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25/34

25・羽化、これから◇ ・助けたい◆

   ◇◇◇


飛べれば遠くに逃げるのもそう難しくないだろうと思っていたが、徒歩か……この図体で、徒歩。しかも人間を避けながら、何がどこにあるかも何一つわかないままの私が。難易度高いな。


しかしまあ坊っちゃんはこれ以上頼れないと言うか、頼っちゃ駄目って言うか……。

だいぶ体の使い方に慣れたと判断してから、私は坊っちゃんに宣言した。


「まんじゅ~、一人、大丈夫。完璧! もーす、家帰る。して?」


服も帰す。坊っちゃんの服を私が身に着けていたら言い逃れできないから。


坊っちゃんは、なぜかごにょごにょしだした。

どう考えても私が心配だとかなんとか。そんな馬鹿な。私は今や坊っちゃんより大きいんだぞ! 幼体時代とも比べ物にならないほど俊敏になった。散歩だって、もう坊っちゃんに頼って連れて帰ってもらったりはしないんだぞ。まだ口を動かす時にちょっと手間取ることもあるが、喋りだって完璧! いざとなれば人間と対話も試みることができる!


食べ物も好みがあるくせにとか言ってくる。


食べ物はでも……最悪草さえあるところなら生きてけるしさあ……。

坊っちゃんだって私の、巧みに糸を使った密かなる採集能力にびっくりっていうか、若干引いてたぐらいは認めてくれてるでしょ?

幼体時代の食事が恋しくないか、実なんかを私一人で探せるかで言うと自信はない。坊っちゃんが居なくなった時の私の生活水準はすこぶる怪しいのは確か。


ええい、坊っちゃんは何をそんなに渋っているのか! 別れが惜しくとも、私はモンスター、坊っちゃんは人間なんだから、お父さんとお母さんも居る街に帰った方が絶対にいい。そう伝えると、坊っちゃんはこれまでにないほどの悲しい顔をしていた。

ウッ そんな顔をされると私まで辛い。

なんでだよー、お別れしたくないのかよー。

そりゃ私だって坊っちゃんとお別れなんかしたくないよ。坊っちゃん好きだもん。

正直滅っっっっ茶苦茶、坊っちゃん好きだもん。

優しいし、守ってくれたし、坊っちゃんが前とはちょっと違って、私を若干人間扱いしてくれるようになったから気付いちゃったし。以前の彼女紹介の後に私が荒れた理由が反抗期じゃなかったって。


好きなんだよ坊っちゃんが。でも坊っちゃん、人間じゃん。

私のことも昔からいる大事な家族(ペット)ってだけ、私の方が前世合わせて歳上なのに、良くて弟みたいな扱いだって知ってるから。ここでお別れしたほうが絶対に双方にとって良いと思うんだよなあ。大変辛いけどさ。


私は珍しくも全然上手に話せないまま、さよならしたほうが良いと主張した。

ポロポロと涙が出てきて、震えちゃうくらいは許してくれ。坊っちゃんはこの程度で情に惑わされないでほしい。


おもむろに、坊っちゃんは私に胸を貸してくれた。今は私より小さいのに、幼体時代と同じ用に、今度は頭を、翅をヨシヨシしてくれる。ウッ……翅はちょっと私の弱点っぽいからあんまり触らないでほしいな……。

飛べないくせに無駄にデカいし弱点とか、邪魔な翅だな!


その日は坊っちゃんが、もうちょっと一緒にいようとか、一緒に居られないか考えてみようよとか、あまりにも優しい声音で語るものだから、昔と同じようにそのまま寝てしまった。だめだ~私も坊っちゃんに抗えない~~。坊っちゃん恐るべし。


   ◆◆◆


まんじゅうが、自分は大丈夫だから帰れと言い出した。

自分の今後が不安でたまらないと言った様子なのに、なぜか俺の方を心配している。


服も俺に押し付けて、こんなに色々できますよ! とアピールしてくるが、どれもこれも大したことはない。元々と大差もない。

自分で飯は採れるのかと聞けば、口ごもる。正直なやつだ。


その姿になっても相変わらず糸は繰り出せて、扱いは巧みだった。希望があるとすればそこだが、まんじゅうがそれを今後もきちんと生活に役立てられるのかどうかは疑問がある。


余りにも帰れ帰れと推してくるものだから、悲しくなる。

たしかにこのまま両親に二度と会えないのは悲しいが、俺はこのまままんじゅうと別れたくもなかった。


いつになく一生懸命に話す姿が愛おしい。

さよならするのが一番いいみたいなことを健気に、震えてつっかえながら言うから、こっちも余計に悲しく、胸が詰まる。

どう見ても俺を慮るあまり、無理して我慢しようとしている。あのまんじゅうが。


もういいから、もういいよと、まんじゅうの顔を胸に押し付けて、撫でる。

翅を撫でた時、ビクっと嫌がる様子を見せたから、翅に触れられるのは苦手なのかもしれない。今後は触る時には気をつけないとな。


結局しくしく泣いて震えてしまったので、二人で横になりながら、もうちょっと一緒にいようとなるべく落ち着いた優しい声で言い募る。内容はともかく、このぐらいのトーンならまんじゅうは落ち着いて寝ると思った。

実際すぐ寝た。



まんじゅうを助けたい。

一緒に暮らした家族であるというだけでない何かが、俺の中で燻っていた。

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