28・拘束期◆
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ガーメインも、まんじゅう――今のこいつを人前でまんじゅうと呼ぶのは違和感がすごすぎて、新しい名前を付けた方が良いとは思っているのだが――を囲んでいた人間も、俺を捕まえて連れ出そうとしていた人間も、彼女も。その場に居た全員が驚き、動揺していた。
人の形をしたモンスターが喋り、目の前で子供みたいに泣きじゃくっていたのだ。
その悲痛な泣き声も今は止み、まんじゅうは突っ伏したまま沈黙してしまった。
今にもまんじゅうを攻撃できるようにと囲んでいた者達も、大きな人の形をした、まるで子供のようなそれを前に、躊躇いばかりが表出している。
まんじゅうの泣き声を聞くのは本当に辛かった。あんなふうに大声で全力で泣くのは初めてだ。すぐそばに駆け寄って、抱きしめ、撫でてやりたかった。
とりあえずはまんじゅうが危ないことを考えて居なくて良かった。ほっと息を吐き出す。
ナイフを見る目が、まさか自分に向ける気じゃないかと感じたのは杞憂だったようだ。
「ガーメイン……見ただろう、今のこの子の行動を。危険なんかないんだ。」
「喋った……喋ったぞこいつ、いったいなんなんだ……。」
「尋問するのは構わない。だけど、その子をむやみに殺すのだけは止めてくれ。頼む……。」
「…………。
こいつはなぜ急に黙って、じっとしている? こっちの隙を伺っているんじゃあないのか。」
「……多分、泣いて疲れて……寝てる。子供みたいなやつなんだよ。」
俺は空気と共にゆるんだ拘束をいいことに、まんじゅうに近寄った。
「あ、オイ!」
完全に力の抜けたまんじゅうを持ち上げて、ガーメインに見せる。かなり重い。
正直可愛い顔だと思う。失せろ煩悩。こいつは妹こいつは家族で妹で、モンスター!
「なんでこんな姿なのか、喋れるのかは俺にもわからないよ。繭化する前から言葉を理解しているようではあったから、元々賢い固体なのだとは思う……。
俺が昔から、様々なモンスターを調べてたのは知ってるだろ。全部、こいつのことを知りたいと思ってやってたことだ。結局、今も、こいつ自体の事は何もわからないままだけど。」
「……気絶してるなら丁度良い。拘束はさせてもらう。
モースも邪魔はするなよ。」
「頼むから傷つけないで欲しい……。本当に、優しい子なんだ。」
「これは、俺達だけで抱えられる問題じゃない。
もっと上に……話を聞いた方がいい事のように思う。」
「ガーメイン……!」
「モースは一度家に帰れ。……親御さんも、ずっと心配していた。
……話してどうなるかまでは、責任は取らんぞ。そのまま処分を望まれれば、私はそうする。」
「…………。」
「連れてけ。」
はあぁ、と、一旦、張り詰めて限界になっていたものを吐き出す。
取り敢えず、ひとまずはこれで、まんじゅうの命は延命されたはずだ。
これからどうなるかは未知数だが、俺は、まんじゅうを救いたい。
みすみす死なせるなんてまっぴら御免だ。なんとしてでも……この街を捨ててでも、まんじゅうを見捨てたりはしない。
「モース、あなた……。」
彼女のミモラが、何か言いたげに喋りかけて、口ごもった。
「ごめん。」
俺もそれしか言えなくて、黙る。
まんじゅうはかなり強固にぐるぐる巻きにされ、運ばれていた。可哀想に。あれでは後々体が痛くなるかもしれない。
彼女のこともそこそこに、ずっと気になり、気にするのはまんじゅうのことばかり。そのまんじゅうは、見た目が女に近い。
……帰ったら振られるかもなんて、俺は今、そんな事を気にしている余裕もない。
ギルドへ連れて行かれるまんじゅうを、名残り惜しく見届ける。
流石に俺にまんじゅうの拘束場所を教えることはないだろう。親元に帰れるだけでも随分優しい対応だ。
家に戻れば、父さんたちに叱られた。
顛末を話せば悲しまれ、後悔された。言ってくれれば、自分達ももっと何かできることがあったのに、と。父さんたちもまんじゅうを心配していた。
俺は焦って選択を間違えたのだろうか……? 話していれば、今よりもっと良い未来を迎えることができただろうか。
後悔しても仕方がない。今はまんじゅうを助けることを考えなければ。
人型の、喋れるモンスター。俺達は今まで聞いたことも見たこともなかった固体。
上の人間なら、何か知っていることもあるのだろうか?
他国で暴れた蛾のモンスターはどうだったのだろう? もしもまんじゅうと似たような姿をしていたならば、まんじゅうの生存確率は大幅に下がるのでは。
まんじゅうは大人しいから、逆に利用価値があるとして生かされるだろうか。
しかしそれではまんじゅうが戦わされたり実験されたりしそうで、心配だ。
なんとかまんじゅうの有用性を示して生存権を獲得し、できれば俺にしか飼育できないと認めさせられれば……そこまでは、高望みだろうか。
逆に、とことん何もできない無力なものだと思わせた方が、解放されるのかもしれない。まんじゅうにならそれができる。
どれも駄目なら……自分が罪人になってでも、なんとしてでも連れ去るしかない。
ため息を付く。
まんじゅうは大切な家族だし、守りたいし、生かしてやりたかった。
その気持は変わらなくある。しかし今は、繭を持ち出した時とは違う執着が生まれつつあるのを、自分でも自覚じ始めている。
「困ったな……。」
後日、俺達家族は全員がギルドで取り調べを受けた。
父さんは入手した経路も含めて。
俺は飼育中のこと全て。おかしなことはなかったかどうかなど。
まんじゅうの生態については、サヴェルノからのハッキリとした、あのモンスターは肉を食わないよと言うお墨付きが出たらしい。あの人はヤバい人間ではあるが、嘘は言わない。気に入ったものには親切になる人でもある。まんじゅうは気に入られたらしい。飼育は俺達家族に任せた方が良いとまで、言葉をくれたようだった。
誰も制御できないような人だけど、謎に信頼だけはされている。なぜだろう。二度と関わりたくはない。
牢の見張りに立っていると言うハリーが、もしもまんじゅうに危険があるようなら必ず知らせると密かに約束してくれた。頼もしい。そんな時は来てほしくないが、その時は必ずまんじゅうを奪取して逃げようと心に誓う。
さらに何日も経ってガーメインから、まんじゅうが弱ってきていると聞いた。ますます心配になる。
大人しく質問に答えてはくれるが、事ある毎に俺や父さんたちを呼んでいるとかで、よく泣いているらしい。まんじゅう……。
あれから、ギルドの統括からは返事が来たと聞いた。押し留めて様子を見ろとのことで、今は現状維持だ。
牢からは出られないが、まだ命を取られないようでほっとする。
今日は、まんじゅうとの面会を許された。久しぶりに会えるあいつに、好きだと言っていた果物を持って行くことにする。すごく喜ぶだろう。




