36・我が家、これから◇
そもそも坊っちゃんもそろそろ大人と言って差し支えない年齢なのだし、独り立ちし始める年齢でもあるよなあ?
私は独り立ちと言ってもギルドへの定期連絡とかあるし、人の監督役が必要だから、一生パパンとママンのお世話になることは確定しているんだけども。……私の寿命ってどのくらいなんだろう。モンスターだからな……人より短ければまだマシで、長すぎて何人ものご主人を点々とするようなことになるのは辛そうだから嫌だな。
蚕蛾に近い見た目をしているし、成虫になった今、思った以上に寿命が短い可能性もある。みんなより長生きしすぎも嫌だが、数週間……もう何ヶ月か経ってるけど、早く死んでしまうのも悲しい。
そもそも姿が多少似ていたところで生態は全く違うから、この辺りは未知数だ。お兄ちゃんは普通に肉食だったし、成体になっても私はごはんをたらふく食べられるのである。糸も出せるしね。
その日は漠然とした将来のことを考えては不安になり、寝不足だった。
ちょっとうとうとしてたら坊っちゃんが来て、大丈夫だよ―って背中をぽんぽんと撫でてくれた。なぜわかるのか。……まあ幼虫時代ずっと私のメンタル処理してた坊っちゃんからしてみれば歴然でお茶の子さいさい、いつものこと程度なのかもしれない。
これはよくない。私マジで一生坊っちゃん引っ張っちゃう気がする。
坊っちゃんが仕事に行った後、離れの仕事場へ向かおうとするパパン達を引き止めて、私は坊っちゃんからの独立を宣言した。
ママンは驚いていた。パパンは神妙な顔をしていた。
立派な私の決意表明を聞いても、二人の反応はひょろっとしていた。
この反応、あれだ……牢屋の時と一緒だ。気にしなくていいのに、とか全く同じ事を言っている。なんでだ。息子をモンスター漬けにしたくはないだろう。
最終的に、まあ、頑張ってね。応援はしないけど、とか言ってくる。だからなんで。
私は一人で頑張ることになった。いや独り立ちなんだからそもそも一人で頑張れよって話なんだけど。
やはり独り立ちと言えば、まず仕事だ。私は糸を紡ぐ。
もっとお金稼げるように良い糸を追求しよう。色んなウリとか考えたりして売り込みをかけて……私の糸ってどこに卸してるんだろう? そういうのも自分で出来るようになれば、皆の負担が減るよね。
断られた。
いつも冒険者ギルド経由で糸は捌いているらしい。今は坊っちゃんの担当。
今後ギルドに行かねばならない時もあるのだから、私一人でも出来るようにしようと提案したら一も二もなく却下された。
なんでと聞いたら危ないからだと言われ、知る人は知る偉い人すら着用するような糸を生産する、なんなら今回の騒動でだいぶ有名モンスターになってしまった私が、単独行動は襲われる危険性があるから……と。
ぐうの音も出ない。自分の身を守る武力すら無いこの身を私は初めて呪った。
シャープな人の時みたいなことになったりするのは勘弁願いたい。体を鍛えるべきか……。鍛えたら鍛えたで危険視されそうで困るな。自衛くらいなら許される気がする! そもそもアレか、自衛のためとは言えモンスターが人を傷付けたら悪いのこっちになりそうなやつか…………つ、詰んでる。ぐぬぬ。
行きたいなら一緒に行こうか? それならまあ……と坊っちゃんは言う。
それじゃ意味ないよ。
次の手を考えようと会話を切り上げようとしたら、ママンが割って入ってきて、そうね、たまには一緒に外に出かけて来たら? なんて言う。
いや今外危ないって言ったばっかじゃん。坊っちゃんに護衛の真似事させるのも迷惑でしょ……。と抵抗しても、結構ママンは強く押してくる。
この街で一躍有名になってしまったのなら、逆に近隣住民と交流してマスコット化した方が良いと言うのだ。御当地アイドルかなんかか?
まあでもママンがここまで強く言うなら従っておいたほうが良いのだろう……。
御当地マスコットに、私はなる!
坊っちゃんは嬉しそうだった。
そういえば二人で散歩するのも久しぶりだ。しかも今度は庭じゃなくて街中をだ。私も素直に楽しみにすることにした。




