29・拘束期、牢屋◇
◇◇◇
目が覚めたら、身体が拘束されていた。結構きつくがちがちに固められているようで、ちょっと痛い。
でもとりあえず命は助かったらしい。やったぜ。
やはり私の滲み出る優しさ、賢さが功を奏してしまったか。
ここからだ。坊っちゃんが助けてくれた命、大切にしなくては。
絶対に生きてみせるぞ!
私は常に見張りが外に立つ牢屋へと放り込まれた。
身体は簀巻きのように拘束されたままである。さて……。
その内に、ガーメインとの面談が始まった。勿論牢屋越しに拘束されたまま。
こうしてるとついこないだまでの幼体時代みたいだな。うごうご。
最初に対話できるのかの確認。私の目的とか、どこから来たのかを知りたいらしかった。
「暗い、とこ。いた。」
「生きる、もーす、とぉーさん、かぁさん、助け。楽しい! 生きる。くだもの。」
好物アピールもすかさず入れておく、抜かりないかしこモンスターである私。
坊っちゃんの方は大丈夫かな? 気になる。
「もーす、だいじょぉぶ? もーす、元気?」
ガーメインは答えない。無視である。虫を相手にしているだけに。
坊っちゃんたちに酷いことしてないと良いけど……。私自身はまだ討伐されるようなことしてないんだけどなあ。
ガーメインが何を考えてるかはわからないが、今は敵意も殺意も感じない。
一通り問答が終わったら、最後にご飯が出てきた。二つ。
片方は肉、もう片方は麦っぽいのがべちゃっと入ってるお皿。美味しくはなさそう。
肉食べないか試されてんのかな―これ。以前の暗黒時代が頭によぎる。
というか、この格好で食べろというのか。幼虫形態じゃないから微妙に食べづらいぞ。
ぺろぺろ、もちゃもちゃ……。すぐ疲れた。
味も美味しくないし……坊っちゃんと一緒に食べたその辺の草の方がなんぼか美味しかった。それは坊っちゃんと一緒に食べたご飯だったからか。
今は無表情の男にじっと見られながら、這いつくばって食べる非常に食べづらい飯だもんな。私はやる気を無くした。
「もーす。もーす、ごはん、くだもの。もーす、とこ……もーす……。」
せめてモースの無事を確かめたいな。
それからしばらくは、たまに来るガーメインと話したりご飯食べたりするだけ。
余りにも暇すぎてやることもないから、私は坊っちゃんの名前を呼んだり大して上手くもない歌を歌って過ごしていた。うるさすぎたのか時々見張りの人に怒られたりしたが、そのうち中には一緒になって歌ってくれる人とかが現れて、人によって私への対応はバラバラなのがわかった。
もちろん怒ってくる人の前では静かに過ごせるモンスター。賢い! 偉い!
ある日、モースの彼女がやって来た。モースどうしてるか知ってる?
ちょっぴり嫉妬心が疼く。しかし私はもう身体的にも大人なので、そんなことはおくびにもだしません! 坊っちゃんと末永くよろしくやって下さい! うわぁん。
彼女はモースのことを私に訴えているようだった。解放してあげてとか、なんとか?
「もーす、いのち……」
助けてくれたんだよ。
「もーす、とぉさん、かぁさん、しあわせ。助け、おねがい。」
勿論、あの家族にはこれからも幸せに生きて欲しい。
私が邪魔ならどっかいくからさ……で、元気なの? 今。
彼女は私の質問には全く答えてはくれませんでした。見張りの人もそんな感じなので、戒厳令でも敷かれてるんだろうな。
私の情報も伏されてるのかな? 坊ちゃん心配してないといいな。
そのうちに拘束は解かれた。害がないって、ちょっとは信用されただろうか?
解かれた所で暇なのは変わらず、坊っちゃんの行方もわからないままだ。
みんな元気にしてるかなあ。
思い出して悲しくなると、相変わらず隅っこに行ってしくしく震えて泣いたりする。
ご飯もいつも美味しくない。ガーメインに訴えかけてみたら、そんな予算はないで一蹴された。く、くそう……。
あくる日、昔私に無体を働いたシャープな男が部下と共にやって来た。
げぇっ! なんでここに!!
私は壁に張り付いて逃げた。狭いから大して逃げられもしない。
ついでに糸で口元をガードする。簡易糸マスク!
私の反応を見て、男はまたゲラゲラ笑った。なんなんだ……怖い。
なんか自分とこに来るなら出してやれる的なことを言い始めた。ご飯も今度は美味しいの出してやろうか? とか。え、やだ怖い。果物好きって知ってるのも怖い。
勿論拒否! 全力で拒否を示してから、一応この人にもモースの事を聞こうとして、自分でやった口マスクで口開けられなくなってたのを取ってる間に男はさっさと帰ってしまった。私の拒否反応見て馬鹿笑ってたくせに帰るのはえーな。
手が使えるようになったので、つまんなすぎる牢屋生活、糸絵でも描いて過ごそうとした。
うるさくしたら怒ってきた見張りの人も、これなら文句を言うまい。口から糸垂らしてるのを認識した時、だいぶビクッとしてたけど。
一緒に歌ったりする見張りの人は、手元でもじゃもじゃやってるのを見たら興味深そうに尋ねてきた。この人は大変ノリが良い。
ノリの良い人には完成した糸絵を披露したりする。めっちゃ褒められたりして、気分が良い。この人は陽気で、なんだかすごく友好的だ。
私は段々縮んでいる気がしなくもない。そもそもご飯の量が足りないのだ。この前なんかあの恐怖のシャープ男が来たことで、さらに身体こと萎縮した気がする。
あの男どう見ても闇社会の住人なのになんでここまで堂々と来られるんだ。まさか街の有力者なのか……? 一番ヤバイやつじゃん。坊っちゃんたち本当に大丈夫?
私の前に出されるご飯には、相変わらず肉がある。手を付けたことはない。
あのシャープ男のように、やはり試しているのだろうか。ここの人達は人間に危険が及ばないか判断したいだけだろうけど。……まあ食べなければいいだけだし、仕方ない。
ある朝、陽気な人にこそりと打診された。
ここから出たくない? と。
なんと! 私の処分が決定されたらしい。私はしおしおとしおれて、しくしく泣いた。
陽気な人は私に死んでほしくないと言ってくれた。
「モース、会う、ない……。」
最後にひと目でいいから、坊っちゃんに会いたかった。
陽気な人が言った。ここから自由になれば会えると。
私は断った。逃げたらこの人にも坊っちゃんにもまた迷惑かけちゃうじゃん。
私はオイオイと泣いて、さらにしなびた。もはやご飯を食べる気力すら出なくなっていた。




