39・逆の立場◇
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ギルドへ行った夜、坊ちゃんはぐずった。
ぐずったというか、幼い子供みたいになった。これまでずっと甘えたな私の面倒をみてくれる側だったので、甘えてくるのは珍しい。
どうやら私が牢屋で気ままに歌ったりしていたのが気になったとか。
知らない妹の一面を他人が訳知り顔で話すのが気に食わなかったんだろう。
歌って欲しいとねだられた。
えぇ……下手だし、皆の前で歌うとか恥ずかしいからやだ……って言ったらじゃあ俺だけ聞くからって部屋に連れ込まれた。そこまでして聞きたいんかい。
本当に、本当に別に上手くないっていうか、人に聞かせられるような歌声では別にないんですよ。
坊ちゃんは真剣な表情で、でもちょっと口を尖らせて不満げに見てくる。
俺はずっとお前の面倒を見てきたのに、お前は俺のちょっとした希望も聞いてはくれないのかと、言葉にせずとも表情で滅茶苦茶圧を掛けて伝えてくる。
しょうがないなあ……坊ちゃんには特別に、常に好物を調達してきてくれるお礼として、そこまで聞きたいと言うなら歌いましょうとも。聞き苦しかったら途中で止めてっていうか、文句は受け付けませんからね! それよりその、そのすごい真剣な表情でじっと見られてると私もすっごい歌いづらくってぇ……。いや、大丈夫じゃないから。坊ちゃんは平気でも私が大丈夫じゃないから。恥ずか死させる気か坊ちゃんは。
さすがにそこは坊ちゃんも譲歩して、顔の見えない姿勢になることで我慢してもらった。私は丸まって、こてんと坊ちゃんに背中を預ける。
ここに坊ちゃんは居ないここに坊ちゃんは居ないここに坊ちゃんは居ない……唱えることで暗示をかける。なんなら翅で自分を隠すようにしておく。ここまですればまだマシだろう。
自発的なものなら、背中の翅が誰かに触れるのは平気。意思を持って触られてる感じがすると本能的にヤバさを感じてゾワッとするけど。
最初は遠慮がちに、なるべく上手に聞こえるようにと思いながら。しかし緊張で声は裏返るし、震えるしで、羞恥心が…っ! やばい。
そもそも牢屋の時なんかだって別に人に聞かせるために歌ってたわけじゃないのに、こうして改めて披露させられると体ごとぷるぷるし始めたくもなる。
坊ちゃんが、遠慮がちに腕を回してきた。安心させるみたいに。
坊ちゃんあったかい……こうしてると、ちょっと、幼体の時に一緒に寝てた頃のような感覚を思い出して、眠くなる。
だんだんむにゃむにゃしながら歌って、気付けば朝には居間のお手製ベッドで寝ていた。坊ちゃんはわりと満足したいみたいで、機嫌が良かった。
また歌って欲しいとか言うから、じゃあ坊ちゃんも一緒に歌ってくれるなら良いよって返してみた。坊ちゃんは全然歌ってくれるらしい。まあ昔から子守唄とか歌ってくれてたしな……。自分が他人に聞かせるのは恥ずかしいけど、坊ちゃんの子守唄以外の歌も聞きたい。う、うぬぬ……坊ちゃんめ。
ママンとパパンがあらあら楽しそう、私達にもそのうち聞かせてほしいね~って、微笑ましい目で見てくる。難易度上がったんだけど!!!
次の日、坊ちゃんは私の名前をココルーチェと名付けた。なんかシャレオツな名前に聞こえる。まあまんじゅうよりだいぶ可憐な名前になったと思う。
……可愛い名前で、ちょっと照れる。
坊ちゃんはココって呼ぶことにしたらしい。……まずは、呼ばれ慣れないとだ。
正直言うとすでに一生、道端でまんじゅうって単語を聞いたら反応するんじゃないかと思う程度には染み付いてしまってもいるので……。




