さん母さんはわかってくれるよ。」
「いぁ……えぇぇえと…………。」
坊ちゃん私のことそういう意味で好きなんだって! 嬉しいね! モンスターですけど!? いや絶対大変なことなるって! 私は良いモンスターなんだけども!
「違う。ココが子供を欲しいのか……。やっぱりそういう欲求が?
同じ種が目の前に現れたら……ココは、そいつの…………」
モースの目が、顔がどんどん暗く、苦渋の表情になっていく。
「ち、ちが! それ、ないない!!」
慌てて訂正すると、ほっとして表情が和らぐ。
今坊ちゃん想定だけで死にそうな顔してませんでした? 怖いよ。
「あぁし……モース、えぇと、ぁ、あたし……えぇとぉ」
おろおろしてしまう。感情が爆発しそうだ。
「……俺の気持ち、ゆっくりでいいから……考えてくれると、嬉しい。
その、もし………………俺が嫌になるようだったら、今後のことはギルドの友達……前にお前も良いって言ってた奴…………そいつに頼むし、どっちにしろ家は出るから。」
安心して。
頭を軽く撫でて、モースは出ていった。
爆発しそう!!
感情を爆発させる代わりに、私はその夜、糸を生産しまくった。




