35・我が家◇
家に帰ると言っても、私が住んでいた水槽に私はもう入らない。入ってもみちみちである。
浮上するのは部屋問題。部屋自体はあるが、物置になってたりですぐ使える感じではない。水槽も置いてあったわけだし、しばらくは居間住まいでもさせてもらおうか……。
ママンはなんだかノリノリで、偉い人にも御用達みたいになってた私の糸の利益を見込んで増築しちゃいましょうか? とか言ってる。ママンのノリはもはや新しい娘ができて嬉しがってる人である。
この姿になって一番私をモンスターとして認識しなくなったのは多分ママンだと思う。幼虫だった頃と態度が違いすぎる。いや嬉しいけど。
ちなみにご主人もといパパンも、柔和で優しさあふれる笑顔で受け入れてくれている。さすが私を最初に拾ってくれた人ですよ。
坊っちゃんが、俺のベッドでも使うかと聞いてきた。え、一緒にですか?
たしかに坊っちゃんは成長期が終わってかなりガタイがよくなったので、ベッドも結構大きいものを使っている。幼体の私が入ってくる前提の余裕ある大きさにしてあるし、多分今の私が入っても大丈夫なくらいはある……が。
前はよく一緒に寝たしとかなんとか。さすがにパパンとママンがすごい顔して見てるよ大丈夫? 私もそれは大丈夫じゃないと思う。
丁重にお断りしておいた。坊っちゃんにはデリカシーってものがないのか?
前に牢屋で遠ざけてから、坊っちゃんは少し変わったと思う事が増えた。
これは人型になってからも薄っすら感じることなのだが、なにやら過保護になったと言うか……坊ちゃん―! って言う昔のわんこ対応を求められてる気が、うっすら。
私自身も己の外見を鑑みなるべく控えてた所あるし、これは今まであんなにベタベタ甘えてきてた可愛い妹が急に塩対応になってさみしくなったり、自分の妹なのにというプライドとか……なんかその辺が傷ついたり……してるんだろう、多分。
こんなんじゃ彼女に本当に振られちゃうよ! 私のせいで! 彼女には嫉妬するけど、それはご勘弁願いたい!!
思い虚しく坊っちゃんは振られていた。
というか、もう結構前から駄目だったんだって。
どっちも初めての彼氏彼女で、なんとなく別れていなかったから会えば話すし、二人で会ったりもしていたけど、失踪した時から心はもううんたらかんたら。ようやく今回一連のカタが着いたから、二人で話し合ってきちんとお別れしてきたと。
……そ、そうかなあ? 彼女結構真剣に坊っちゃんのこと考えてた気がするけど。
まあ二人のことは私にはわからないので、あんまり考えないように…………嬉しがっちゃ駄目!
坊っちゃんにはしっかりと次の彼女でも探してもらわないと。
このままじゃモンスターの面倒をみるだけのモンスターおじさんになってしまう。
何よりも、私が坊っちゃんをいつまでもどこまでも独占したくなってしまう……。
欲望が……欲望に負けたら駄目だ……!
彼女は失踪後でも私と話に来る程度には気持ちがあったみたいだし、何回どう考えても破局の原因は私。やはり、まず私が自立しなければならないのだ。そして坊ちゃんには妹離れしてもらわないと。
いい加減坊っちゃんにお世話されているようでは駄目だ。もう幼虫形態じゃないんだから。人を襲う容疑は無事晴れたし、いい大人!
触覚と翅とか隠せばギリ人間として隠れモンスター生活できるかもしれないし!
私は独り立ちを決意する。




